●病理との付き合い方 病理医からのメッセージ | |||||||||||||||||||||||||||
第9回テーマ 病理診断で用いられる染色法 菅井 有(岩手医科大学医学部臨床病理)
■免疫組織化学免疫染色は組織切片内に含まれる物質(主に蛋白質)の同定のために用いられる。組織像と対比可能なことから,病理診断には不可欠の方法である。免疫染色の基本原理については成書を参照してほしい1)。最近,多くの検査室で免疫染色の自動化が成されてきている。自動免疫装置はいくつかのメーカーから市販されている。免疫染色の所要時間は,自動染色機の場合,未染切片が用意されていれば1日で染色可能である。しかし,それらは染色枚数にも影響されるし,技師数にも関係する。加えてHE所見と免疫染色の結果を総合的に判断する知的所要時間はケースバイケースであるから,病理医とよく相談することが必要である。 日常使用されることの多い免疫染色の使用パターンは以下のようである。 1. 未分化癌と悪性リンパ腫との鑑別上皮性マーカー(EMA,サイトケラチン(CK)など)が陽性に染色されれば未分化癌の可能性が,LCA (lymphocyte common antigen)が染色されれば悪性リンパ腫とされる。上皮由来であるからといって必ず上皮性マーカーが染色されるとは限らないので,複数の上皮性マーカーを組み合わせて診断することも多い(扁平上皮癌は高分子サイトケラチン陽性,腺癌は低分子サイトケラチンやCEAが陽性のことが多い)。2. B細胞とT細胞の同定B細胞にはCD79aとCD20(L26)が用いられる。T細胞の同定にはCD45RO(UCHL1)とCD43(MT-1)が使用される。リンパ腫の由来の同定まで行うことがリンパ腫の病理診断に要求される(一般にB細胞リンパ腫に比較してT細胞リンパ腫のほうが予後不良とされる)。3. リンパ腫の鑑別診断濾胞形成性病変の鑑別には,表1に示すような抗体の組み合わせが有用とされている。リンパ腫におけるbcl-2とCD10の発現は濾胞性リンパ腫に特徴的とされる。マントル細胞リンパ腫の診断にはCD5とcyclin D1の発現が有用である。最近では,消化管や甲状腺に起こるリンパ腫でMALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫が注目されている。免疫染色では疾患特異的な抗体はなく,上記の抗体を用いた場合も除外診断的意味合いになる。詳細は他の成書を参照してほしい2)。
4. 未分化癌と肉腫の鑑別上皮性マーカーが染色されれば未分化癌が示唆され,ビメンチンなどの非上皮性マーカーが染色されれば肉腫が考えられる(あくまで原則論)。サイトケラチンが陽性の肉腫があるので,判定には注意が必要である(滑膜肉腫,類上皮肉腫,悪性横紋筋腫など)。実際には免疫染色では鑑別できないこともあり,最終的にはHE所見を再度詳細に検討し直すことが重要である(明らかな上皮由来の部分を見つける,など)。組織像から診断しにくい腫瘍として悪性黒色腫がある。メラニンが有力な診断マーカーであるが,認識しにくいものがある(amelanocytic melanoma)。その場合,S-100蛋白やメラノソーム (HMB45)の染色が有用である。(つづきは本誌をご覧ください)
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