HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻3号(2007年3月号) > 連載●内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応
●内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応

第3回

パニック発作

中尾睦宏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学・心療内科)


 パニック発作は,動悸,胸痛,息苦しさといったさまざまな身体症状が突然始まり,精神的に強い不安や恐怖の感情を伴う状態である。発作は10分以内でピークに達し,患者は気が狂ったり,死ぬのではないかという恐怖感をもつ。米国の統計によれば,一般人口の3~6%が生涯のうち一度はパニック発作を経験し,うち20%が救急外来を受診すると言われている。内科で当直をしているときに遭遇するケースも稀でない。パニック発作で問題なのは,発作が始まっても通常20~30分で終了するため,受診時には異常所見がなく適切に対処されないまま帰されてしまうことが多いことである。


 パニック障害の診断を見逃してはならない理由を3つ挙げる2)。第一は,パニック発作は多くの場合再発する。放置すると発作が起きる度にその間隔が短くなっていくので,初期のうちからきちんと薬を飲んで発作を起こさないようにすることが大切になる。第二に,一度大きな発作を起こすとまた次の発作を起こすのではないかという恐怖感をもつようになり,予期不安と呼ばれる状態になる。予期不安が進行すると,外出ができないなど患者の日常活動が著しく制限され,治療も困難になってくる。第三に,パニック障害はうつとオーバーラップする面が多く,自殺率が高いことが知られている。診察医の不適切な対応や言動が,患者を絶望させ自殺に追い込んでしまうかもしれない。

 パニック障害は不安障害の1つとして位置づけられているが,心身両方の症状を呈することから心療内科でみる機会が多い。例えば東京大学心療内科では3),外来患者の7%がパニック障害と診断され,パニック発作を有する者はそれ以上存在している。しかしながら,この病態は提唱されてから歴史が浅く,概念も完全には固まっていないので,内科やプライマリケアではまだ一般的でないかもしれない。今回は,パニック発作とパニック障害の診断について実践的にまとめる。

パニック発作の診断

 DSM-IV-TRにおけるパニック発作の診断基準を表1にまとめる4)。13項目の症状をすべて暗記するのは難しいので,主な特徴を整理しよう。。。

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)Katerndahl D, Realini J:Where do panic attack sufferers seek care? J Fam Prac 40:237-243, 1995
2)中尾睦宏,久保木富房:救急における心身医療 パニック発作。レジデントノート 2:21-27, 2001
3)Nakao M, Nomura S, Yamanaka G, et al:Assessment of Patients by DSM-III-R and DSM-IV in a Japanese Psychosomatic Clinic. Psychother Psychosom 67:43-49, 1998
4)American Psychiatric Association:Diagnostic and statistical manual of mental disorders, text revision, American Psychiatric Press, Washington D.C., 2000


中尾睦宏
1990年東京大学医学部卒業。東大病院で内科研修をして心療内科に入局。1996年に東京大学医学系大学院(心身医学)修了。2000年にハーバード大学公衆衛生大学院(臨床疫学)修了,ハーバード大学医学部心身医学研究所内科講師。2001年に帰国し,現在,帝京大学医学部衛生学公衆衛生学助教授・附属病院心療内科副科長。専門は心身医学,行動医学,職場のメンタルヘルスなど。