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JIM 2012年3月号(22巻3号)Editorial

チームを動かすコンサルテーション

松村 真司 (松村医院院長)


 テレビ版と映画版の『ドラえもん』のストーリーの違いは,テレビ版ではのび太をいつもいじめているジャイアンとスネ夫が,映画版ではドラえもんとしずかちゃんを加えた5名のチームの一員になって,宇宙や恐竜時代といった大きな世界をのび太とともに一丸となって冒険するという点である,と聞いたことがある.ふだんは仲違いしていても,克服すべき目標がより大きなものになると互いに結束しあうことが大事,ということだ.

 いくら孤独を好んだとしても,人は一人では生きていけない.世の中には一人では実現できないものが無数にあるからこそ,チームワークは大切でありそれは多くの物語を通じていく度となく語られている.三銃士,真田十勇士,七人の侍,がんばれベアーズ.もちろん,その過程では,仲違いや裏切りなど,チームであるが故に生じる問題もつきものである.これらの問題を乗り越えさせるのは,やはり課題を克服しよう,という目標達成に向かう意思の力なのだ.

 逆に言えば,目標を共有せずに協力するのは難しい.何がゴールなのか,誰が何をしているのかが不明,しかも価値観の異なる人と一緒,となると自分の目先の任務を果たすことだけが純粋な目的になりがちである.組織が大きくなればなるほど,そして各部門の専門性が高くなればなるほど,目的も価値観も共有しづらくなる.

 本号の蒲生論文によると,組織とは「相互にコミュニケーションをとることができ,協働意思を持ち,共有目的を達成する意思を有する人々が存在するときに成立する(→p181)」ものである.私の診療所のような小さな組織ですらこれらを成り立たせるのは難しいので,組織の規模が大きくなればなるほど,その困難さもまた大きくなるであろう.

 本号は,総合診療・家庭医療の根幹をなす仕事の一つであるコンサルテーションについて,「チームを動かす」という視点から企画してみた.本特集が,私たちが今目前に抱える大きく複雑な問題の解決に少しでも役に立てば幸いである.

 さて,今わが国が直面する課題も,言うまでもなく大きく複雑である.課題が大きすぎて途方に暮れ,ともすれば悪者を探し出し,どこが悪い,誰が悪い,と責めたい気持ちにもなる.しかし,この国に関わっている私たちはどこまで本気で互いに「コミュニケーション」をとり,「協働意思」を持ち,「共有目的を達成する意思」を持とうとしているだろうか.そもそも,私たちが今持つべき共有目的とはなんであろうか.

 昨年の春,悲しみに打ちのめされた私たちは,その悲しみを抱きしめ,それでも絶望することなくこれからも未来を作っていこう,と誓ったのだ.私たちは,欲望を横に置き,「協働して」「共有目的を達成する」意思をしっかりと抱え続けなければならない.

 あれからまもなく1年.

 私たちの生活に終わりは来ない.いや,これからも果てしなく続くのだ.