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●危険がいっぱい  ケーススタディ  医療事故と研修医教育

第1回テーマ

倒れていた老婦人

田中まゆみ(聖路加国際病院内科)


※本事例は,米国の臨床現場における筆者の経験をもとに,教育的な効果を考慮しつつ,全体を再構成したものです。本文中の登場人物・施設等はすべてフィクションであり,実在のものとは関係がありません。


今回の症例は,昨日まで元気だったのに自宅で倒れ,右片麻痺・失語症で救急車搬送入院となった,76歳の女性である。

ベティ(症例提示役) 本日の症例は,76歳の白人女性です。高血圧・高脂血症の既往のある右利きの方が,自宅で倒れているのが発見され,右片麻痺と失語症にて,救急車搬送入院となりました。 現病歴ですが,前日夕刻まで元気だったのに,翌朝電話に出ないのを不審に思った近くに住む娘さんが訪問して床に倒れているのを発見し,救急車を呼んだものです。救急隊の報告では,自発呼吸あり,痛み刺激で開眼するが発語はなく,GCS9(注1),体温36.2℃,脈拍110,呼吸数24,血圧180/110,酸素飽和度は90%で,右の手足が動かせませんでした。痙攣・嘔吐のあとはみられず,付き添ってきた娘さんによれば頭痛・発熱・咳嗽もなかったそうです。


まず何をするか?

アリス(司会役) はい,そこで止めて。救急に到着したこの患者さんに,まず何をしますか?

クリス 頭部CT。

エディ 血圧を下げます。

アリス 他には?

研修医たち …………?

Dr.マーティン(救急) (せっかちに大声で)まず,ABC(注2)ね(研修医たち:“エッ”という意外そうな顔と,“なあんだ,そんなことわかりきっている”,という表情が混在)。常に基本に帰ってABCを確認。いいですか。この患者さんはCTに送っている間に急変する可能性があります。多呼吸,頻脈,低酸素血症,意識状態からして,「気道保護のために挿管しようか?」と迷うケースです。自発呼吸があっても,です。CTに送る前に心電図とABG,胸部X線は撮りたいですね。この患者さんでCTを急ぐのはなぜですか,クリス先生?

クリス なぜって……脳卒中だから。

Dr.マーティン (もどかしげに)一つには脳卒中に対する血栓溶解療法の適応が発症3時間以内の虚血性脳梗塞に限られるからですね。時間との戦いなわけです。ですが,この患者さんはいつ発症したかわからないから適応はない。それでも急ぐもう一つの理由は,もし出血ならすぐ脳外科医を呼ばないといけないからです。脳卒中は心筋梗塞と同じくらいの緊急事態と思ってください。

Dr.ノーラン(神経) 血栓溶解療法については米国の治療指針が厳密な時間制限や禁忌(注3)を決めています。詳しくは,救急にある手順書を見てください。それとね,神経屋としてはね,意識状態の悪い脳卒中患者にはあんまり挿管してほしくないんだよね(一同,Dr.マーティンとDr.ノーランに注目)。ごめんね,マーティン先生,イヤおまかせします,緊急の時は。まだ何の原因で低酸素かもわからないのに腰が引けたこと言っちゃいけないね。昨日まで元気だった人だし………。

Dr.マーティン (大きく息を吸って)ノーラン先生のおっしゃることはようくわかります。研修医諸君もそのうちわかってくるでしょう。しかしね,CT撮ってる間に急変されたら困るし,CT撮ってからでないと重症で挿管の適応がないかどうかはわからんし,こりゃジレンマなんですよ。私の立場では挿管を考えざるを得ません。

アリス ベティ先生,挿管は考えましたか?

ベティ 挿管はしませんでしたが,家族には抜管困難の可能性も説明したうえで挿管準備をしていました。

病歴と身体所見

アリス 病歴の続きを。

ベティ 既往歴は,高血圧が20年以上前からあり,軽い高脂血症も指摘されています。 薬剤アレルギーはなく, 服薬歴はHCTZ(利尿薬)25mg1日1回とエナラプリル(ACE阻害薬)10mg1日1回。 家族歴は特記すべきことなし, 社会歴は喫煙歴・飲酒歴ともに全くなく,未亡人で一人住まいですが,いたって元気で,完全に自立した生活だったそうです。娘さんが近くに住んでいて,それで今回も早く発見されたわけですが……。 Review of Systems(臓器別概観,注4)は,娘さんから聞いた限りでは,頭痛・視覚異常・歩行異常・胸痛・呼吸困難などすべて陰性。

アリス では 身体所見を,呼吸・循環器と神経系を中心に簡潔にお願いします。

ベティ 肥満した高齢女性,特に苦悶様表情なし。体温36.6℃,脈拍106,呼吸数26,血圧188/110,酸素飽和度90%,経鼻2lで92%。GCS10(名前を呼ぶと開眼するが発語なし),外傷は明らかなものはなし。 頭頚部所見では,瞳孔左右差なし,対光反射正常,眼球運動正常,眼振なし,眼底所見で乳頭浮腫なし。口腔粘膜乾燥,項部硬直なし,内頚動脈血管雑音聴取せず,内頚静脈は肥満のため判定困難。 胸部聴診所見では,両下肺野にラ音聴取,心音整,腋窩部に放散する収縮期心雑音2/6心尖部にて聴取。 腹部・ 四肢の所見は省略。 神経学的所見では脳神経はほぼ正常,咽頭反射あり,右半身麻痺(筋力1/5),深部腱反射は右側で亢進,足底反射右で上向きでした。

鑑別診断

アリス ダン先生,病歴と身体所見をまとめて鑑別診断を挙げて下さい。

ダン 76歳の高血圧患者に突然発症した失語症・片麻痺,低酸素血症・呼吸切迫と両肺野ラ音。失語症と片麻痺は脳血管障害(cerebrovascular accident:CVA)しか思いつきません。低酸素血症のほうは,嚥下性肺炎,市中肺炎,無気肺,くらいでしょうか。

Dr.ノーラン CVAが最も可能性が高いですが,痙攣,腫瘍,複雑性片頭痛,多発性硬化症などでも片麻痺・失語症は起こり得ますね。

アリス 誤嚥性肺炎というのは,脳卒中患者ですから一元的説明ができて非常にいい診断だと思いますが,ほかには何かありませんか?……では,検査にいきましょうか。

ベティ 胸部写真では心肥大のみで,うっ血像も浸潤影もありませんでした。ABGはO22lでpH7.43,PaCO228,PaO266,HCO3-22,O2 Sat92%でした。A-aD(注5)は72です。

Dr.オーエン これはどう読みますか,ジニー先生。

ジニー 低酸素血症がまずあって,代謝性アシドーシスが起こって,それを呼吸性アルカローシスで代償しているんじゃないでしょうか……。

Dr.オーエン(循環器) その通りですね。肺炎でも心不全でも起こりうるパターンですね。

アリス 心電図はどうでしたか,エディ先生,系統的に読んでください。

エディ 心拍数は100前後,P波があって,PRは0.2未満で幅の狭いQRSがすべてのPに続いているので洞性頻脈です。軸は正常,肺性Pがみられます。Q波がⅢでみられます。ST-Tは非特異的変化のみでSTの上昇やT波の平坦化・逆転はなし。左室肥大(LVH)もあります。

Dr.オーエン 非常に順序よく読めましたね。残念ながら昔の心電図がないので比較できませんが,IのS波が目立つのに気が付きましたか?SIQⅢというパターンは何を意味するか知っている人いますか。この患者さんのように多呼吸低酸素血症があれば,特に臨床的に話が合うんだけれども。肺性Pもあるし。

エディ 肺塞栓(PE)ですか?

Dr.オーエン その通り,よく知っていましたねえ。さっきのABGもPEと矛盾しませんね。VQスキャンかスパイラルCTがほしいですね。

ベティ 血液検査ではCBC(全血算)・電解質は正常でしたがクレアチニンが1.8,トロポニンがわずかに上昇していました。

Dr.オーエン トロポニン? よく気がついたわね。

ベティ 両側ラ音は心不全かもしれないと思い,リスクファクター(注6)もありますから,一応送ったんです。

クリス トロポニン陽性ということはnon-ST elevation MIでしょう? ヘパリン開始すべきじゃないですか,心筋梗塞(MI)もPEも両方治療できますよ。

Dr.マーティン (ぴしゃりと)出血性の梗塞だったらどうするんです。脳卒中患者では,CTで出血を除外するまではヘパリンは使えません。それより,BUNは? 尿量は?

ベティ BUNは40です。尿量は1時間で10ml以下でした。

Dr.マーティン このうえ造影剤で腎不全を起こすわけにはいかん。どうしたらいい? ダン先生。

ダン VQスキャンにするか,それとも,生食を1lくらい入れて,アセチルシステイン(注7)も投与したうえでスパイラルCTにするか……。

クリス ラ音があるのに? MIで心不全を起こしてるんじゃないですか? ラシックス®を使えば利尿がついて,血圧も下がります。

Dr.ポール(総合診療科) 患者さんは臨床的には“ドライ”ですね,口腔粘膜は乾燥してるしX線でうっ血像はないしBUNも高いし。ラ音は,PEの所見でもあるんですよ。ゆっくり輸液すれば大丈夫でしょう。

エディ 血圧ですけど,高血圧緊急症(注8)じゃないでしょうか。MIや腎不全という臓器障害が起きています。

Dr.ノーラン (うなずいて)これはとても重要なポイントなので,皆さんよく理解して下さい。脳卒中の後で血圧が上がるという現象はautoregulation といって,脳内の循環を保護する仕組みなんです。ACLSでは収縮期圧220,拡張期圧140,またはMAP(注9)130未満なら下げる必要はないとされています。この患者さんのMAPは136なので,少しだけ下げてもいいかな,ぐらいですね。降圧薬は点滴で加減しやすいもの,ラバタロール か,ニトロプルシドのいずれでもよいとされています。この方の場合は,硝酸塩点滴がいいと思います。この方は確かに高血圧緊急症の定義を満たしていますが,脳血流保護が優先しますので血圧はゆっくり下げてください。

家族による治療中止の申し出

アリス 血圧管理はどのようにしましたか?

ベティ ラバタロール点滴で170ぐらいまで下げました。トロポニンが陽性とわかってからは硝酸塩点滴に変更して,輸液とアセチルシステイン投与してからCTに送りました。(頭部と胸部のCTを供覧しながら)広範な中脳動脈領域の梗塞で,出血はありませんでした。スパイラルCTでは右肺動脈に塞栓が見つかりました。この結果をふまえ,すぐにヘパリン点滴を開始しました。続いてβブロッカーを開始したところ,突然血圧が90まで下がり,酸素飽和度も80%を切ったので挿管,緊急心カテを施行しました。右冠動脈の右室分枝分岐部より末〓に70%の狭窄があったのみで,これがショックの原因とは考えにくかったのですが,一応バルーンで治療しました。血圧と意識は戻りましたが,自発呼吸が不安定でなかなか抜管できませんでした。

 1週間後に,家族の方から治療中止の申し入れがありました。事前指示書(注10)はなかったのですが,患者さんは無駄な延命は嫌がっていたとのことでした。家族との話し合いの後,鎮静薬を切り,自発呼吸が戻ってきたところで家族立ち会いのもと抜管しました。幸い呼吸停止は起こらず,酸素投与だけで維持できました。しかし,意識は戻らず傾眠状態が続きました。胃管栄養も中止,すべての薬剤も切って,患者さんは家族に見守られながら入院10日後に亡くなりました。

Dr.ノーラン 血圧が急に下がった理由の説明は家族にしましたか?

ベティ はい。心筋梗塞の治療としては標準なんだけれど,脳卒中があったことを考えると亜硝酸とβブロッカーを続けて投与したのは不適切であったかもしれない,と正直に説明しました。量としては控えめだったんですけど……。

Dr.ポール 右側心電図(V3R,V4R)は取った?

ベティ あ……。取ってません。

Dr.オーエン 右室梗塞によるショックではなかったことは,後から心カテで否定はされましたけどね。エコーはどうでしたか?

ベティ ハイパーアクティブでした。

Dr.オーエン PEでも話は合いますね。MIよりはPEの寄与が大きかったんじゃないかな。心カテでは確定診断がついてないけれど。

Dr.ノーラン 抜管前の家族とのミーティングの内容はカルテに記載しましたか?

ベティ はい。家族のみなさんにも見せて,サインしてもらいました。

Dr.ポール  医療倫理的にいうと,これは無駄な医療行為の中止(withdrawal of futile medical treatment)(注11)にあたります。本当は患者さん本人の意思によるのが一番やけど,家族が「本人が意思表示できたらこう言うだろう」と最善の推量をして決めていいんです。人工呼吸の中止・経管栄養の中止,いずれも妥当な処置です。この患者さんの家族は,回復の可能性が非常に低いことをよく納得されたんやね。

ケン はい。最初から,抜管困難かもしれないということまで説明しておいたのがよかったのだと思います。CTの結果もすぐ見せてとても大きな脳梗塞だということは納得していただけましたし,スパイラルCTも心カテもすべて見せました。最後まで信頼関係が保てたと思います。

Dr.ポール あとからこういうことを言うのは好かんのやけど……この方の服薬歴で,服薬しているべきやのに抜けてる薬がありますね。それを飲んでいれば脳卒中が防げたかもしれないもの……MIでも大事な薬。誰か?

ダン アスピリンですか?

Dr.ポール ご名答。アスピリンは50歳以上でリスクファクター(この場合は高血圧)のある人には脳卒中の一次予防薬として有効であるとの結論が出てます。ただし,わずかながら脳出血のリスクは上がるんやけど,差し引きプラス,という結論になってます(注12)

アリス 予防は治療にまさる,ということですね(注13)。……今日の症例は単純な脳卒中に見えたけど,実は肺塞栓や心筋梗塞も合併していたという症例でした。どれが一番先に起きたんでしょうね。

Dr.マーティン (ぼそりと)わからんね。知るすべもないし。

アリス 終末期医療の勉強にもなりました。皆さんどうもありがとうございました。


■本症例の教訓

 昨日まで元気だったのに脳卒中で倒れ,心筋梗塞(MI)と肺塞栓(PE)も合併,治療開始後まもなくショックを起こした症例で,もし家族への説明が後手後手に回っていたら,「血圧低下のせいで脳障害が回復しなかった」と疑われたかもしれないケースである(脳卒中自体が重症なので,たとえ訴訟になっても血圧低下の寄与分は小さかったと判定される可能性が高いが)。

ポイント

1. 予見性:(1)気道保護のための挿管準備;脳卒中自体が重症で,挿管しても抜管は困難かもしれないことをあらかじめ家族に説明したうえで挿管態勢を整えておいたおかげで,後々のトラブルを回避できた。
 (2)造影剤による腎不全;輸液などで予防した。

2. 見逃しのない診断:PEやMIを的確に診断し,単なる脳卒中ではないことが医療者にも家族にも認識されていたので,血圧低下が起こったときも迅速に心カテできたし,家族の精神的ショックも少なかった。

3. コミュニケーション:家族に病態や検査結果をそのつど迅速に説明し,良好なコミュニケーションを保った。

4. 記録:たとえ家族のほうから申し出があっても,医療者側には倫理的基準を確認して記録に残す義務がある。万一あとで「必要な治療までも中止して死を早めた」などと疑われたときのためにも,患者の状態や家族との話し合いの様子を詳しく記録しておく。少しでも倫理的疑問があれば倫理委員会にかけるようにする。

危険がいっぱい(第1回)注

注1:GCS(Glasgow Coma Scale)とJCS(Japan Coma Scale)の比較研究ではJCS3が10,20,30より予後が悪いという逆転現象がみられ,GCSのほうが予後との関連が強いという報告がある。
 No To Shinkei, 47(1):49-55,1995

注2:A:Airway(気道確保),B:Breathing(呼吸),C:Circulation(脈)。

注3:虚血性脳梗塞に対する血栓溶解剤適応は:(1)18歳以上,(2)発症から3時間以内,(3)頭部CTで虚血性脳梗塞に一致する所見。
 禁忌は
 (1) くも膜下出血(SAH)が疑われる場合(頭部CTで出血があるか,なくても臨床的に強く疑われる場合)
 (2) 発症時に痙攣があった場合
 (3) 降圧薬抵抗性高血圧(SBP>185,DBP>110)
 (4) 低血糖(<50)または高血糖(>400)
 (5) 凝固系・血小板異常
 (6) 脳神経症状が軽度か改善傾向がみられる
 (7) 脳内出血の既往
 (8) 過去90日間以内の頭部外傷または脳血管障害の既往歴
 (9) 過去14日間以内の大手術歴
 (10) 過去21日間以内の胃腸管・泌尿生殖器管出血歴
 (11) 過去7日間以内に深部動脈穿刺歴
 (12) 心筋梗塞後心外膜炎
 (この症例でもそうだが,脳卒中は発症時間が睡眠中なことが多いうえ,受診も発症後数時間経ってからのことが多く,血栓溶解薬の適応はかなり限られる。血栓溶解療法自体,出血などの重篤な合併症もあり慎重に患者家族に説明する必要がある。そうではあっても,早期であれば治療の選択肢が増えるわけであるから,患者が発症直後に救急車で受診するよう,脳卒中の初期症状をもっと一般に教育普及する必要がある。)

注4:Review of Systems (ROS)
 受診前の臓器別症状を概観する。体重変化,食欲,発熱,盗汗,睡眠,認知能力(痴呆の有無など),脳神経系(頭痛,嘔吐,視力,聴力,歩行など),循環系(胸痛・夜間発作性呼吸困難・下肢の浮腫・心不全重症度など),呼吸器系(咳,痰,呼吸困難,いびきなど),消化器系(食欲・便通・腹痛・悪心嘔吐・胸やけなど),泌尿器系(尿量・尿色・頻尿・尿意切迫・排尿痛・尿線の変化・背部痛・下腹部痛など),生殖器系(最終月経,月経異常,分泌物異常,勃起不全など),筋骨格系(腰痛,関節痛,筋力低下など),内分泌系渇・多尿・寒暖過敏などと,各系統別に網羅的に質問する。現症と多少ダブってもよいが,ふだんはどういう健康状態だったかに重点があるので,主訴と関係の深い症状は現症のところで詳しく述べる。

注5:肺胞動脈酸素分圧勾配P(A-a) gradient=
 (713 x FiO2-CO2/0.8);PaO2
 (ここでは経鼻2lのFiO2 を約0.24として計算した。あくまでも概算。)
 加齢によりA-aDの正常値は増加する:
 正常値=年齢/4 + 4
 (この患者では76/4+4=23が正常値なので,それでも明らかに開大している。)

注6:冠動脈疾患リスクファクター
 1. 年齢(男45歳,女55歳以上)
 2. 家族歴(父親または兄弟が55歳前,母親または姉妹が65歳前に心筋梗塞発症または突然死)
 3. 糖尿病
 4. **喫煙
 5. **あまり運動しない生活
 6. **高血圧
 7. **高脂血症
 (**は主要リスクファクター)

注7:アセチルシステインの3用法:(1)アセトアミノフェン中毒治療,(2)喀痰溶解,(3)造影剤による腎不全の防止

注8:Hypertensive Emergency(高血圧緊急症)
 高血圧緊急症とは直ちに降圧を必要とする病態の総称で,各種疾患が含まれる。適切なレベルまで速やかに血圧を下げることが原則であるが,臓器保護を念頭において行う。正常血圧まで一気に下げると臓器潅流は低下し,脳梗塞,心筋梗塞,腎前性腎不全などに陥ることになる。急激な血圧降下の限界は平均血圧で25%をめどにすると言われている。降圧の初期目標は,平均動脈圧を数分から2時間以内に25%未満で下げること。ついで,腎臓,脳,冠動脈の虚血を起こさないよう,2~6時間以内に160/100mmHgまで徐々に下げる。ただし,大動脈解離は例外で,解離の進行を防ぐため直ちに収縮期血圧を120mmHg以下まで下げる(米国ガイドラインによる)。

注9:Mean Arterial Pressure:(SBP+2×DBP)/3

注10:Advance Directive:終末期医療をどのように実施してほしいかを予め指示する文書。代理人を指定することもできる。

注11:原則として患者本人の意思表示に基づくが,代理人の指定があればその代理人,代理人がいない場合には家族が,本人の意思の最善の推量をすることにより,無駄な医療を中止することが多くの場合認められている。今年,日本医師会の倫理基準が制定されたが,日本の終末期医療のグレーゾーンである。

注12:代表的文献のみを挙げると:
 Arch Neurol. 2000;57:326-332.

注13:予防医学は臨床研修では地域保健に組み入れられているが,すべての医師が外来・入院を問わず機会あるごとに患者教育の中に取り入れるべき重要な医療行為である。米国と比較して予防接種率が低く(特に乳児に対する麻疹,インフルエンザ菌,肺炎球菌,高齢者に対するインフルエンザウイルス,肺炎球菌),腎透析患者に対するB型肝炎など,二次予防(アスピリン・βブロッカー・ACE阻害薬など)が徹底していないこと,喫煙率が高いこと(特に分煙の不徹底による受動喫煙,若年者・女性の喫煙率の上昇),性病予防教育が徹底していないこと(日本は先進国で唯一HIV感染者数が年々増加している!)など,課題はまだまだ山積。


田中まゆみ
京大卒。天理よろず相談所病院,京大大学院を経て渡米。マサチューセッツ総合病院(MGH)他でリサーチフェロー。ボストン大公衆衛生大学院修了。2000年よりコネティカット州のブリッジポート病院で内科臨床研修。2004年より聖路加国際病院勤務。著書に,ハーバード大学医学部でのクラークシップ体験をレポートした『ハーバードの医師づくり』(医学書院)がある。

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