Editorial
「病歴・身体所見」と「超音波」は
互いに助け合う!

亀田 徹
安曇野赤十字病院 救急科

私事で申し訳ありません
 救急の現場に関わってきた私が,超音波(エコー)に興味をもち,取り組むようになったのは,今から思えば2つの理由があります.

 1つは,2000年頃に日本で普及し始めた,片手で持ち運び可能な超音波装置との出会いです.画像診断が,“場所を選ばずどこでも可能になった”という事実に衝撃を受けたのであります.「いずれ診断学にパラダイムシフトが起こるんじゃないか!」と,まだまだ医師として修練が必要な身でありながら,生意気なことを考えていました.

 もう1つは,超音波検査技師の方が,適宜プローブで圧迫しながら,「ここ痛いですか?」と「身体所見」をとりながら,短時間で病変を見事に描出することに衝撃を受けたのであります.時には医師の診断推論を見事に覆すのでした.そして,思ったのです.法律上は,検査技師の方は診断を下すことはできませんが,「プローブを握れば,医師よりも診断能力は上なんじゃないか!」と.

 幸いにも,それから超音波検査室で,超音波指導医や超音波検査技師の皆様から手ほどきを受け,集中的に超音波のトレーニングを受ける機会に恵まれました.その後救急の現場に戻り,救急室で超音波を利用すると,多くの病変が特定でき,超音波の有用性を改めて実感したのであります.

 しかし当時,救急の現場では,周囲の反応は冷ややかでした.「ちょーおんぱ,めんどうですよね~」と同僚からあしらわれ,「どうせCT撮るんじゃないんですか?」と研修医から真顔で返答され,「CT撮ってからコールしてくれない?」と専門医から面倒くさそうに言われる始末.救急関連の学会発表では,超音波に関する発表を私が行う番になった時に,セッション参加者の大半がそそくさと退室していく光景は,今でも忘れられません…….

時代は,変わった!
 ところが! 昨今では日本語に訳しにくい「ポイントオブケア」という言葉も広まり,私が悶々としていた時からすると,大袈裟かもしれませんが,私にとっては隔世の感があります! 今日では学会などのoff the jobの場面では,「超音波ハンズオンセミナー」が大人気です.これからますます超音波への視線が熱くなってくるでしょう!

「病歴」と「身体所見」があってこその超音波!
 近年,ベッドサイドで医師が行う「Point-of-Care超音波」の有用性が,数多くの臨床研究を通じて明らかになってきましたが,真に患者ケアに役立つかどうかについてのエビデンスは不足しています.超音波は,病歴と身体所見に代わるものではなく,的確な病歴と身体所見があってこそ,ポイントを絞った超音波が可能となります.いかに超音波で「病歴」と「身体所見」を補い,よりクオリティの高い診療を展開するかが,これからの総合診療領域での重要なテーマの1つになってくるでしょう.

 本特集では,超音波のパイオニアの方,超音波教育の第一線でご活躍の方,そして本領域での活躍が非常に楽しみな方にご執筆いただきました.お原稿を読むと,外来診療の一部として超音波を「うまく」活用される様子が,臨場感とともに伝わってきます.本特集が「真に役立つPoint-of-Care超音波」について,読者の皆さんに考えていただくきっかけになれば幸いです.