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●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル

第11回 テーマ

励ましの伝え方:
「がんばって」の使い方をまちがっていませんか

長谷川万希子(高千穂大学人間科学部)


【キーワード】
●励まし
●患者満足度
●患者-医師関係

■励ませば励ますほど,患者さんの満足度は低くなるのはなぜ

 医療コミュニケーションの本は数多く出版されていますが,どの本でも必ずと言ってよいほど「患者さんへの励ましが大切」と書かれています.医師から励まされることによって患者さんが受けた医療に満足できると,セルフケアが順調に行われ,医師の指示をよく守るようになり,治療効果が高くなったり,治療を中断せず継続的に治療をする効果が確認されています1)

 そこで筆者は,外来診療で医師から患者さんに対して「がんばって」と言葉かけをしている回数と,受けた医療全体に対する患者さんの総合的満足度との相関を調べてみました.患者さんの総合的満足度とは,「この病院に通院してほんとうによかった」「ほかの病気の時も,またこの病院に来たい」「この病院なら,家族や友人に安心して紹介できる」という,相互に相関が高い3項目の満足度(最高5点,最低1点の5段階)の平均点を算出したものです.

 その結果を見て,筆者は目を疑いました.なんと,医師が「がんばって」と言葉かけをする回数が増えれば増えるほど,患者満足度は低下する傾向がみられたのです(相関係数:r=-3.9, p<0.01).分析の間違いかと思って確認してみましたが,結果に間違いはありませんでした.

 それでは,なぜ「がんばって」と患者さんを励ませば励ますほど,患者満足度は低下するのでしょうか.その理由を患者―医師のコミュニケーション研究を目的として筆者が記録した400例の診察室の会話から探してみましょう.これの会話調査の対象は,5カ所の医療機関の数十名の内科の医師と,その慢性疾患の外来患者さんたちです.

■「がんばって」の使われ方

励ましの反対の意味の「がんばって」

 まず励ましとは反対の意味で「がんばって」が使われていた例を紹介してみます.

場面1:あなたはがんばって,私はがんばる必要がない.
患者:あの~,タバコを止めようとは思ってがんばっているんですけれども,なかなか止められなくて.
医師:こればかりはねえ,あなたががんばるしかないんですよ.
患者:そうですねえ.
医師:うーん.
患者:がんばってはみるんですけれども,意志が弱くって.
医師:でもね,われわれはがんばっても仕方がないことで,あなたががんばる以外に方法はないんですから.
患者:えー,はい.

 場面1では,患者さんに対して,「あなたが,がんばるしかない」と突き放していて,励ましの意味が伝わってきません.これでは,「がんばって」と言葉かけをしても,励ましとは反対の意味が伝わってしまいます.

場面2:がんばりが足りない!!

患者:だいぶ食べる量を少なくして,工夫してみているんですけれども.
医師:でも,体重はほとんど変わっていませんよね.
患者:はー,でも,甘いものも控えるようにして,栄養士さんのお話を守るように気をつけてみてはいるんですけれども.
医師:それでも体重が減らなければ意味がないですから,もっとがんばらないとダメですよね.
患者:そうですねえ.油ものも減らしているつもりではいるんですけれども~.
医師:ともかく,体重が減るまでがんばらないと.

<中略>

医師:いいですか.次回の診察までに,目に見える形で体重を落としてきてくださいね.ちゃんとがんばってくださいよ.
患者:はい,わかりました(小さな声で元気がない).

 場面2では,甘いものを控えたり,油ものを減らしたり,栄養士の指導を守るように工夫したりと,患者さんが努力をしていることが受け取れます.その努力を認めずに,もっとがんばらないとダメと言われてしまうと,患者さんはやる気が出るどころか,がっかりしてやる気をなくしてしまいます.セルフケアが円滑に行われるには動機付けが大切で,動機付けに反する「がんばって」は百害あって一利なしとなりかねません.

(つづきは本誌をご覧ください)