HOME雑 誌medicina誌面サンプル 47巻12号(2010年11月号) > 連載●アレルギー膠原病科×呼吸器内科 合同カンファレンス

●アレルギー膠原病科×呼吸器内科 合同カンファレンス


第8回

器質化肺炎と腎機能障害で紹介された高齢男性の"関節リウマチ"

岡田正人(聖路加国際病院アレルギー膠原病科(成人・小児))
仁多寅彦(聖路加国際病院呼吸器内科)


後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回の患者さんは,関節リウマチにて前医で治療を受けていた72歳男性です.既往歴には22歳で肺結核にて保存的治療,10年前からの嗄声があります.2年半前から指趾関節の腫脹と疼痛が出現し,朝のこわばりも伴っていたため,近医で関節リウマチと診断され,プレドニゾロン3 mgとブシラミン100 mgにて治療されていました.治療開始から6カ月後には喀血のエピソードがあり,気管支鏡を施行されましたが,病理検査,各種培養検査では確定診断には至らなかったとのことです.この時の胸部画像を取り寄せましたので,解説をお願いしてもよろしいでしょうか.

(写真は本誌をご覧ください)
図1 胸部単純X線写真
図2 胸部CT
呼吸器内科医 胸部単純X線写真(図1)では右肺尖部に陳旧性肺結核と思われる石灰化を伴う小結節影があります.右上肺野,左肺門部,左下肺野肺底部に腫瘤影を認め,左肺底部の陰影は空洞を伴っています.また,右下肺野の縦隔側にも腫瘤影と周囲の浸潤影を認め,右側には少量の胸水の貯留も疑われます.単純X線写真でははっきりしませんでしたが,CT(図2)で見ると肺門部,右下葉の腫瘤影は壁の厚い空洞を伴っていました.

 空洞を伴う多発性の腫瘤影ということでは,たしかに肺膿瘍,肺真菌症,びまん性細気管支肺胞上皮癌や転移性肺腫瘍などが鑑別に挙がりますので,気管支鏡検査での精査は必要だったと思います.結局,前医では診断が確定しなかったということでしょうか.

後期研修医(アレルギー膠原病科) はい,喀血は治まっていたので経過観察されていたようですが,その2カ月後の胸部CTでは新たな陰影の出現と以前の陰影の消退,いわゆる移動性の浸潤影を認め,関節リウマチに伴う器質化肺炎(organizing pneumonia:OP)として,プレドニゾロンを30 mgに増量し治療されています.

後期研修医(呼吸器内科) 最近,関節リウマチの診断時に胸部CTでOPパターンを呈する患者さんを紹介していただくことがありましたが,経気管支鏡生検(TBLB)や気管支肺胞洗浄(BAL)★1でOPとしての確定診断と感染症の除外などを行いました.

呼吸器内科医 OPの原因として,抗リウマチ薬開始後の間質性肺炎では薬剤性肺障害も考えられます.しかし,今回使用された薬剤性肺障害でOPパターンを呈することは非典型的ですので,今回の症例では感染や関節リウマチによるOPと考えたのだと思います.いずれにせよ画像所見のみでOPと確定診断するのはなかなか困難です.前医では組織学的検索はされていますか.

後期研修医(アレルギー膠原病科) いえ,2カ月前に気管支鏡をしたところだったので,再度の内視鏡検査は患者さんの受け入れがあまりよくなく,画像所見で判断し治療に踏み切ったようです.

★1:気管支鏡検査で使われる検査の名称について
経気管支肺生検(TBLB:transbronchial lung biopsy):肺実質の病変のときに気管支鏡を使って肺を生検する手技.びまん性肺疾患で肺自体の様子を調べる場合の検査.
経気管支生検(TBB:transbronchial biopsy):結節影や腫瘤影など,肺の中にある肺実質以外を標的として気管支鏡を使って生検する手技.
気管支洗浄:気管支鏡で気管支を選択しその内腔に生理食塩水20~50 ml程度を注入し回収する検査.気管支領域の評価目的に行う.感染症を疑った場合の各種培養検査や腫瘍の精査の際の細胞診を提出する場合に有用.肺胞領域の細胞はあまり回収されないので,肺実質病変の評価はできない.
気管支肺胞洗浄(BAL:bronchoalveolar lavage):気管支鏡をB4またはB5の気管支にできる限り楔入させ,標準的には150 mlの生理食塩水を注入して回収する検査.気道肺胞腔の細胞成分,液性成分を解析することで,びまん性肺疾患の精査を行う.注入する量が多いため吸収熱による発熱が起こりやすい点や,間質性肺炎ではBAL後の増悪を認めた報告がある点などに注意が必要.

(つづきは本誌をご覧ください)