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●医療事故を防ぐ! 対策を絵に描いた餅としないために

第5回テーマ

たかが採血,されど採血

本村和久(王子生協病院・内科


 医師が行う手技のなかで,もっとも基本的な手技は採血と言えるだろう。しかし,その教育方法にスタンダードはないようだ。ここでは,医師だけでなく,医学生,検査技師を含めた採血方法の指導の実際について報告したい。

教育は業種を超えて

 クリニカルクラークシップ(診療参加型臨床実習)と呼ばれる,医学生への臨床教育が進んでいる。従来の講義中心の教育から脱却を図り,実際の臨床現場に出て,生きた知識,技術を習得してもらおうという試みである。以前は手技に関しての規則はなかったが,厚生労働省から医師の指導のもと,手技を行うことが明確化された。当院では,基本的なオリエンテーションを指導医が行い,採血手技に関しては,後期研修医が指導を行うこととした。「駆血帯をいつ巻くのか?」,「採血管の位置は?」など,知っているようで知らないことも多く,研修医が自らの知識を再確認する意味もある。しかし,手技というものは,やり方を理解しても,経験を積まないとうまくはならない。そこで,どう実習を行うかが問題となる。沖縄県立中部病院では,検査技師が外来の採血業務を行っているが,これを患者さんの同意のもと,手伝う形で採血業務実習を行うようにしている。経験豊富な技師の手技の横で経験を積むことはなによりの上達へのステップとなっている。

病院として「基本手技」にこだわることのメリット

 医師になりたての初期研修医も同様である。後期研修医の指導,外来での採血実習を済ませないと病棟での業務はできない。みっちり基本を叩き込んでから現場に出てもらうシステムである。学生,研修医とも,この事前研修に対する評価は高い。以前は,いきなり現場に出て,先輩研修医の「見よう見まね」で採血を行っていた。当然,教える先輩研修医の熱意,力量により,その指導内容には大きなばらつきがあった。「たかが採血,されど採血」である。合併症は,出血,神経損傷,複合性局所痛症候群など,意外と多い。

 また,技師にしても,通常業務に教育の負担がかかり,楽ではない。しかし,病院全体で研修医を支えることの重要性,教えることは学ぶことと自らの業務を見直す機会など,間接,直接のメリットは大きいと考える。

 なお,沖縄県立中部病院で指導を行っている,具体的な採血手順は……

(つづきは本誌をご覧ください)


本村和久
1997年,山口大学医学部卒,同年,沖縄県立中部病院プライマリ・ケア医コース研修医。離島診療所である伊平屋診療所勤務,沖縄県立中部病院勤務(総合内科,救急,離島医療支援)を経て,現職。研修医のときに自ら起こした医療事故をきっかけに医療安全対策に関わる。