巻頭言
特集ダイバーシティ・マネジメント
多様性に対応する

 「病院のダイバーシティ・マネジメント(以下,DM)」を特集テーマとして取り上げるに当たり,筆者は当初,「そもそも病院にDMは関係があるのか」,さらに「必要なのか」という疑問を抱いていた.巻頭言を記している今,それは「これからの病院経営にDMは必要不可欠だ」という確信に変わった.

 さまざまな人種のスタッフが集まって仕事をする多国籍企業でDMが必要なのは誰でも理解できる.それがなぜ今,日本の病院経営でも必須なのだろうか.日本の病院で働くスタッフはほとんどが日本人であり,ダイバーシティがないように見える.そこが落とし穴なのである.現代の病院は実にさまざまな職種のスタッフが集まる職場になった.たとえ日本人同士であっても,それぞれの職種の文化が大きく異なるために意思疎通がうまくいかないことも多い.それが高ずると,職種間で断裂が生じたり,上下関係が生じたりした結果,スムーズな医療提供ができない事態に陥りかねない.さまざまな職種の集まる病院を,別々の国々の人種が集う多国籍企業と捉えてみてはいかがだろうか.

 まず,本特集の木谷論文で,DMがなぜ病院経営に必須なのか,実は現代の病院は知らないうちにDMに取り組んでいるのだがどこに課題があるのか,病院DM経営の総論として熟読願いたい.次に,安倍政権の下で平成31年3月までに結論を出すとしている厚生労働省の働き方改革の進め方を,堀岡論文で確認いただきたい.

また,以下の4名の論者に事例報告をお願いしたので,参考にしていただきたい.
・DMを組織価値創造のための「多様な人材の活用」であると明快に捉え,女性医師として病院経営を担う調布東山病院の小川理事長
・女性医療従事者,特に女性医師の働きやすい環境づくりに長年努めている聖隷三方原病院の荻野院長
・スキーをはじめアウトドアスポーツで世界的に有名になった北海道ニセコに位置し,訪日外国人観光客が年間多数受診する倶知安厚生病院の九津見院長
・障害を持つ人の就労を支援する立場と同時に雇用する立場としてDMに取り組む精神科病院・住吉病院の中谷院長

 最後に,「果たして病院でうまくDMを進められるか,そのためにどうすべきか」については,片岡仁美先生との対談を参考にしてもらいたい.

 これからの病院経営にDMが必須であることを少しでも理解いただければ幸いである.

公益財団法人慈愛会理事長今村 英仁