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●内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応

第8回

性格が偏っている人
――人格障害

中尾睦宏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学・心療内科)


 診療に限らず,身の回りや職場のなかでいわゆる「困った人」や「変わった人」はいないだろうか? 偏屈なだけならまだ良いのだが,怒りっぽかったり攻撃的であったりするとやっかいである.「あの人何か変わっていない?」と同僚に相談しても,「あれは性格だから仕方ないよ」と返されるのがせいぜいではなかろうか.十人十色ということわざを持ち出すまでもなく,人間にはさまざまな性格がある.多少の性格の偏りは個性として片付けられるが,極端な性格の歪みは対人関係や社会生活での摩擦を頻繁に引き起こす.内科医としては,そうした著しい性格の歪みをもった患者が(自然発生的にも)相当の確率で存在することを踏まえて診療をしないと,手痛いしっぺ返しを受けることがあるので気をつけたい.


■人格障害とは

 医学的には性格異常ではなく,人格障害という用語を用いる.これはpersonality disorderの日本語訳であるが,「人格」という言葉にはポジティブな語感があるので適訳でないという意見もある.最近はそのままパーソナリティ障害と呼ぶことも多い1).パーソナリティとは,環境や自己に対する認知・感情・行動の一貫したあり方を意味する.そうしたあり方が柔軟でなく,適応不良で,著しい機能異常を示すと人格障害と診断される.

 本連載ではうつ病(気分障害),不安障害,身体表現性障害などさまざまなDSM-IV-TR(精神疾患の分類と診断の手引)の診断名を紹介してきたが,これらの疾患カテゴリーは第1軸と呼ばれる精神疾患の診断基準である.実はDSM-IV-TRには第5軸まで診断基準があり,多軸診断をすることになっている.つまり第2軸の人格障害は,第1軸の精神疾患とは区別をして診断をする(表1)2).人格障害は特定不能例を除いて10種類の分類がある.それぞれの特徴を簡単にまとめた(表2).これら10種類の人格障害はA,B,Cの3つのグループに大別されているが,一般内科の臨床で問題になりがちなのはB群であろう.B群の患者は,対人関係に活発に参入してくるため目立った出来事が起きる.その結果,多かれ少なかれ医療関係者や周囲の人々が巻き込まれていくのである.

表1 DSM-IV-TRの多軸診断システム
第1軸: 精神科疾患
第2軸: 人格障害
第3軸: 一般身体疾患
第4軸: 心理社会的・環境的問題
第5軸: 心理社会的・職業的機能の全体的評定

表2 DSM-IV-TRによる人格障害の分類
A群(引きこもって奇妙な態度をとる患者)
・妄想性(猜疑的,警戒心が強い,信頼・協力しにくい)
・統合失調症質(対人接触に関心なし,淡々と距離がある)
・統合失調症型(どことなく「ちぐはぐ」で風変わり)
B群(活発で目立ち,周りを巻き込む患者)
・反社会性(他人の権利や安全を無視し,危害を加える)
・演技性(人目を引きつけようとする,情緒的に不安定)
・境界性(見捨てられることに過敏,態度が極端に変わる)
・自己愛性(自己の過大評価,相手からの批判が許せない)
C群(不安に関連して偏りがある困った患者)
・回避性(他者からの否定的な扱いを恐れ,引きこもる)
・依存性(自尊心を捨てても頼りたい,しがみつきたい)
・強迫性(物事に対し完全主義で,情緒的要素は度外視)
特定不能型

 そのB群の人格障害のなかでも最も代表的なのが境界性人格障害であろう.精神科医・心療内科医・臨床心理士が「人格障害」と言われてまず連想するのが,この境界性人格障害である1).心身症やうつ病との併存も多いと言われている3).実際の症例を参考にしながら境界性人格障害について学習しよう(プライバシー保護のため,一部脚色).

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)狩野力八郎,高野晶,山岡昌之:日常診療でみる人格障害.三輪書店,東京,2004
2)American Psychiatric Association:Diagnostic and statistical manual of mental disorders, text revision. American Psychiatric Press, Washington DC, 2000
3)Nakao M, et al:Assessment of patients by DSM-III-R and DSM-IV in a Japanese Psychosomatic Clinic. Psychotherapy and Psychosomatics 67:43-49,1998


中尾睦宏
1990年東京大学医学部卒業.東大病院で内科研修をして心療内科に入局.1996年に東京大学医学系大学院(心身医学)修了.2000年にハーバード大学公衆衛生大学院(臨床疫学)修了,ハーバード大学医学部心身医学研究所内科講師.2001年に帰国し,現在,帝京大学医学部衛生学公衆衛生学准教授・附属病院心療内科副科長.専門は心身医学,行動医学,職場のメンタルヘルスなど.