巻頭言
特集「生きる」をデザインする病院医療の再構築に挑戦する

 日本の社会構造は急速に変わりつつある.それは,少子高齢化,人口減少というこれまで世界で誰も経験したことのない社会である.それに伴って,社会保障ばかりではなく,産業や経済,財政,社会インフラ,雇用などで多くの変革が必要だ.加えて,本特集の高橋論文でも触れられているように,人々の価値観の変化への対応も不可欠となる.

 これまで,われわれ病院は,患者がドアをノックした時から病の治療に関わり,癒えるとともに手を離した.介護保険施設もまた,要介護者からのコンタクトがあった時から関わるのみであった.しかし,高齢者が増えるに従って,入院医療や入所介護の需給バランスは崩れていく.かつ,慢性的な疾患や要介護状態は癒えることはない.人は病や要介護状態と共存したまま,生活の場で「生きる」必要があるのだ.

 生活の場で,人は自らの「生きる」姿勢に責任を持つのが原則である.しかし,時に入院医療が必要な場合に病院に身を委ねる.危機を脱したら癒えない慢性疾患を持ったまま,生活の場に戻らねばならない.介護サービスも同様だ.それゆえ,病院は退院後の「生きる」にも,入院時から関わり,支援していく必要がある.松田論文でも触れられたように,「生きる」ための在宅サービスはもちろん,予防,健康増進,健康管理サービスや生活関連サービスまでにも包括的に関与せねばならない.

 一方,このような社会の変化の折には,アントレプレナーやイノベーターが生まれる.前者として,医療介護といった枠を越えて,生活の場に対する思いを実現し新風を起こした大浦氏,また,国際展開に単なるアウトバウンドではなく,総合生活産業としての医療に価値を求める北原氏には,その戦略と実際を紹介いただいた.後者として,生産性向上の切り札ともいえるIT, IoT, AIなど先端技術がPrecision Medicine(精密医療)だけでなく生活環境におけるケアの向上に貢献する可能性を澤氏に紹介いただいた.

 2017年は,きたる2018年の診療報酬・介護報酬ダブル改定,地域医療計画の見直し,地域医療構想策定などに加え,医師の働き方改革など短期的な変革前夜である.しかし,大変革はこれらの短期的な変革の後にやってくる社会の変化や人の価値観の変化なのだ.それに備えた中長期的な病院のビジョン,医療者の思いを再構築する時期と心得たい.これこそ,病院が「生き(残)る」ための戦略であるかもしれない.

社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長神野 正博