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●病理との付き合い方 病理医からのメッセージ

第6回テーマ

病理解剖

新井 冨生(東京都老人医療センター臨床病理科)


 病院における病理医の仕事の一つに病理解剖がある。病理解剖は亡くなられた方を対象とし,全身を検索対象とする点で,生検,手術標本,細胞診と異なる。また,医療の高度化に伴い最近臨床医も専門化,細分化が著しく,全身をみる病理解剖は意義深いと考えられる。病理解剖の主な目的は死因の特定,病態の解明,治療効果の判定などであり,医療における精度管理の役割もある。本稿では,まず病理解剖の法的事項に触れた後,病理医からのメッセージ(表1)を時間的流れに沿って紹介する。

■病理解剖に関する法的事項

1. 死体解剖保存法

 病理解剖の実施は法律に基づいて行わなければならない。本来,遺体を傷つけることは刑法190条死体損壊罪にあたる犯罪行為であるが,法律で規定された範囲内では遵法行為となる。死体解剖は1949(昭和24)年に制定された「死体解剖保存法」により実施されている。この法律には,解剖の目的,実施の手続き,解剖の執刀者,解剖実施場所などが規定されている。

1) 遺族の承諾
 解剖の実施にあたっては,まずご遺族から承諾を書面で得なければならない。死体解剖保存法には半世紀以上前の承諾書が示されている。しかし,時代の流れとともに不都合な点もみられ,独自に承諾書を作成している病院も多い。また最近では,日本病理学会も承諾書のモデルを提示している(図1)1)

2) 死体解剖資格
 解剖を執刀する者は,原則として死体解剖資格を取得する必要がある。この資格を取得するには,医師・歯科医師は指導者の下で2年間,20体以上の解剖を経験し,書類を作成して厚生労働省に申請しなければならない(医師・歯科医師以外は5年間,50体以上)。この資格の認定作業は現在,1年に1回しか行っていないので,申請時期によっては認定書取得に1年前後時間を要することがある。一方,資格がない者でも事前に所轄の保健所長の許可を得ることにより解剖できる。

3) 解剖室
 病理解剖は通常病院の解剖室で行うが,緊急時などでは所轄の保健所長の許可を得れば解剖室以外で行うことも可能である。

2. 病理解剖以外の解剖

 死体解剖には病理解剖以外に,系統解剖,行政解剖,司法解剖がある。

 系統解剖は正常解剖とも称され,医学・歯学教育課程において解剖学の実習として行う解剖である。その目的は人体の構造や機能を理解することにあり,大学などの教育機関で行われている。遺体の提供者は生前から献体を申し出ている篤志家によることが多い。

(つづきは本誌をご覧ください)


文献
1) 社団法人日本病理学会会報 第203号.平成16年12月刊(2005/01/05).http://jsp.umin.ac.jp/kaiho.html