JIM 2011年1月号(21巻1号)
年賀状
松村真司(松村医院)
ここ数年,お正月はひとり静かに迎えている.
お正月の間,診療所外来は休みである.ただ,どのみちレセプト点検作業や不安定な在宅患者さんの訪問もするので,遠出もできない.とはいえ,患者さんも正月早々お医者さんと会うことを好まないため訪問件数は少ないし,コンピュータのおかげでレセプトも大晦日にちょっと遅くまでがんばれば,三が日は比較的のんびりした時間を過ごすことができる.私以外の家族はみな,東北にある家内の実家に里帰りすることもあり,訪問診療が終われば静かな時間がやってくる.というわけで,元日の午後には,届いた年賀状を誰もいない診察室で,暖かい物でも飲みながら一枚一枚見ていくことになる.最近では,旧友やお世話になった人たちからの年賀状とともに,いつも連携をとっているさまざまな事業所からの賀状の枚数が年々増えている.ケアマネジャー,訪問看護ステーション,居宅介護支援事業所,調剤薬局,医療機器会社,そして連携医や病院の医師などなど.在宅診療に限らず,プライマリ・ケアというのは実に多くの人びととの連携・協力によって成り立っている,と実感する瞬間である.
さて,2011年,新しい年の第1号の特集は,「歯科口腔外科との連携」である.私のような医師にとっては,「口のなか」は体のどの部分よりも見る機会が多いはずなのに,なかなか「歯」には着目しないものである.不思議なもので,咽頭を見ているのだからその前にある歯牙も視界に入っているはずであるが,意識しないものは見えてこないものである.見えていなければ,連携も始まらない.まずは「歯」に意識を向けることから始めたい.
本号の特集論文を読み,改めて感じたことは,「生きることは食べることである」というごく当たり前のことである.祝いの席でも,悲しみの席でも,人は集まり,そして食べる.もちろん,家族の何でもないひとときにも,食は常にその中心にある.社会構成の変化に伴って,家族や生活のあり方が変容する時代にあっても,食,そして人とのつながりはいつまでも私たちの生活の基盤である.生活に寄り添うことを仕事の中心に据えているプライマリ・ケア医にとっては,人びとの食を支援することはきわめて重要なことであり,そのためには歯科・口腔外科とのつながりは,強固なものにしておかなければならない.
静かなお正月のひととき,一枚一枚届いた年賀状を眺めていると,しばらく会っていない旧友からの懐かしい便りが目にとまる.生まれ故郷で仕事をしているのだから,会おうと思えばすぐ会えるのに,なかにはもう十数年も賀状のやりとりだけを続けている友もいる.賀状の写真の中の子どもたちの成長に反して,写真の中の友は少しずつ老いていく.村上春樹の小説に「死は生の対極にあるのではなく,その一部として存在している」という有名な一節があるが,写真に刻まれている事実はこのことを確実に,そして残酷なまでに現している.おそらく私が出した年賀状にも,同じ事実が浮き彫りになっているのだろう.年賀状という儀礼は,私たちは新しい年に,死とともにある生をまた歩み続けていくという宣言を人びとにすると同時に,人とのつながりを再確認するという行為なのだと思う.