巻頭言
特集看護職のタスクシフト・タスクシェア

 超高齢社会に伴う医療需要の量的拡大とともに,患者の価値観の変化が起きようとしている.これまでの医療者目線の標準的な治療から,患者や家族の価値観に応じた「個」への対応が求められ,その治療法や生き方,死に方の選択が多様化してきた.一方,新しい知見の蓄積や医療技術の進歩もとどまるところを知らない.

 新たな「量と多様性の時代」へ医療従事者が個人で対応するのは不可能であり,総力戦としてのチーム医療の充実は必須となろう.他方,職種の細分化が進み,さらには組織の中で「認定」や「専門」など高度化・専門分化していく.それぞれがどのように立ち振る舞うことで,患者の益を生むチーム医療が構築されるのであろうか.

 いろいろな観点からチーム医療の効用には枚挙に暇がない.その一つとしてタスクシフト・タスクシェアには,各職種を本来業務に集中させ,生産性を向上させるという効用があるに違いない.

 医療職の働き方改革が叫ばれる昨今,医師の負担軽減策として,タスクシフトの受け手の一つは言うまでもなく看護職である.

 なかでも,特定行為にかかる看護師の研修制度(以下,特定行為研修)は特異で,そもそもチーム医療の論議の中から医師のタスクシフトを推し進めるために誕生した.

 特定行為研修は看護師の業務としての「診療の補助」「療養上の世話」の延長線上で臨床推論,病態判断力を強化する.本特集の荒木論文では,これを日本看護協会の認定看護師カリキュラムに取り込むといった新たな方針が報告された.厚生労働省の島田・後藤両氏は特定行為研修修了看護師をチーム医療のキーパーソンと位置付けて期待を寄せる.しかし,看護職も受けるばかりでは働き方改革に逆行する.当然,看護職の負担軽減策として,その仕事のタスクシフト・タスクシェアが求められるだろう.望月論文では看護業務のタスクシフト先としての他職種の可能性について調査結果を挙げていただいた.重要なことは,仕事の一方的な押し付けではなく,仕事を受ける側の納得感やモチベーションを十分に配慮する姿勢だろう.また,横倉論文では,地方の中小病院だからこそ必要という視点から,星論文では看護師のキャリアパスと地域看護力の向上や均てん化の視点から,北川論文では具体的な在宅看取り事例の視点から,それぞれ特定行為研修修了看護師をどう育て,活用するかを考察いただいた.

 時は,特定行為研修の見直しを控える.本特集では,看護職のタスクシフト・タスクシェアを『病院』目線で検討したい.

社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理事長神野 正博