巻頭言
特集キャリアとして選ばれる地域病院

 超高齢社会が進み,全国各地で地域包括ケア体制の整備が重視されている.医療に関しては,単一の疾患に対する画一的で短期間のサービス提供でよかったこれまでの急性期中心の医療から,回復期・慢性期・終末期といった継続的かつ多くの障害や疾患を併せ持つ患者の在宅復帰までの個別的なきめ細かいサービス提供が求められるようになってきた.これからの医療者は,より幅広い健康問題に対応し,患者の生活背景を踏まえ,多職種と連携して適切な介入をすることが必須となる.個々の地域でそれぞれの地域ニーズに応えられる医療人をどう育成するかが喫緊の課題となっている.本特集では,地域で教えるという医療人育成の面で先駆的な仕事をしてこられた方々に執筆をお願いした.医師のキャリア形成の上で選ばれるような病院や地域となるための知恵を学びたい.

 吉村論文では医学生の臨床実習をもっぱら地域の病院を活用することで職業人としての臨床医の育成に力点を置いた精力的な取り組みが報告されている.川本論文では長く地域病院に従事した立場から,地域でこそ教えられる地域包括ケア,在宅を含めた終末期ケアなどを教育・研修の中心として特徴付ける視点が述べられている.川島論文では地域病院で必要とされている病院総合医に求められる資質・技能・能力について述べられており,病院の方向性・期待を明確に若手医師に伝えることの重要性が説かれている.

 事例紹介は,いずれも都市部とは離れた地域の中小病院で,医師確保や病院運営にとって極めて厳しい状況の中で,若手医師の確保に一定の成果を上げ地域医療に貢献している報告となっている.仲田論文では自院での質の高い勉強会を広く公開することで勉強熱心な研修医が全国から集まってきたことが報告されており,若い研修医を引きつける著者の地域医療にかける誠意・熱意がひしひしと伝わってくる.大谷論文では総合診療に限らず外科や内科であっても総合的に対応できる医師の育成が重要で,その育成が今や若い医師の魅力の一つになっているという心強い内容が紹介されている.また,大野論文では地域包括ケアを実践する上で要となる「地域密着型ハブ病院」としての役割が示されており,やはり学生・研修医に対する教育を重視することが強調されている.

 本特集の論文では等しく今後の医療人の育成に地域を活用することの重要性が述べられている.医療人育成の改革が地域から起こる,そんなことが予感できる.

台東区立台東病院管理者山田 隆司