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●「デキル!」と言わせる コンサルテーション

第11回テーマ

デキレジのコンサルテーション
(4) 神経系

早川 幹人(虎の門病院・神経内科)


外科病棟で
(とある午前中,外科をローテート中の研修医から専門医へ電話でのコンサルテーション)
研修医「お忙しいところすいません。相談したい患者さんがいるのですが,胃癌の術前精査で入院中の65歳,男性ですが,昨日の23時頃から発語に乏しく意識が不明瞭なのですが」
専門医 「昨日から?」
研修医 「頭部CTと採血をしましたが,どちらも取り立てて異常ないようなので様子を見ていました」
専門医 「既往歴は?」
研修医 「高血圧と心房細動で近医からCa拮抗薬,β遮断薬とアスピリンが処方されています。血圧は180/100と高めですが,もともと160/程度でコントロールはあまりよくなかったようです」
専門医 「とりあえずすぐ行く」
(病棟で,簡単な診察の後に)
専門医 「意識はJapan Coma Scale(以下JCS)I-3,というより,失語が主体ですね。上肢優位のごく軽い右片麻痺があるようです。左側への共同偏視傾向も軽度ですが認められます。昨日のCTでは異常所見は確かにはっきりしないですね。すぐにCTを再検しましょう」
(CT室で)
専門医 「……左中大脳動脈領域にLDA(低吸収域)があります。」
研修医 「……」

イラスト/小玉高弘(看護師)

脳梗塞では? と疑うことが重要

 心房細動が関連した心原性脳塞栓症でした。この研修医は疑いながらもその答えにたどり着けなかったようです。一般に脳梗塞はCTでは(もちろん病変の部位や大きさにもよりますが)12~24時間たたないと病変が描出されないことが多く,超急性期での感度は高くない検査です。この症例では失語が症状の中核をなし,共同偏視や麻痺症状がごく軽度だったために見逃され,脳梗塞の可能性が見落とされて(あるいは否定されて)しまいました。

 脳梗塞は近年,組織プラスミノーゲンアクチベーターによる急性期線溶療法の有用性が報告され,脳卒中治療ガイドライン20041) でも,症例によって発症後3時間以内の経静脈的,あるいは6時間以内の経動脈的な血栓溶解療法が推奨されています(残念ながら日本ではまだ認可されていませんが )。この症例でも,昨夜の時点で専門医にコンサルテーションがあれば,血栓溶解療法によって後遺症がより軽度で済んだのかもしれません。

虚血性脳血管障害急性期(発症後3時間以内)に対するrt-PA製剤(アルテプラーゼ)静脈内投与については本年10月に認可された。

 一概にこの研修医を“ダメ・レジ”ということはできません。もちろん,神経学的所見の診察に不備はあったのですが,適切であろう検査もし,遅ればせながらですが専門医に連絡もし,基本的な臨床情報も頭に入ってプレゼンテーションができてはいるのですから。

 一般的に,神経学的所見の診察,および神経疾患のアセスメントは,こと内科系の研修医にとっても苦手な項目であるように思います。「神経疾患は客観的な検査で裏付けられない症状が多い=神経学的所見が唯一の診断・治療の根拠になることがあり,身体所見・診察の比重が相対的に高い」,「神経疾患は病気の数が多い,脳梗塞などは単一の疾患なのに部位によってさまざまな症状を呈する」,などの理由から,敬遠され,ブラックボックスとなってしまう傾向が強いように感じます。

 まずは,疑ってください。そして,系統的な診察をして症状の局在,本態を明確にしてください。緊急性があるかどうかの判断も重要です。もちろん,成書でしっかり勉強して知識として持っていることは非常に重要ですが,わからなければなおさらコンサルトしてください。この症例のように,入院中の発症であるにもかかわらず,積極的な治療のゴールデンタイムをみすみす逃してしまう,などということがないように。

神経所見のとり方

 神経学的診断は,(1) 症状,神経所見から病変部位を推察(解剖学的診断),(2) 発症様式から病因を推察(病因的診断),(3) 病変部位,病因および検査所見から臨床診断を提起する2),と,だいたいこのような流れで進みます。解剖学的診断は,大脳,小脳,脳幹,脊髄,末梢神経など,どこに病変の首座があるかをいいます。どの部位が障害されたらどのような症状が組み合わさって起こってくるのかを知っておくことが重要ですが,その点が複雑に感じられ,敬遠される理由のひとつにもなっているようです。

 診察の流れでは,まず,病歴聴取で,症状の時間経過を知りましょう。このとき,既往歴,服薬歴なども重要な情報となります。続いて診察では,病変の解剖学的な部位を知るため,系統だった診察をしていきます。(1) 意識状態,精神状態,大脳高次機能,(2) 髄膜刺激徴候,(3) 脳神経系,(4) 運動系,(5) 協調運動,平衡障害,(6) 深部腱反射,病的反射,(7) 感覚系,(8) 不随意運動,錐体外路症状,などを見ていきます。最後に,他の人が見ても即座にどこに病変があるのか想起できるように,神経所見の要約を記載しましょう。局在症状がわからなくても,この情報が正確に専門医に伝達できればOKでしょう。

(つづきは本誌をご覧ください)


文献

1) 脳卒中合同ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2004 pp34-37,2004
2) 黒田康夫:神経内科ケース・スタディ,pp1-10,新興医学出版社,2000

早川 幹人
1999年横浜市立大学医学部卒。虎の門病院内科ジュニアおよびシニアレジデントを経て,2004年より同院神経内科医員(専攻医)。脳卒中急性期の内科的治療を中心に診療している。