HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻2号(2007年2月号) > 連載●外来研修医教育への招待
●外来研修医教育への招待

第2回

研修医とともに外来を
ちょっとその前に(前編)

川尻宏昭(名古屋大学医学部附属病院・在宅管理医療部 地域医療センター)


 前回は,外来研修医教育の場がどんなものかというお話をさせていただきました。外来と入院の違い,研修医を受け入れてゆくことの利点と欠点など,外来研修医教育を取り巻くさまざまな問題点とその現状を私たちの経験をもとにお伝えできたかと思います。今回からは,いよいよ外来研修医教育に参加していただこうと思います。ということで,「早速……」と,本来ならば,まず実践していただき,そこからいろいろと議論を深め,実践に役立つ何かを皆さんとともに,見いだしてゆくというのがいいのですが,このような活字を通してのコミニュケーションでは,それもなかなか難しいと思います。ということで,今回と次回の2回に分けて,実践の場で役に立つと思われる考え方や手法というのを,前もって簡単に紹介したいと思います。


研修医は大人?である

 「最近の研修医は……」「本当にこんなことまで言わないとわからないの……」なんていう声が,皆さんの病院では聞かれることはありませんか? この言葉は,当たっている部分もあり,そうでない部分もありでなかなか評価が難しいですが……。いろいろと見方はありますが,でもやっぱり研修医は大人(成人)です(でないと困る!)。成人と子どもはやはり違います。教育という視点からも,成人教育(andragogy)という言葉があるように,やはり,「研修医(学習者)は成人である」ということを私たちは認識しておくことが必要だと思います。「児童は大人に直接指図を受けない機会を与えられると時に大人のようにふるまうことがあり,逆に医学生や研修医が指図を受け,あたかも子どものように扱われると,子どものようにふるまう場合がある」とWhitmanとLawrenceは述べています。つまり,研修医に大人としての振る舞いを望むときには,「大人として扱う」ということが逆に求められるということでしょうか。そこで,「成人学習の原則」(表1)というのを皆さんにご紹介します。

表1 成人学習の原則(文献1より)
(1) 成人は学習したことをすぐに実践したがる
(2) 成人は知識の詰め込みよりも概念や原則を学びたがる
(3) 成人は自分自身の学習目標を立てることを好む
(4) 成人は自分の行為を評価するのに役立つフィードバックを好む

 少しわかりやすく説明すると,(1)の意味するところは,「成人の学習者は,実践に使えないことにはあまり興味がない」ということに置き換えられると思います。特に臨床教育では,そう言えるでしょう。この原則をうまく利用するためには,やはり「身近に実際に接している患者さんについての教育」を行うということが大切だと思います。

 (2)は,「臨床において重要なことは,単に知識を増やすというより,問題解決能力をつけることである」ということにつながると思います。ノルウエーのことわざに,「子どもには,魚を与えるのではなく,魚の取り方を教えよ」というのがあるそうです。年々増大する医学的知識の一つひとつを伝えるよりも,原理原則を伝えることで,自らが問題を解決してゆくことができる能力を身につけるようにすることが大切だということだと思います。

 (3)は,「自らの目標を自ら立てさせる」ということにつながると思います。「今の君はこれが足りないからこれをしなさい」というのも時には必要でしょう。ただ,それも含めて,研修医自身が「今の自分の目標はこれだ」と自覚できるように,指導医は,うまく引き出すあるいはサポートすることができればいいですね。研修医が自ら目標を立てられないときには,それを単に与えるのではなく,うまく引き出し,目標を立てられているときには,それが本当に適切であるか検討し支えつつ修正をしてゆくということが指導医には求められるのかなと感じています。

 (4)は,「研修医たちは,指導医からの言葉を待っている」ということだと思います。研修医たちは指導医からの言葉,例えば,「先生,今日の外来では,ここはよかったよ。でも今度はここをがんばるといいかな」というようなフィードバック=評価(形成的評価)を待っています。そして,それが次へのステップにつながります。また,これが研修医と指導医のコミュニケーションにつながります。

 「成人学習の原則」は言われてみると当たり前ですよね。読者の方でも,ご自身が研修医のときに(今でも),この原則が侵されると,その指導医やその環境に不満を持っていた(持つ)のではないでしょうか?

優れた指導医とは?

 「優れた指導医」。あまり聞きたくない言葉ですね。そもそも,指導医になりたいなんて思う人はそんなに多くいるとは思えません。私も含め,「医者としての年数もそこそこだし,後輩も増えてきたし,そろそろ研修医の相手もしないといけないんだろうな」というのが本音なのではないでしょうか? ただ,「研修医と一緒にやるなら,優れた指導医になりたいな」とか,そこまで感じなくても「もう少しうまく研修医と一緒にやれたら……」と思う人は,いらっしゃるのではないでしょうか?そこで,「優れた指導医」とは,どのような「指導医」なのかということについて少し考えてみたいと思います。。。

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)伴信太郎・他(訳):臨床の場で効果的に教える-「教育」というコミュニケーション,南山堂,2002
2)大西弘高:新医学教育学入門-教育者中心から学習者中心へ,医学書院,2005
3)日本医学教育学会臨床能力教育委員会:研修指導スキルの学び方・教え方-病棟・外来で使える,南山堂,2006
4)伴信太郎:プライマリ・ケア実践のための臨床教育-指導医と医学生・研修医への道しるべ,エルゼビア・ジャパン,2004


川尻宏昭
1994年徳島大学医学部卒。同年,佐久総合病院初期研修医。2年間のスーパーローテーションおよび2年間の内科研修の後,病院附属の診療所(有床)にて2年間勤務。2001年10月より半年間,名古屋大学総合診療部にて院外研修。その後,佐久総合病院総合診療科医長として,診療と研修医教育に従事。2006年12月より現職。