●日常診療の質を高める口腔の知識 | ||||||||||||||||||||||||
第2回 口腔乾燥 岸本裕充(兵庫医科大学歯科口腔外科学) 緊張してドキドキするような場面で口の中がカラカラに乾く,誰にもそんな経験があると思います。最近のストレス社会を反映してか,ペットボトルを持ち歩く人が目立つようになりました。今月は「唾液・ドライマウス」にスポットを当ててお話します。 ■ドライマウスの患者が増えているペットボトルの持ち歩きについては,「コンビニや自動販売機での入手が以前よりも容易になったからでは?」というような反論があるかもしれません。それはさておき,ドライマウス(口腔乾燥)に関連する症状で歯科口腔外科を受診する患者が増えていることは事実です。どのくらい増えているのか,について正確なところは不明ですが,そのなかには,(1)乾燥を主訴とする患者と,(2)たずねてみると乾燥はあるけれども,それ以外の訴えで来られる患者が含まれます。 乾燥を主訴とする患者ドライマウスで最初に浮かぶ診断名は「Sjögren症候群(Sjs)」でしょう。ご存じのように中高年の女性に多い自己免疫疾患で,涙腺/唾液腺が障害されます。乾燥を訴えて受診する中高年の女性は少なくないので,ドライアイ合併の有無について注意を払いながら,Sjsの診断基準に照らし合わせます。患者の自覚症状の有無に加え,検査として口唇の小唾液腺生検や血清検査(抗Ro/SS-A抗体,抗La/SS-B抗体),唾液腺シンチは客観性がありますが,簡便性という点で唾液分泌量測定に勝るものはありません。Sjsでは,唾液腺の機能を評価したいので,ガム(ガムテスト)や乾燥したガーゼ(サクソンテスト)を「噛む」という刺激によって分泌される唾液(刺激時唾液)の量を測定するのが一般的です(表1)。検査の再現性や患者間で比較することを想定してでしょうが,元々は味のしないガムやガーゼの種類や材質なども規定された検査であったようです。しかし,ガムを噛むことにレモンや梅干しなど酸味の刺激などが加わったものであったとしても,唾液が分泌されれば機能あり,と評価できるので,実施しやすい方法でかまいません。咀嚼に味覚刺激が加わってもなお唾液の分泌が不良であれば,Sjsでなくても何らかの原因があるはずです。
では,刺激時唾液量が正常であれば,ドライマウスを否定できるでしょうか? 答えはNoです。実際,「口が乾くので内科を受診したけれども,『ガムテストで正常なので問題ない』と言われました」という患者がときどきいます。ガムテストなどの検査が正常と言われても,乾燥という自覚症状があるため,検査の結果に納得していないわけです。このような患者では,次の点をチェックします。 (1)安静時唾液を検査し唾液の分泌低下がないか,(2)鼻閉などによる口呼吸による乾燥の助長,(3)舌乳頭が萎縮した平滑舌(貧血に伴って出現することが多い)によって舌背での保水が困難,(4)唾液の攪拌力の低下(口底には唾液があるが,舌の運動制限などによって,その唾液をうまく口腔全体に拡散できない),などです。 刺激時唾液の分泌が正常でも,安静時唾液が低下していることは珍しくありません。抗うつ薬,利尿薬,抗Parkinson薬など唾液分泌を抑制する薬剤を列挙するとキリがありませんが,薬剤の副作用や加齢による唾液分泌の低下においては,このパターン(刺激時:正常,安静時:低下)が珍しくありません。乾燥という自覚症状には,刺激時よりも安静時唾液量が関連しています。
(つづきは本誌をご覧ください)
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