Editorial

「技術」としてのコミュニケーションを考える
本田美和子
国立病院機構 東京医療センター 総合内科

 現在、医学のすばらしい研究成果や技術革新が生まれる一方で、臨床の現場ではいろいろな困ったことが起きています。特に「高齢者医療」を巡る問題は、単に医療の分野にとどまらず、国家的な課題として捉えられるようになってきました。私が、初期研修を受けた東京医療センターで2011年の秋に再び働くことになったのも、研修医時代の先輩、鄭東孝先生(p.581)と尾藤誠司先生(p.572)から、「高齢の患者さんがとても多くなって、検査と薬だけでは治せなくなってきた。この問題を解決するために一緒に仕事をしないか」とお誘いを受けたからでした。

 もちろん、純粋な医学が医療の本質であることは間違いありませんが、私たちが「届けたい医療」を相手に受け取ってもらうためには、私たちがそれを「届ける技術」を身につけなければならない時代になってきました。そして、これは高齢者のみならず、すべての年齢層のどの患者さんに対しても同様です。

 今回、『総合診療』から特集のゲストエディターとしてお招きいただいた時、私はこの「届ける技術」についてお伝えしたいと考えました。本特集の執筆者は皆、私の親しい先輩や友人で、「届ける技術」について共に語り合ってきた方々です。そして、「コミュニケーションは、医師の“ツール”であり、いわば“処方”できるものなのだ」という観点からお考えを教えてください、とご執筆をお願いしました。

 同級生の横谷省治先生(p.576)や当センターの同僚など、総合診療の専門家としてご活躍の方々には、現場でよく遭遇する問題とその解決法についての論考をいただきました。さらに、総合診療の分野だけでなく、最近、まったく新しい精神疾患へのアプローチとして注目されている「オープンダイアローグ」については、その日本への紹介者である斎藤環先生(p.587)に総合診療医が日常の仕事にすぐにも活用できるようなご解説を、また、がん治療・緩和医療でのコミュニケーションについては、後期研修医時代の同僚だった田中桂子先生(p.604)に緩和医療の専門家からのご提言をいただきました。

 次いで、現在私が取り組んでいる、知覚・感情・言語による包括的ケア技術「ユマニチュード」(p.593)について、多くの友人の力を借りました。共同研究者として、情報学の専門家である中澤篤志先生(p.621)と竹林洋一先生ら(p.615)、心理学の吉川左紀子先生(p.603)、地域医療の現場から今村昌幹先生(p.600)、介護研究のエキスパートである看護師の伊東美緒さん(p.628)に、それぞれご自身の立場からコミュニケーションについての論考を寄せていただきました。

 最後に、今回最もうれしかったのは、医師からのコミュニケーションを受け取る当事者として、3人の友人、作家の坂口恭平さん(p.624)、樋口直美さん(p.626)、アナウンサーの佐々木恭子さん(p.547)にご自身のご経験を教えていただけたことです。臨床医がなかなか得ることのできないフィードバックとして、お読みいただけたらと思います。

 本特集がお読みくださる方々のお役に立つことがあれば、うれしく思います。