第4回テーマ
細胞診
村田 哲也(JA三重厚生連鈴鹿中央総合病院中央検査科)
細胞診とは
1. 細胞診とは
細胞診(cytology)とは,細胞を顕微鏡で観察し,病態の診断を行うことである。病理組織診断と同じ目的であり,ともに顕微鏡を用いて細胞を観察することからしばしば混同されるが,検体採取や標本作製などの点でいくつかの違いがある。本稿では細胞診の実際や注意点,細胞診における医師と臨床検査技師とのコラボレーションなどについて述べる。
2. 細胞診の歴史
細胞診はパパニコロウ(Papanicolaou)らによる婦人科領域における子宮頸癌の診断に用いられてから,主として婦人科医の間で広まっていき,次いで肺癌診断のための喀痰細胞診や胃癌診断のための胃洗浄液細胞診など内科医や外科医にも広まっていった(column参照)。わが国においても細胞診を扱う学会である日本臨床細胞学会は婦人科細胞研究会を母体とし,婦人科や内科・外科など臨床系の医師が細胞診専門医(指導医)を取得する例が多かった。近年では病理医も積極的に細胞診業務に参画するようになり,病理医の細胞診専門医(指導医)取得も増加してきている。
column 臨床医と細胞診
現在では胃癌や胃潰瘍などの診断に,内視鏡検査と直視下生検が広く日常的に行われているが,内視鏡の黎明期には生検のみならず病変の直視さえも困難であった。この時代には内視鏡以外に,ゾンデで胃内に生理食塩水を散布,回収して細胞診(胃洗浄液細胞診)を行って診断していた。2004年にリバイバル放送された「白い巨塔」の原作はちょうどこの時代の話で,近畿がんセンターに移った里見医師が早期胃癌疑い症例に対して胃洗浄液細胞診を行うシーンが描かれている。ちなみに,このときはギムザ染色が用いられている。
また,気管支内視鏡で併用される気管支擦過細胞診は,日本医師会前会長の坪井栄孝氏が国立がんセンターに勤務していた頃に開発・改良したものである。
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細胞診の対象と方法
1. 細胞診の対象
細胞診とは,基本的に「固形物として採取されない」状態の検体に対して行われる形態診断学である。検体が手術材料や生検材料のように固形物として得られる場合は,ホルマリン固定後に病理組織診断が行われる。逆にいえば,ホルマリンで固定できない検体が細胞診に供される。具体的には子宮膣部などの擦過検体,体腔液や尿などの液状検体,喀痰などゲル状検体,乳腺や甲状腺腫瘍に対し病変を針で穿刺吸引することによって得られた検体などである。また,病理組織診断の補助として,生の病理組織検体からスライドガラスへ細胞を捺印する捺印細胞診や,小さな検体をスライドガラスで押しつぶして広げる圧挫細胞診も行われる。
細胞診の方法や対象となる臓器・疾患を表1に示す。主として腫瘍性疾患が対象となるが,炎症など他の疾患にも応用される。液状検体はまず,遠心分離器で細胞を集め,それをスライドガラスに塗抹するが,それ以外の細胞診は基本的に検体を直接スライドガラスに塗抹もしくは捺印する。パラフィンブロックで保存され,再薄切により追加標本作製が可能な病理組織検体と異なり,細胞診ではスライドガラスにのっている細胞が標本のすべてとなる。
2. 細胞診の固定と染色法
固定方法も病理組織診断と異なる。通常行われる固定は湿固定と呼ばれ,アルコール(一般に95%エタノール)で検体を固定する。染色は湿固定の場合,Papanicolaou染色が標準である。ホルマリンによる病理組織検体に比べ,細胞診検体は固定時間が短いことが特長である。湿固定で通常5~15分程度で固定は完了する。標準的な細胞診検体作製の流れを表2に示す。ギムザ(Giemsa)染色には乾燥固定が行われ,室温の送風機(ヘアドライヤーなど)を使用すれば,1分程度で固定が完了する。
3. 細胞診の診断所要時間
細胞診検体は固定に要する時間が病理組織検体に比べ短く,Papanicolaou染色に要する時間も比較的短いため,検体採取後から診断報告までに要する時間(turn-around time:TAT)は病理組織診断より一般に短時間である。急ぎの症例であれば,TATは20~30分程度でも可能である。通常は検体をまとめて染色するため,TATは1~3ないし4日の範囲にあることが多い。
細胞診検体提出に関する注意点
細胞診は,液状検体を除いて,検体を採取した部署で固定処理がなされる場合が多い。以下に,適切な検体提出方法と注意点について記述する。
(つづきは本誌をご覧ください)
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