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医療事故を防ぐ! 対策を絵に描いた餅としないために

第1回テーマ

誰が見てもわかる指示書きを目指して

本村和久(沖縄県立中部病院地域救命救急センター)


研修現場と医療事故
解決する方法はあるか?

 新医師臨床研修が始まって,もうすぐ2年である。未熟な研修医ゆえ(そうでなくても事故はいつでも起こりえるが)の間違い,失敗はある。私自身,多くの間違い,失敗を経験しながら,学んできた。

 診療・手技に関して,研修医にお任せの「放置系」研修,研修医がお客さん扱いの「見学系」研修,どちらも患者さんの利益にはならない。きちんとした教育の下,研修医が診療・手技を行う環境が理想である。

 病院の外に眼を向けると,医療事故がマスコミを連日賑わせている。医師をはじめ,医療従事者個人の資質を問う報道が眼につくが,個人を責めてもこの問題は解決しない。事故が起きる背景を調べ,システムの問題を解決する必要がある。医療費抑制政策の下,医療従事者は簡単には増えない。新医師臨床研修で指導医の負担は大きくなっている。少ない時間を割いて作ったマニュアルは医療事故解決方法の一つではあるが,マニュアルが絵に書いた餅となってしまうことは少なくない。

 ここでは,沖縄県立中部病院の臨床研修・医療事故に関する取り組み(お世辞にも先進的とはいえないが)を交えながら,主に研修医がかかわる医療事故対策について考えたい。

看護師からの指摘
医師の指示時の問題点

 カルテの指示書きは病棟によってその書き方が異なっていた。指示を書く研修医と指示を受ける看護師との間で誤解が生じ,結果としてインシデントにつながることもあった。ある内科後期研修医(研修医代表)が看護師とこの問題を協議することとなった。実際に看護師から指摘されたのは下記である。

マニュアルの作成
抜け落ちていたものは何か?

 そこで,下記のようなマニュアル=注意事項の羅列(「一般的な注意」)が作成された。「看護師から指摘された問題点について」と「一般的な注意」を併記して病棟の各部署に配布され,看護師サイドもこれで問題の解決につながるのではないかとそのときは考えていた。しかし,どのように注意事項を遵守するか決められていなかった。内容はもっともだが,この文章を誰がいつ読むのかといった議論がなかった。

≪看護師から指摘された問題点について≫
1) 処方箋の文字が読みとれない。
2) 臨時紙処方箋などにサイン漏れがある。
3) 内服薬,静注薬の用量,単位(mg,mlなど)が漏れている,略語がある。
4) 途中開始の薬剤が次回の定期処方から漏れる。
5) 錠剤か粉末か,剤形が明記されない。
6) 処方箋が重複して出される。
7) 処方入力されているが,指示表に記入がない,または内容が入力のものと違う。
8) 口頭指示後の指示記載がない。
9) 指示整理がなされていない。
10) 追加指示が前ページに書かれている。
11) 医師のサインが不明瞭。

≪一般的な注意≫
1) 診療録開示,監査にたえうるものである必要がある。
2) 医療従事者の誰もが理解可能でなければならない。
3) サイン(署名)は忘れずに,またあとで問い合わせできるよう,楷書で,PHS番号も記載する。
4) 処方箋は,指示と同時にオーダーする。
5) 口頭指示は原則として禁止,やむを得ず,口頭指示を看護師が受ける場合は,指示を行った医師,受けた看護師,指示受けの時間を記載する必要がある。医師は速やかに指示を記載する。
6) 指示棒は至急(看護師に口頭でも伝えること)が赤,普通が黄色である。
7) 記載指示の訂正は,二重線で消すこと(訂正前の指示が見えるように)
8) 記載指示を変更する場合は,<生理食塩水に変更>のように明記すること。
9) 原則として,新しい見開きになったら指示を整理する。
10) 患者名を記載,またはインプリンターを押す。マニュアルをいくら作っても読んでもらえないことには,始まらない。

マニュアルを絵に書いた餅としないために

 マニュアルをいくら作っても読んでもらえないことには,始まらない。この問題は結局2年間,お蔵入りだった。このマニュアルを作った内科後期研修医(チーフレジデント)は,他の病院に移った後は,このマニュアルの存在を知る人はほとんどいなくなってしまった。再び,看護師からは以前と同じ研修医への注文が繰り返された。そこで,指導医,研修医,看護師でマニュアルの見直しが行われた。手足となって働いている研修医の視点を入れることは重要だろう1)。当院は,オーダリングシステムはあるが(処方,検査オーダーはコンピュータ入力する),電子カルテではない。 すべて電子化されていれば,悪筆が問題の事故は減らせる2)(10ml/hと70ml/hが紛らわしいなど)が,手書きが必要な状況では,カルテのフォームを変える必要があった。そこで作ったフォームが指示書きマニュアル(チェックシート(1)(2)を参照)である。基本指示は,チェックリスト方式となっている。クリニカルパスがあれば,そちらを優先するが,このリストはカルテに挟むことになっている。

 誰もが使いやすい形を考え,今後も改訂を繰り返す予定である。

参考文献
1)Volpp KGM, Grande D:Residents' suggestions for reducing errors in teaching hospitals. N Engl J Med 348(9):851-855, 2003
2)Bates DW, et al:Effect of computerized physician order entry and a team intervention on prevention of serious medication errors. JAMA 280(15):1311-1316, 1998


本村和久
1997年,山口大学医学部卒,同年,沖縄県立中部病院プライマリ・ケア医コース研修医。沖縄の離島診療所である伊平屋診療所勤務,沖縄県立中部病院内科後期研修医を経て,2003年より沖縄県立中部病院勤務(総合内科,救急,離島医療支援)。研修医のときに自ら起こした医療事故をきっかけに医療安全対策に関わっている。