HOME雑 誌JIM > 2012年11月号(22巻11号)Editorial

JIM 2012年11月号(22巻11号)Editorial

家庭医の基本的臨床能力としての
家族アプローチ法

伴 信太郎(名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学専攻総合診療医学)


 現在,米国の家庭医レジデンシーのカリキュラムとして,家族アプローチの基礎がどのように組み込まれているのかはわかりませんが,私がレジデントであった1980~83年には,少なくとも私が所属していたレジデンシープログラムには,系統だった「家族アプローチ法」を学ぶカリキュラムはありませんでした.帰国後,家庭医として家族にアプローチすることは,予防的にも,診断的にも,治療的にも有用だと感じて独学をしていました.ミニューチンの構造的家族療法を主な教材にし,日本の社会学者や心理学者が書いていた一般書を参考にしていました.

 家族というのは,人間を取り巻く環境のなかで最も密接なものです.その関わり方によっては,強力な医療資源にもなりますし,病いの原因にもなります.また家族構成員の性格(生得的にも環境的にも)や価値観,あるいは習慣に大きな影響を与え,それが健康問題にもつながります.

 家族には,その構成員に対するさまざまな機能があります.一つは「教育的機能」(意図的教育とそうでないものがある)です.また「生活保障機能」もあります.家があって,暖房があって,といったことです.さらには,「相談機能」があります.子どもが大きくなってきますと,教育機能というよりは相談に乗ると役割が増えてきます.「相談機能」は「情緒安定化機能」という表現がなされることもあります.最後に,これはあまり社会学的な家族機能という議論のなかには出てこないのですが,私は「絶対支持機能」と呼べるような機能が家族にはあると思います.「たとえ他人が何を言おうとも私はあなたを信じているから!」というような機能です.これらの機能はある程度独立的なもので,貧しい(生活保障機能が低い)と教育機能が低いかというと必ずしもそうではありません.

 医療者は,これらの機能を,家族歴やキーパーソンを明らかにする過程である程度,無意識ながらも評価しているものです.とくに後者は,生活保障機能や健康問題に関する相談機能・教育機能を担っている人を同定していると言えます.

 家族機能に配慮のない医療者がよくやる間違いの一例に,機能の担い手に非常に偏りのある場合─たとえば母親が専ら子どもの教育係を担当しているような場合─原因を母親に求める,あるいは対応を母親に委ねるといったことがあります.これは家族機能としてバランスを欠いている家族に対して,アンバランスをますます助長させていることになります.家族機能に配慮するなら,このような場合に医療者が取るべきアプローチというのは,多少なりともこのようなバランスを欠いている家族機能を修正するように─たとえば父親の関与を引き出したりすること─が一法となります.

 家族の関わりが構成員の健康にプラスに働いたり,マイナスに働いたりするエビデンスは少なくありません.家族アプローチ法は家庭医の基本的臨床能力の一つと言ってよいと思います.