HOME雑 誌medicina 内科臨床誌メディチーナ > 病理との付き合い方 病理医からのメッセージ
●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】

第4回テーマ

婦人科

山本 宗平・津田 均(防衛医科大学校第二病理)


 婦人科領域は,病理診断用に提出される検体数も多く,日常診療において病理診断が特に重要な役割を果たす分野の一つである。特に腫瘍では,病理診断は子宮癌,卵巣癌の病期や治療方針決定に大きな影響を果たす。また婦人科領域独特の診断名,例えば前癌病変(上皮内腫瘍または異形成),境界悪性腫瘍や複雑で独自の腫瘍分類法などが採用されており,臨床側もこれらの診断名・分類法の意義をup to dateで理解している必要がある。

 本稿では,婦人科腫瘍疾患のなかでも特に重要と思われる子宮頸部・子宮体部(内膜)・卵巣に焦点を絞り,各領域における病理診断(細胞診を含む)の有用性,組織採取の注意点,病理組織(細胞診)検査依頼用紙に記載する際のポイント,報告書の読み方などを中心に概説する。

■子宮頸部領域

1. 病理診断の有用性

 子宮頸部異形成(dysplasia)と上皮内癌(carcinoma in situ)は,合わせて子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)とも呼ばれる。基本的に無症状で,検診における細胞診やコルポスコピーによる異常所見指摘を契機として見つかることが多い。パンチ生検による病理診断が最終診断となる。浸潤癌は細胞診のみで診断可能であるが,通常確定診断として生検が行われる。高齢者では移行帯の消退を原因とする細胞診と生検診断の不一致例もあり,内頸部を狙ったキュレッテージ(掻爬)や円錐切除が必要なこともある。

2. 組織採取の注意点,病理申し込みのポイント

 一般的に,コルポスコピー所見の強い部分の組織を複数大きめに採取することが確実な組織診断への鍵となる。また,コルポスコピーの所見,推測病名,浸潤癌の可能性,生検部位などが申込書に記載されていると要望に応じた報告の作成が可能である。手術標本は,原則前壁切開し,さらに底部から両側卵管角まで切開して子宮内の病変を可視化したのちホルマリン固定する。円錐切除標本は0時の方向で切開し,扇型に展開してから固定する。

3. 報告書の読み方

 子宮頸癌取扱い規約(1997)では,子宮頸部異形成は“重層平上皮または化生平上皮の一部あるいは全部の層に種々の程度の異型を示す細胞がみられるが,上皮内癌の基準を満たさない”病変と定義されている。異形成は軽度,中等度,高度に分けられ,それぞれコイロサイトーシス〔human papillomavirus(HPV)感染による特徴的な変性細胞〕を示さない異型上皮が上皮全層の基底膜側より1/3以下,2/3以下,2/3以上~全層未満を占める病変とされ,全層を異型上皮が占めたものを上皮内癌に分類する。高度異形成と上皮内癌との境界は明瞭でないことも多く,CIN分類では両者をCIN 3として一括して取り扱う(表1)。高度異形成以上は治療の対象とされるが,1993年提唱されたベセスダ方式では中等度異形成(CIN 2)以上を高度平上皮内病変(high grade squamous intraepithelial lesion)と呼び,治療対象としている。

表1 取り扱い規約,CIN分類,ベセスダ方式の比較
異形成
-上皮内癌分類
(取扱い規約)
軽度異形成 中等度
異形成
高度
異形成
上皮内癌
CIN分類 CIN1 CIN2 CIN3
SIL分類
(ベセスダ方式)
low grade SIL high grade SIL
CIN:cervical intraepithelial neoplasia,SIL:squamous intraepitheliallesion

 浸潤癌への進展(progression)は,平上皮化生→軽度異形成→中等度異形成→高度異形成→上皮内癌→浸潤癌の一連の流れで理解されている。高度異形成の癌化リスクは13.7~16.4%,上皮内癌を追跡して浸潤癌になる頻度は約70%である。頸癌の組織型は主に平上皮癌(80%)と腺癌(10%)であるが,稀に小細胞癌や腺平上皮癌,腺様嚢胞癌,癌肉腫などさまざまな型がみられる。

 前述のように,中等度~高度異形成,高度異形成~上皮内癌の境界は,時に不明瞭であり,診断者の間で差異が生じる場合がある。病変の進展がみられた場合は,従来のフォローアップのデータを参考にし,必要があれば病理側に確認し,再検査も考慮することが望ましい。

(つづきは本誌をご覧ください)