Editorial

“めまい”に目を回さないために
上田剛士
洛和会丸太町病院 救急・総合診療科

 “めまい”は非常によく遭遇する症状で、一般外来を受診する患者の2%が、1年以内に“めまい”を経験するとされます1)。そこで本特集では、日常診療において避けては通れない“めまい”を取り上げることにしました。

 “めまい”の語源は「目が回る」とされていますが、漢字で表記すると、「眩暈」や「目眩」となります。「玄」には「黒、闇」という意味があり、「暈」とは太陽または月のまわりに見える輪のような光を指します。つまり、同じ“めまい”という言葉の中に、前失神や回転性めまいが含まれていることになります。このことからもわかるように、“めまい”を起こす病態にはさまざまなものがありますが、“めまい”の性状による分類は、必ずしも病態を正確に反映しないことが、診療をより難しいものにしています。

 そこで本特集では、“めまい”を末梢性・中枢性などの病態に最初から分類することはせず、臨床的特徴から分類を始めることで、日常診療の場で応用しやすいように心がけました。執筆していただいた先生方には、読者の皆さんが頻度の高い疾患について理解を深めるためだけではなく、重篤な疾患を見逃さないための“診療のコツ”や“ピットフォール”についても言及をいただいています。

 特に“めまい”のなかでも頻度の高いBPPV(benign paroxysmal positional vertigo:良性発作性頭位めまい症)については、一歩踏み込んだ企画となっています。一見複雑な耳石置換法も、動画を用いて整理していますので、「今まで耳石置換法は行ったことがない」という先生方でも即実践につながるのではないかと、つまり本特集を通じて、耳石置換法が今後の“めまい”診療において強い武器になるのではと信じております。

 また、画像診断に頼らない診療方法は、医療資源の限られた環境で診療されている先生方のお役に立つばかりではなく、救急外来においても、より質の高い診療を提供できる方法として、ぜひ皆さんに活用していただきたいと思います。

 最後に、「片頭痛によるめまい」「頸性めまい」「薬剤性めまい」はよく遭遇する病態であるにもかかわらず、注目を浴びることが少ないようにも思いますので、本特集では、これらの疾患についても取り上げました。

 本特集は、日々の診療で遭遇する“めまい”を幅広くカバーしながら、一歩深く踏み込んだ構成となっていると思いますので、総合診療に携わるすべての医師にとって、有意義な企画となることを願っています。

文献
 1)  Bird JC, et al : An analysis of referral patterns for dizziness in the primary care setting. Br J Gen Pact 48(437) : 1828−1832, 1998. [PMID] 10198501