Editorial

新・信・神フィジカル改革宣言
平島 修
徳洲会奄美ブロック総合診療研修センター長

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 2016年夏、映画『シン・ゴジラ』(庵野秀明総監督、東宝)が公開され、空前の大ヒットとなった。約1年半経った今でも、その余韻は残っている。これまでのゴジラシリーズと、『シン・ゴジラ』は何が違ったのか?

 1つは、「リアルな描出」である。近年、CG(コンピュータ・グラフィックス)技術の発展により、アクションからアニメーションまで、人物や建物の細かな描写から動きまで、鮮明に描かれるようになった。ゴジラも、シリーズ当初の着ぐるみからCGへと変わり、より恐ろしい存在に見えた。

 しかし、私が『シン・ゴジラ』に心揺さぶられたのは、リアルな描出だけではない。この映画が最もリアルに描いたのは、ゴジラという脅威に対する住民の反応や政府・自衛隊の動きの生々しい描写であった。私たちは、2011年3月11日に東日本大震災を経験し、地震、津波、そして原子力の恐ろしさを知った。そして、困っている人がいたら、自分も苦しくても助け合うという、日本人の温かい精神を知った。『シン・ゴジラ』は、CG技術や過去シリーズの既成概念にとらわれることなく、“脅威”に対する日本人の心をリアルに表現した革新的な映画であったと思う。

 そこで私は、1人でも多くの患者が救われるためにできることは何か、を第一に考えた。最新検査機器などの道具の取り扱い方を語るのではなく、診察する医療者と患者さんの息づかいまでわかるような、本音で迫る「身体診察」の特集を組むことである。特集タイトル「シン・フィジカル改革宣言!」のシンには、「信じる」「新しい」「神技」という3つの“シン”への思いを込めている。

 「身体診察には自信がもてない」「身体診察を丁寧に行う医師が周りにいない」「教えてくれる師がいない」……。そういう声はもうやめにして、とにかく最後まで信じて読んでほしい(p.12)。「信じて」読んだ方は、患者さんを診察したくて居ても立ってもいられなくなるはずだ。

 そして、身体診察なんて何百年も前からあって「古い」とお思いかもしれないが、そんなことはない。身体診察は、毎日が「新しい」発見の連続である。同じ疾患でも診察所見は1人ひとり違うため、この病気はこの診察で100%決まるという診察法はなく、簡単な視診・聴診1つとっても「新しい」発見ができ、そこには感動が秘められているのである(p.16・18)。

 さらに、今回執筆をお願いした先生方は、これまで全国で行ってきた身体診察勉強会(Physical Club)で、私が出会った“フィジカル師範”である。師範の得意とするところの「神技」を、ユニークな発想を交えて楽しく、かつ実践でしっかり使えるようにこだわって披露していただいた。診察への細かいこだわりだけでなく、診察にかけるスピリットまで、余すことなく吸収してほしい。

 ここに、既成概念にとらわれない身体診察の新しい改革、「シン・フィジカル改革」を宣言する。