巻頭言
特集機能転換が拓く病院の未来

 進みゆく超高齢社会を背景に,限られた医療資源の中での地域包括ケアの実現に向けて,地域医療構想に基づく病院の機能転換が進められている.地域の各病院には,二次医療圏の中での自院の果たすべき役割分担を見据え,地域内のニーズに的確に応え得る変革が求められている.近視眼的な診療報酬制度の誘導に惑わされず,先を見据えた施設の役割を検討する必要に迫られている.本特集では既に機能転換を果たしてきた病院の実例から,それぞれの経緯や課題を通して,今後の方向性を探りたい.

 今村論文では,高齢化に伴う疾病構造の変化に即した病院機能転換の必要性およびその後の人口減少を見据えた対策を講じる必要性が説かれている.加納論文ではこれまで民間病院が果たしてきた役割を振り返り,今後それぞれの地域内で公的病院との協議を踏まえ自院の役割を明確にしていくことの重要性が説かれている.武久論文では療養病床に関する国の医療制度の変遷を踏まえ,今後は広域急性期病院と地域多機能型病院に収束するという論説が提示されている.いずれもこれまでの歴史的経緯を踏まえた現状認識が土台となっており,今後の方向性に対して説得力がある内容となっている.

 また小熊論文では砂川市という医療過疎地域の拠点病院での機能転換の実例が,小西論文では同じく医療過疎地域での国保病院でのサービス付き高齢者住宅の併設というユニークな実例が示されており,医療資源の限られた地域での今後の公的病院の役割を示唆している.一方,芳野論文では地域の民間病院の亜急性期に的を絞った取り組み,難波論文ではまさしく地域多機能病院として地域ニーズに応えた取り組みが示されており,今後の民間病院の方向性が学び取れる内容となっている.

 急速な高齢化,それに伴う高齢者の医療ニーズの変化によって,これまでの単一疾病に対する治療という単純モデルから,必ずしも治らない多臓器にわたる障害を抱えた高齢者への終末期も見据えた支援という複雑系モデルへの転換が必要とされている.そのためには医療システム全体の見直し,それに合わせた医療人材,病院のあり方の変化が求められている.長寿社会先進国として,わが国の病院変革は待ったなしの状況であると言って過言ではない.

 本特集が,この変革の一助となれば幸いである.

台東区立台東病院管理者山田 隆司