HOME雑 誌medicina誌面サンプル 46巻10号(2009年10月号) > 連載●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル
●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル

第1回 テーマ

患者満足度と医師のコミュニケーションスキル

和座一弘(わざクリニック)


【キーワード】
●患者満足度調査
●外来診察
●非言語的コミュニケーション

事例紹介

 開業して3年ほど経過し,外来患者数も順調に増えていたのですが,院長は,外来患者を診ながらも,何か「しっくりとした感じ」をもてないでいました.

 例えば,こんなやりとりです.

患者「昨晩は胃がすごく痛かったのです」
院長「そうですか.痛いのは,食後ですか? 食前ですか?」
患者「食事の前ですね.この痛みは1カ月ほど前から出てきました」
院長「そうですか.それでは,診察しましょう」
患者「……はい」

 そこで,患者満足度調査を実施しました.その調査結果は,衝撃的でした.医師の面接で大切とされる,さまざまな項目に問題があったのです.患者数の増加に伴い,数をこなすような態度が出ていたのかもしれません.まず患者の訴えに耳を傾ける態度・初心の原点に戻ることが必要でした.

 これからも,定期的にこの満足度調査で患者の声をモニターしながら患者の不満の芽を早く刈り取り,また,医療の質を上げていくために努力したいと院長は考えています.

■なぜ患者満足度は重要なのでしょう?

 一般の病院・診療所の外来患者の満足度と,医師のコミュニケーションスキルの相関関係を調査した研究があります.患者の満足度は,・受付・看護師の態度,待ち時間の満足度,・医師に関する満足度,・自覚症状や,精神的な悩みの軽減に関する満足度の3点から分析した場合,約7割までが医師に関する要因で決定されているそうです1).また,その医師に関する要因をさらに分析した結果は,医師の聴く態度・わかりやすい説明であるといわれています1).以上のように,医師のコミュニケーション能力は,外来患者の満足度と高い相関関係があることがわかっています.それでは,この患者満足度は医師にとって,どのような意味があるのでしょうか? 実は,患者の満足度が上がることは,その後の患者・医師との信頼関係を良好にして,服薬などのコンプライアンスも上がり,治療効果も良くなると言われています2)

 私の診療所では,開業2年目,3年目,さらに5年目,7年目とこの患者満足度調査を実施しています.この調査によって,いろいろな課題が見えてきました.

■患者満足を高める「取って置き」のスキル

 まずは,3年目の満足度調査からです.3年目に入って外来患者数も少しずつ増加し,外見上は順調に見えました.しかし,何か,患者を診ていてしっくり来ない感じを抱いていたのです.調査結果を見て,愕然としました.医師のコミュニケーションのさまざまな項目において,低い評価だったのです.特に,「話の整理」「うなずきながら聴いた」「共感」が課題でした.実は,これらの項目はすべて,ベテランの臨床医でも忘れがちで,しかも,医師が達成した場合は,患者の満足度が比較的高くなるいわゆる「取って置きのスキル」なのです.

整理・要約する/うなずきながら聴く/共感

 具体的にお話ししましょう.1つは,「話を整理・要約すること」です.「少し○○さんのお話をまとめさせて頂けますか?」との一言は,患者に「この医師は,自分の言った内容をしっかりと受け止めている」と感じさせるでしょう.また,話の流れを交通整理することにもなります.

 次に「うなずきながら聴いた」が挙げられます.患者が,診察の導入部で,訴えを語りだした際,その言葉に真剣に耳を傾けているサインとして,この態度は重要です.「うなずきながら聴く」医師の姿をみて,自分の訴えが医師によって受容され,会話が促されていることを患者は感じ取るのだと思います.

 最後に「共感」が挙げられます.患者さんが「その時は胃がすごく痛かったのです」と言ったとします.その場合「そうですか」と素っ気なく答えるのと「それは大変でしたね」と応じるのとでは,天と地との差があるでしょう(事例参照).

 以上これらの3つのスキルは,患者とのコミュニケーションの中で,意識して使うことで,患者の診療に対する満足度を上げ,ひいては,医師患者関係を良好なものにする,「取って置きのスキル」なのです.

初心に返る

 ところが私は,外来患者が増えてきた中で,これらの取って置きのコミュニケーションスキルを十分に使いこなす余裕を失っていたのです.患者数をこなす態度が出ていたわけで,大いに反省すべきでした.この満足度調査は,開業当時の「患者とのコミュニケーションを何よりも大切にしよう」とした初心に返ることを気づかせてくれました.それ以降は,短い時間内でもメリハリを利かせて,上記の項目を意識しながら利用するように心がけました.また,「今日は,話を整理する日」などと宣言しながら,その日特有のテーマを設定して,コミュニケーションをとるように心がけています.

■職員とのコミュニケーションの改善

スタッフの思いを汲み上げる

 さて,5年目の満足度調査の結果です.今度は,患者からの看護師や受付・事務への評価が低く(図1),「視線・物腰・言葉に温かみがあった」,「笑顔で迎えてくれた」などの項目に課題が出てきました.私が患者とのコミュニケーションに注意を向ける程度には,職員とのコミュニケーションをとっていなかったのが大きな要因ではないかと考えました.職員が高い満足度で働く環境であれば,患者へのレベルの高いサービスが提供でき,ひいては,患者の満足度も上がるはずです.脇の甘さを実感しました.そのため,定期的なスタッフとの話し合いを集団・個人を対象に頻回に行うなかで,スタッフの考えにいっそう耳を傾けることにしました.また,その話し合いの中から出てきた「スキルアップをしたい」「楽しいスタッフ間のイベントが欲しい」などを汲み上げるようにしました.

自分を映し出す「鏡」をつくる

 それらのことと同時に,患者とのコミュニケーションの質を上げる作業をスタッフとの共同作業とすることで,私とスタッフとの連帯感を高め,スタッフ間の満足度を上げることも必要ではないかと考えました.1つの具体例は,私のコミュニケーションスキルを映し出す「鏡」をつくることであり,その「鏡」に日々の診療を一緒にしているスタッフになってもらうことです.私は1人で診療をする開業医です.1人開業の場合,特に注意すべき点として,「蛸壺」に陥ってしまうことが挙げられます.つまり,日常の診療が密室化してしまい,診療の質の低下を招いてしまう危険性です.それだからこそ,自分の診療を客観視できる仕掛けが必要ではないかと考えるわけです.これは,診療の中心にあるコミュニケーションスキルでも同じことです.

フィードバックする

 私のクリニックでは,看護師が予診をとり,カルテに記入してくれます.まさに,カルテを通じて,患者とのコミュニケーションを共同作業として行っているわけです.私は,この予診の取り方をさらに利用するように心がけるようにしました.つまり予診の取り方で問題点があれば,カルテを媒介に看護師にフィードバックすることを積極的にすることにしました.また,私の診察についても,日々気の付いた点を大いに話してもらうようにしました.

 この取り組みでの具体的なお話をしましよう.私は,診療の中で,いろいろと生活指導をしたいので,話すことが多くなります.「先生は,早口で,患者は十分に理解していませんよ.話が一方的です」と看護師からフィードバックされました.そこで,例えば,下痢のときの水分や食事の取り方,また,溶連菌性咽頭炎や,流行性耳下腺炎についての注意点(子どもの場合は,登園停止について)などを看護師のスタッフにまとめてもらい,パンフレットを作成しました.私は,要点のみを患者に伝えるだけで,看護師が,さらにパンフレットを使って詳細な説明をするようにしました.このことにより,診療の流れもスムーズになってきました.私の患者に対する話し方も少しは余裕が出てきたようです.

■非言語的コミュニケーションの重要性

 最近の調査結果をお話しすることで締めくくりたいと思います.今回の調査では,医師のコミュニケーションスキルの分析でいろいろ課題が見えてきました.このスキルの個々の分析により,患者の満足度に大きく関与する要素が新たに明らかとなっています.例えば,・視線を合わせて話をした,・視線・物腰・言葉に温かみがあった,・うなずきながら聴いた,・身なりや髪型がきちんとしていた,・話を整理した,・表情は何でも聞ける雰囲気であったなどは,上位にランクされます.

 今回,私の課題として挙がったのは,この項目の中では,「身だしなみ」「視線を合わせて話をすること」「話の整理」でした(図2).これらは,ベテランの医師たちは,十分に習得されているはずですが,私の場合,まだまだ課題があるようです.身だしなみについては,私の場合,時間が経ってくると髪の毛が逆立ってくるのですね.服装には無頓着なほうであり反省しきりです.また,「視線を合わせて話をする」では,相手や,自分の話の急所ではしっかりと視線を合わせることも大切です.さらに,「話を整理する」も,私の場合,1回目調査時と同様に平均以下の結果でした.忙しい外来では,「話を整理する」ことを「はしょって」しまう傾向が出てしまったのです.戒めなければいけませんね.

 上位にランクインする項目は,言葉そのものより,表情や,視線,言葉の温かみなど非言語的要素である点に注意してください.医療面接は本当に奥が深いと思います.

■コミュニケーションスキルは医師の満足度も上げる

 「コミュニケーションとは,生きる力である」との言葉があります3).たしかに,コミュニケーションを通して,人間は,お互いに豊かな時間を共有できるのでしょう.臨床医という仕事は,多くの不特定多数の人々と,病気を介して,コミュニケーションする仕事です.その作業の中から生きる力を患者から頂くこともたびたびです.このコミュニケーションの実態を客観的に分析して各項目の課題をモニターしながら,患者と豊かな時間を生きて行けたらと願っています.

(次回につづく)

文献
1)前田 泉:実践 ! 患者満足度アップ,日本評論社,2005
2)松村真司,箕輪良行(編):コミュニケーションスキルトレーニング──患者満足度の向上と効果的な診療のために,医学書院,2007
3)斎藤 孝:コミュニケーション力,岩波書店,2004