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医療事故を防ぐ! 対策を絵に描いた餅としないために

第3回テーマ

全体カンファレンスの試み

本村和久(沖縄県立中部病院地域救命救急センター)


 日常業務のなかで起こる医療事故,本来なら問題の大きさによらず,すべてのケースを詳細に検討し,病院全体で共有すべきであるが,超過勤務,過労が大きな問題となっている医療従事者の現状では,効率よく問題の解決に当たる必要がある。また,時間を割いて事故を解析しても結果が共有され,問題解決に向かわなければ意味がない。情報共有,問題解決に向けての一つの試みが,医師,看護師を中心に病院すべての職員を対象に行う全体カンファレンスである。頻回に行えるものではないが,医療事故を防ぐ文化を創るには有効な方法と考える。当院では,年に3回程度の医療事故に関する全体カンファレンス(同様の試みは文献1,2を参考のこと)を行っている。一例をご紹介したい。

■全体カンファレンスの実際
 沖縄県立中部病院での実施例から

 医療安全管理委員会の主催で全体カンファレンスを企画した。今回のカンファレンスは後期研修医中心での運営である。研修医の提案で,実際に起こった事例を寸劇にアレンジして,その感想をグループ討議する企画となった。時間は朝7時30分~8時30分の1時間,場所は100名収容できる大会議室,テーブルを12台用意,各席に指導医,研修医,医学生,看護師が均等に振り分けるようにした。

症例の共有-研修医を中心に指導医,看護師を含め寸劇で表現

 ある病棟で頻回の痙攣発作を起こす60歳台の男性が精査加療目的で入院した。痙攣はジアゼパム10mgの経静脈投与で後遺症なく改善していた。病棟主治医は「痙攣時,ドクターコール。ジアゼパム10mg静注。」とカルテに記載,当直医(研修医)にも申し送りをしていた。

 当直中の研修医が発熱の患者の処置中にコールを受け,新人看護師から痙攣の連絡を受けた。患者の病歴と痙攣時ジアゼパム10mg静注とカルテに書かれていたため,電話指示でジアゼパム10mg静注を看護師にお願いした。看護師はそのままボーラス(急速静注)でジアゼパム10mg静注したところ(注1), 患者の呼吸は止まってしまった。再度コールを受けた研修医は呼吸停止の報告を受け,指導医を呼び,3人で救命処置を行い救命。一息ついたところで,研修医はジアゼパム10mgがボーラス(急速静注)されたことを知る。指導医は,電話指示のみ,看護師ひとりでジアゼパム静注がされたことを知る(注2)。

(つづきは本誌をご覧ください)

注1) 添付文書では,「静注する際,なるべく太い静脈を選んで2分間以上かけて注射」「舌根沈下による気道閉塞(0.1~5%未満),(呼吸抑制(慢性気管支炎等の呼吸器疾患に用いた場合,呼吸抑制が発現)→中止後処置」とある。
注2) 投与方法によらず,ジアゼパムの使用自体が呼吸抑制を引き起こしうる。


本村和久
1997年,山口大学医学部卒,同年,沖縄県立中部病院プライマリ・ケア医コース研修医。沖縄の離島診療所である伊平屋診療所勤務,沖縄県立中部病院内科後期研修医を経て,2003年より沖縄県立中部病院勤務(総合内科,救急,離島医療支援)。研修医のときに自ら起こした医療事故をきっかけに医療安全対策に関わっている。