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脳腫瘍臨床病理カラーアトラス 第4版

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日本脳腫瘍病理学会編集による定評あるアトラスの改訂第4版。脳腫瘍の臨床像と病理所見を、大判かつ美麗な写真と簡潔な文章でまとめた。今版では分子遺伝学的な観点から大幅な変更が加えられた2016年の新WHO分類に基づき、脳神経外科医と病理医の完全共著により全面改訂。項目を再編し、分子生物学をはじめとした最新の知見を盛り込んだ。専門医を目指す若手からベテランまで、脳腫瘍に携わるすべての医師必携の書。
編集 日本脳腫瘍病理学会
編集委員 若林 俊彦 / 渋井 壮一郎 / 廣瀬 隆則 / 小森 隆司
発行 2017年10月判型:A4頁:232
ISBN 978-4-260-03047-2
定価 20,900円 (本体19,000円+税)
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第4版 序

 脳腫瘍病理の歴史を紐解くと,その歴史的史実は多数認められるが,系統立った分類の確立は近年まで未着手であった.脳腫瘍の病理組織学的分類を国際的に統一する契機は,1970年に世界保健機関(WHO)に脳腫瘍組織学的分類の委員会が発足したことに始まり,1979年にWHO分類第1版『Histological Typing of Tumours of the Central Nervous System』(1979 WHO分類)として発表され,ここに脳腫瘍の組織学的診断が初めて世界的に統一された.これに呼応するように,本邦でも“脳腫瘍病理”を学術的に討論する場を立ち上げるべく,1982年にWienにて開催された第9回国際神経病理学会の市庁舎での晩餐会場で,石田陽一先生(群馬大学病理学)と景山直樹先生(名古屋大学脳神経外科学)を中心に,吉田純先生(名古屋大学脳神経外科学),河本圭司先生(関西医科大学脳神経外科学)らが企画構成して日本脳腫瘍病理研究会(のちの日本脳腫瘍病理学会)が設立され,翌1983年に第1回日本脳腫瘍病理研究会学術集会が開催されて,ここに本邦における脳腫瘍病理学の核が組織化された.さらに,本邦における脳腫瘍病理学の普及を目指して,1979 WHO分類に準拠した『脳腫瘍臨床病理カラーアトラス』(編集委員:景山直樹先生,石田陽一先生,高倉公朋先生,河本圭司先生,吉田純先生,山下純宏先生)が1988年に刊行された.

 1980年代は,脳腫瘍の組織学的診断に免疫組織化学的手法が広く導入され,新しい腫瘍型が次々と発見され報告されてきた時期であった.それらの成果を取り入れる形で,1993年にWHO分類第2版(1993 WHO分類)が発刊された.その後,1990年代における分子生物学,なかでも分子遺伝学的研究が進歩しつつあった医学界全般の傾向を反映して,2000年にWHO分類第3版(2000 WHO分類)が出版された.この2000 WHO分類では,従来の分類表と定義にとどまらず,臨床的・病理学的知見,遺伝学的知見についての解説も加えられるようになった.一方,日本脳腫瘍病理学会では,1996年の学会への昇格を機に,1999年に1993 WHO分類に準拠した『脳腫瘍臨床病理カラーアトラス』第2版を刊行した.このときより,編集委員は河本圭司先生,吉田純先生,中里洋一先生となった.

 21世紀に入ると,脳腫瘍の分子生物学的研究が加速度的な進歩を遂げ,それらの知見を盛り込んだ分類の必要性が提唱されるようになり,2007年にWHO分類第4版(2007 WHO分類)が出版された.2007 WHO分類では診断名の追加や大胆な整理などが行われたが,病理分類は従来どおりの形態的特徴によってなされ,分子生物学的所見がそのまま診断に反映されることはなかった.これに呼応して本学会では,2009年に『脳腫瘍臨床病理カラーアトラス』第3版を発刊した.第3版では,編集委員間で熱い編集会議を繰り返し,分子生物学的所見の積極的導入,電子顕微鏡学的な超微細構造の挿入,放射線画像診断学の進歩に伴う最新画像診断の重視,多様化する免疫組織学的所見の導入など,世界トップレベルの質の高い内容を目指した.

 その後,分子生物学的特徴が腫瘍の発生部位・予後とも密接な関係があることが相次いで発表され,その結果,形態学のみでの診断が臨床の実態と必ずしも一致しないことが明確になってきた.これらの成果を鑑みて,2016年5月にWHO分類第4版改訂版(2016 WHO分類)が出版されるに至った.2016 WHO分類では,従来までの組織形態学的分類とは大きく異なり,多くの脳腫瘍の病理診断が形態のみならず,臨床・画像・遺伝子変異をも考慮した統合診断(integrated diagnosis)の形となったことが最大の特徴である.他臓器のWHO分類との関係により“第4版改訂版”と呼ばれてはいるものの,内容は事実上の“第5版”といえる画期的な大改訂となった.

 今回の『脳腫瘍臨床病理カラーアトラス』第4版の改訂は,これらの潮流を迅速にしかも確実に,そして簡便に理解できるような編集とすべく,新たな編集委員間で綿密に編集方針を検討すること半年,今後注目されるであろうと思われる分子生物学的所見も随所に取り入れ,神経放射線学的診断画像や病理所見も可能な限り最新情報に入れ替え,新たな組織分類名には必要不可欠な情報を網羅しつつも,診断名ごとに情報を簡潔にまとめ,読者が理解しやすいように工夫した.また,初版から踏襲されている編集方針,すなわち,病理写真はすべて厳選された質の高い写真を大きく掲載すること,情報をコンパクトにしかもわかりやすくまとめるため,項目ごとに見開き頁に収めるのを基本路線とすること,などはできる限り遵守した.特に今回は,2016 WHO分類の改訂趣旨に合わせて,全項目を臨床医と病理医の共著とする方針とした.そのため,総勢約100名にも及ぶ執筆者には厳しい条件を課しての依頼となったが,今回の改訂の趣旨を皆で共有し,全員一丸となっての執筆・編集作業により,2016 WHO分類発刊からわずか1年あまりで本書の改訂が完遂した.これもひとえに,本邦の“脳腫瘍病理”にかける熱い研究者の方々の絶大なご理解とご協力の賜物である.最後に,本書の企画編集から刊行まで,膨大な作業を寝食も忘れて多大なご支援を戴いた,医学書院の飯村祐二氏にこの場を借りて心から感謝申し上げる.

 2017年9月吉日
 編集委員
  若林 俊彦
  渋井壮一郎
  廣瀬 隆則
  小森 隆司

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総論
 1.脳腫瘍病理の歴史
 2.脳腫瘍のWHO分類
 3.脳腫瘍発生の分子遺伝学
 4.脳腫瘍の免疫組織化学

各論
 Diffuse astrocytic and oligodendroglial tumors
  1.Diffuse astrocytoma, IDH-mutant/IDH-wildtype/NOS
     びまん性星細胞腫,IDH変異/IDH野生型/未確定
  2.Anaplastic astrocytoma, IDH-mutant/IDH-wildtype/NOS
     退形成性星細胞腫,IDH変異/IDH野生型/未確定
  3.Glioblastoma, IDH-mutant 膠芽腫,IDH変異
  4.Glioblastoma, IDH-wildtype/NOS 膠芽腫,IDH野生型/未確定
  5.Glioblastoma, IDH-wildtype variants
   a.Giant cell glioblastoma 巨細胞膠芽腫
   b.Gliosarcoma 膠肉腫
   c.Epithelioid glioblastoma 類上皮膠芽腫
  6.Diffuse midline glioma, H3 K27M-mutant
     びまん性正中膠腫,H3 K27M変異
  7.Oligodendroglioma, IDH-mutant and 1p/19q-codeleted/NOS
     乏突起膠腫,IDH変異および1p/19q共欠失/未確定
  8.Anaplastic oligodendroglioma, IDH-mutant and 1p/19q-codeleted/NOS
     退形成性乏突起膠腫,IDH変異および1p/19q共欠失/未確定
  9.Oligoastrocytoma, NOS, Anaplastic oligoastrocytoma, NOS
     乏突起星細胞腫,未確定,退形成性星細胞腫,未確定
 Other astrocytic tumors
  10.Pilocytic astrocytoma 毛様細胞性星細胞腫
  11.Subependymal giant cell astrocytoma 上衣下巨細胞性星細胞腫
  12.Pleomorphic xanthoastrocytoma, Anaplastic pleomorphic
     xanthoastrocytoma 多形黄色星細胞腫,退形成性多形黄色星細胞腫
 Ependymal tumors
  13.Subependymoma 上衣下腫
  14.Myxopapillary ependymoma 粘液乳頭状上衣腫
  15.Ependymoma 上衣腫
  16.Anaplastic ependymoma 退形成性上衣腫
  17.Ependymoma, RELA fusion-positive 上衣腫,RELA融合陽性
 Other gliomas
  18.Chordoid glioma of the third ventricle 第3脳室脊索腫様膠腫
  19.Angiocentric glioma 血管中心性膠腫
  20.Astroblastoma 星芽腫
 Choroid plexus tumors
  21.Choroid plexus tumors 脈絡叢腫瘍
 Neuronal and mixed neuronal-glial tumors
  22.Dysembryoplastic neuroepithelial tumor 胚芽異形成性神経上皮腫瘍
  23.Gangliocytoma, Ganglioglioma, Anaplastic ganglioglioma
     神経節細胞腫,神経節膠腫,退形成性神経節膠腫
  24.Multinodular and vacuolating neuronal tumor of the cerebrum
     大脳多結節空胞状神経細胞腫瘍
  25.Dysplastic cerebellar gangliocytoma(Lhermitte-Duclos disease)
     異形成性小脳神経節細胞腫(レーミッテ・ダクロス病)
  26.Desmoplastic infantile astrocytoma and ganglioglioma
     線維形成性乳児星細胞腫および神経節膠腫
  27.Papillary glioneuronal tumor 乳頭状グリア神経細胞腫瘍
  28.Rosette-forming glioneuronal tumor
     ロゼット形成性グリア神経細胞腫瘍
  29.Diffuse leptomeningeal glioneuronal tumor
     びまん髄膜性グリア神経細胞腫瘍
  30.Central neurocytoma, Extraventricular neurocytoma,
     Cerebellar liponeurocytoma
     中枢性神経細胞腫,脳室外神経細胞腫,小脳脂肪神経細胞腫
  31.Paraganglioma 傍神経節腫
 Tumors of the pineal region
  32.Pineocytoma 松果体細胞腫
  33.Pineal parenchymal tumor with intermediate differentiation
     中間型松果体実質腫瘍
  34.Pineoblastoma 松果体芽腫
  35.Papillary tumor of the pineal region 松果体部乳頭状腫瘍
 Embryonal tumors
  36.Medulloblastoma, histologically defined 髄芽腫,組織型
  37.Medulloblastoma, genetically defined 髄芽腫,分子型
  38.Embryonal tumor with multilayered rosettes, C19MC-altered
     多層ロゼット性胎児性腫瘍,C19MC異状
  39.Other CNS embryonal tumors その他の中枢神経系胎児性腫瘍
  40.Atypical teratoid/rhabdoid tumor 非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍
 Tumors of the cranial and paraspinal nerves
  41.Schwannoma, Melanotic schwannoma
     シュワン細胞腫,メラニン性シュワン細胞腫
  42.Neurofibroma, Perineurioma, Hybrid nerve sheath tumors
     神経線維腫,神経周膜腫,混成神経鞘腫瘍
  43.Malignant peripheral nerve sheath tumor 悪性末梢神経鞘腫瘍
 Meningiomas
  44.Meningioma, grade I
   a.Meningothelial meningioma, Fibrous meningioma,
     Transitional meningioma
     髄膜皮性髄膜腫,線維性髄膜腫,移行性髄膜腫
   b.Psammomatous meningioma 砂粒腫性髄膜腫
   c.Angiomatous meningioma 血管腫性髄膜腫
   d.Microcystic meningioma 微小嚢胞性髄膜腫
   e.Secretory meningioma 分泌性髄膜腫
   f.Lymphoplasmacyte-rich meningioma リンパ球形質細胞に富む髄膜腫
   g.Metaplastic meningioma 化生性髄膜腫
  45.Meningioma, grade II
   Chordoid meningioma, Clear cell meningioma, Atypical meningioma
     脊索腫様髄膜腫,明細胞髄膜腫,異型髄膜腫
  46.Meningioma, grade III
   Papillary meningioma, Rhabdoid meningioma,
     Anaplastic(malignant) meningioma
     乳頭状髄膜腫,ラブドイド髄膜腫,退形成(悪性)髄膜腫
 Mesenchymal, non-meningothelial tumors
  47.Solitary fibrous tumor/hemangiopericytoma 
     孤立性線維性腫瘍/血管周皮腫
  48.Hemangioblastoma 血管芽腫
  49.Vascular tumors 血管性腫瘍
  50.Malignant mesenchymal tumors 悪性間葉系腫瘍
  51.Benign mesenchymal tumors 良性間葉系腫瘍
 Melanocytic tumors
  52.Melanocytic tumors メラニン細胞性腫瘍
 Lymphomas
  53.Malignant lymphoma 悪性リンパ腫
 Histiocytic and other hematopoietic tumors
  54.Histiocytic tumors and other hematopoietic tumors
     組織球性腫瘍およびその他の造血器腫瘍
 Germ cell tumors
  55.Germ cell tumors 胚細胞腫瘍
 Tumors of the sellar region
  56.Pituitary adenoma 下垂体腺腫
  57.Craniopharyngioma 頭蓋咽頭腫
  58.Rathke cleft cyst ラトケ嚢胞
  59.Granular cell tumor of the sellar region トルコ鞍部顆粒細胞腫
  60.Pituicytoma 下垂体細胞腫
  61.Spindle cell oncocytoma 紡錘形細胞オンコサイトーマ
 Metastatic tumors
  62.Metastatic tumors of the CNS 中枢神経系の転移性腫瘍
 Familial tumor syndromes
  63.Neurofibromatosis type 1 神経線維腫症1型
  64.Neurofibromatosis type 2 神経線維腫症2型
  65.von Hippel-Lindau disease フォン・ヒッペル・リンドウ病
  66.Tuberous sclerosis 結節性硬化症
  67.Li-Fraumeni syndrome リ・フラウメニ症候群
  68.Cowden syndrome カウデン症候群
  69.Turcot syndrome ターコット症候群
  70.Nevoid basal cell carcinoma syndrome(Gorlin syndrome)
     基底細胞母斑症候群(ゴーリン症候群)
 Other lesions
  71.Dermoid cyst, Epidermoid cyst 類皮嚢胞,類表皮嚢胞
  72.Colloid cyst of the third ventricle 第3脳室コロイド嚢胞
  73.Endodermal cyst 内胚葉性嚢胞
  74.Ependymal cyst 上衣嚢胞
  75.Hypothalamic neuronal hamartoma 視床下部神経細胞過誤腫
  76.Nasal glial heterotopia 鼻腔内異所性グリア組織

付録
文献
索引

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気迫のこもった最新の標準アトラス
書評者: 中里 洋一 (日高病院日高病理診断研究センター長/群馬大学名誉教授)
 日本脳腫瘍病理学会の編集による『脳腫瘍臨床病理カラーアトラス』が第4版へと改訂された。WHOが2016年5月に脳腫瘍分類,いわゆる「ブルーブック」(WHO Classification of Tumours of Central Nervous System)を第4版改訂版として出版したことを受けての大改訂である。一見すると大きな変更はないように見えるかも知れない。それはこの第4版が第1版(1988年),第2版(1999年),第3版(2009年)と続いた本書シリーズの伝統をしっかり受け継いで作られているからである。すなわち,A4判上製本の書籍であり,原則見開きページで1腫瘍型が完結しており,厳選された見応えのある写真を大きく掲載しており,本文は簡潔で明快を旨としている,等々である。しかし,一歩内容に踏み込んでみると本書が4名の編集委員の並々ならぬ熱意により,緻密に計画された完成度の高い書物であることがわかる。

 まず,著者が第3版の63名から99名へと大幅に増員されている。日本脳腫瘍病理学会の中核メンバーに加えて若手研究者を大幅に登用している。いわば学会の総力を挙げての著作であると言っても過言ではない。若手研究者の積極的な参加は,本書に新しい息吹を与えるとともに学会としての人材育成にも効果があると考えられる。本文の総論では脳腫瘍病理の歴史,新WHO分類,グリオーマの分子遺伝学,免疫組織化学が述べられ,現在の脳腫瘍病理の立ち位置が明確に示されている。

 圧巻は各論であり,本書のタイトルが示すごとく臨床と病理が協力しながら脳腫瘍の多彩な腫瘍型の特徴を美しいカラー写真とイラストを用いて見事に示している。全ての腫瘍型において臨床医と病理医が共同執筆を行ったことは従来の版にはない特色であり,臨床的にも病理的にも弱点がなくバランスの取れた内容となっている。組織像を示す写真の大きさは類例を見ず,例えばタイトルの腫瘍名のすぐ下に配置された大きな写真はそのページの1/3ほども占めるサイズであり,その腫瘍の最も典型的な組織像を圧倒的な迫力と説得力でもって見事に表現している。読者はページを繰るたびに脳腫瘍の多彩な組織像をあたかも万華鏡を見るごとく満喫することができるであろう。本文の記述は簡潔にして十分であり,必要な情報を素早く読み取るのに適している。特に「光顕所見」の記述は組織像の特徴を適切に表現しており,「分子生物学的知見」はやや専門的で深い内容になっている。一方,従来の版に比べてマクロ写真は著明に減少し,電子顕微鏡写真は数もサイズも小さくなっている。これは良くも悪くも現在の脳腫瘍病理学が置かれた状況を端的に表現しているものといえよう。

 脳腫瘍の診断・治療の現場では組織型と遺伝子異常の情報が最も重要である。本書は脳腫瘍の現場で参照するのに最適な構成と内容を持った標準アトラスである。またこれから脳腫瘍の病理を学び,脳腫瘍臨床に携わろうとしている若い病理医,脳外科医にとっては最適の教科書といえる。本書がわが国の脳腫瘍の臨床と教育に極めて有益な書籍であることを確信している。
脳腫瘍病理の本質を理解するための必携書
書評者: 嘉山 孝正 (山形大医学部参与/国立がん研究センター名誉総長/前(一社)日本脳神経外科学会理事長)
 私が医学部を卒業した1975年ごろの脳腫瘍病理は,その分類が世界でまちまちで統一されたものがありませんでした。したがって,治療成績の比較も科学的にはできなかったのです。その後,世界保健機関(WHO)が79年に脳腫瘍を世界共通の分類にまとめました。日本では,88年に医学書院が本書の初版を世に出しました。それ以前は,欧米の書物以外で進歩に合った知識を得ることは困難だったのです。初版が世に出た時には,日本の全ての脳神経外科医は必携の書にしました。その後,本書は版を重ね,それぞれの時代の各著者の熱意と能力で時代の進歩に合った素晴らしい著作としての評価を得てきました。

 脳腫瘍を治療する脳神経外科医にとって,病理学的知識は時には手術手技以上に重要です。腫瘍の生物学的特性を理解しないと脳腫瘍の的確な治療はできません。腫瘍の生物学的特性を理解していれば,手術では摘出範囲の参考になり,放射線の効果も予測でき,抗がん薬も的確に使用できます。分類とは,ある疾患の予後を決める最も重要な要素です。その分類の根幹といえる腫瘍の生物学的特性は,従来,組織学的分類が基礎になっていました。“組織学的”は“形態学的”と言い換えてもよい分類でした。しかし,世界の研究者の貢献で,形態学的分類では計り知れなかった腫瘍の遺伝学的特性の解析が蓄積されました。ここ十数年は脳腫瘍の分類も形態学と遺伝子解析とが入り混じったカオス的な状態でしたが,2016年のWHO分類で形態学と遺伝子解析が統合された分類が提唱されました。本書はこのWHO分類の改訂に合わせて編集されています。したがって,全ての脳神経外科医は,標準医療をするにしても最先端の医療をするにしても,本改訂第4版は常に机の上に置いておくべき書物といえます。

 第4版が従来のものと大きく異なる素晴らしい点を挙げると,従来以上に総論に厚みが出て,脳腫瘍病理の本質がより理解できる内容となっていることです。私が上記した内容が懇切丁寧に記載されており,脳腫瘍病理を習得する際に最も重要な歴史,分類,遺伝子解析や免疫学的解析の現在までにわかっている事項と課題が適切に記載されていて,若い研究者のこれからの研究のヒントも包含する内容になっています。

 各論では,本書の従来の特質である美しいカラー写真がふんだんに配置され,理解の大きな援助になっています。内容は,従来の書式に加えて新たな知見が大幅に加筆され,形態学と遺伝子解析が統合された記述になっています。すなわち,形態学としての光顕所見,電顕所見に加えて,免疫染色所見と遺伝子所見が統合され記載されています。ここ十数年のカオスが整理されていますので,理解度が大変上がっています。これらができたのは,今回から著者が大幅に変わったからです。従来の版では脳神経外科医の中の脳腫瘍病理を勉強された方が主に解説していたところに,腫瘍病理学者,神経病理学者が共著として加わり,従来と比較して記載の厚みが出ています。編集者の知恵が詰まっているといえます。

 以上の大改訂を経ている本第4版は,脳腫瘍の治療を専門とする医療者,研究者だけではなく,専門医資格取得以前の脳神経外科医,すでに専門医を取得し終わった脳神経外科医全員が手元に置いておくべき書物として推薦いたします。

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