DSM-5 スタディガイド
1冊で身につく診断と面接の技法
DSM-5を学びたい人を徹底的にサポート。まず手にすべき1冊!
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精神疾患の世界的な診断基準DSM-5の米国精神医学会オフィシャルシリーズの1冊。臨床でよく出会う疾患に的を絞り、DSM-5診断基準の使い方を徹底解説。詳しい疾患解説や症例のみならず、面接での質問例、理解を深めるための問題集などで読者の学習をきめ細かくサポート。もちろんDSM-5マニュアル、手引への参照ページを掲載。DSM-5を学びたい時、まず手にすべきテキスト!
※「DSM-5」は American Psychiatric Publishing により米国で商標登録されています。
シリーズ | DSM-5 |
---|---|
原書編集 | Laura Weiss Roberts / Alan K. Louie |
監訳 | 髙橋 三郎 |
訳 | 塩入 俊樹 / 森田 幸代 / 山田 尚登 |
発行 | 2016年06月判型:B5頁:432 |
ISBN | 978-4-260-02543-0 |
定価 | 6,600円 (本体6,000円+税) |
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- 序文
- 目次
序文
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訳者の序/序
訳者の序
2013年5月の米国精神医学会開催に合わせてDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, 2013)が出版され,その日本語訳は日本精神神経学会の日本語版用語監修により『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』〔高橋三郎,大野 裕(監訳),染矢俊幸,神庭重信,尾崎紀夫,三村 將,村井俊哉(訳),医学書院,2014〕として翌年6月に出版された.その後,American Psychiatric Publishing社からさらにDSM-5関連書6冊が出版されたため,われわれは,その後のさらに3年間も,翻訳作業を続けてきており,参加された8大学の諸兄姉と医学書院医学書籍編集部3課と制作部の素晴らしい共同作業の結果,2015年には4冊『DSM-5 診断面接ポケットマニュアル』(A.M. Nussbaum),『DSM-5 診断トレーニングブック』(P.R. Muskin),『DSM-5 ケースファイル』(J.W. Barnhill),『DSM-5 鑑別診断ハンドブック』(M.B. First)を,2016年にはDSM-5 診断基準を解説した『DSM-5 ガイドブック』(D.W. Black, J.E. Grant)と,最後の1冊である本書『DSM-5 スタディガイド』(L.W. Roberts, A.K. Louie)を出版することができた.
本書はスタンフォード大学精神科の主任教授であるLaura Weiss Roberts と副主任教授で教育部長のAlan K. Louieが編集し,同大学36名およびその関連施設8名のスタッフの協力により,DSM-5を十分に学習できるよう執筆されたものである.米国の大学のトップ3を走るスタンフォード大学医学部で,精神科研修医の教育がどのように行われているかを知る好材料でもある.
本書の内容は,既刊のDSM-5関連書5冊と比較すれば,わかりやすいだろう.他の5冊は,いわばDSM-5のさまざまな側面の1つ,例えば,診断面接の仕方,復習問題,症例,診断フローチャートを取り上げていたのに対し,本書では臨床症例を中心に,DSM-5の代表的な疾患について総合的かつ徹底的に解説し,ぎっしり活字が埋まった頁が534頁にわたっている,きわめて内容の濃い,もう1冊のDSM-5マニュアルと言ってもよい.本書と対照的な1冊は,『DSM-5を使いこなすための臨床精神医学テキスト』〔澤 明(監訳),阿部浩史(訳),医学書院,2015,Introductory Textbook of Psychiatry, 6th Edition, D.W. Black, N.C. Andreasen, American Psychiatric Publishing, 2014〕である.これは医学部の学生用に執筆された,そのタイトルどおりの入門書であり,もともと定評のあった教科書をDSM-5の出版に合わせて第6版として改訂したものである.
本書の構成はきわめて懇切ていねいで,各カテゴリーのDSM-5診断を症例要約を通して徹底的に理解できるよう執筆されている.本書の第Ⅰ部「基礎」は3章からなり,編集者Roberts教授の書き下ろしである.それぞれ「診断とDSM-5」「診断に至る—臨床面接の役割」「診断分類のさまざまな方法を理解する」のタイトルのもと,精神科診断学の総論としてなかなか説得力がある.特に毎日の診療にも慣れ,医者稼業が気楽なものだと思い始めたようなときに読むと,精神科診断学の実践がどれほど奥深い重要な仕事であるかということを示してくれる.科学論文を書きつくしたRoberts教授による内容の濃い論説であって,いわば精神科診断学の目的と現状を格調高く展望している.抽象的な論説だけでは診断を実践している臨床家には難解であるので,ここでも具体的症例をあげて(BOX1-1,2-1,3-1),それをもとに解説する方法をとる.
第Ⅱ部「DSM-5診断分類」の疾患別の各章(第4~22章)では,その下位分類の疾患ごとに症例を3つずつあげて解説していく.例えば,本書の編集者であるRoberts教授が担当している第8章「不安症群/不安障害群」を見てみよう.はじめに不安症全体のDSM-5による診断を概説してから,この章における重要な疾患カテゴリーとして,パニック症,社交不安症,全般不安症を取り上げ,それぞれの症例の要約を示しながら診断の過程を解説していく.パニック症について「診断を深める」で,まず20歳女性の症例について説明し,次に「診断へのアプローチ」で解説を記述している.「病歴聴取」では27歳患者の症例を取り上げ,それから「診断を明確にするヒント」で小さくまとめた後,「症例検討」で35歳男性の症例をあげている.それから「鑑別診断」,さらにこのカテゴリーの「要約」がある.同じ構成で社交不安症についても,その診断を解説していくという構成である.この章全体の「本章の要約」には,「診断の重要点」として章全体のまとめがあり,最後に「自己評価」として,ここでも「ケースに基づく質問」で36歳女性の症例をあげていくつかの設問がある.結局,この章には10例の症例の要約が示されている.このようにして,19の大分類それぞれにつき4~16症例ずつ,本書全体では第Ⅰ部の症例呈示も含めて200症例近くが取り上げられている.
このとおり本書で示された内容をいつもスタンフォード大学で実践し,教育しているのであれば,まさに理想的である.それを20年続け,この指導を受けた世代が増えれば,世界の精神科医療も変わるだろう.
本書を監訳中に感じたことは,精神科診断学に取り組む姿勢を見直すべきだということだ.精神科という医学全体の中の小さな分野でも,1つの疾患1つの治療に強い臨床家は,一方で他の疾患は適当に流してしまう傾向にある.あるいは,精神薬理の研究に没頭している人は,診断学を臨床薬理学の道具としてみる傾向がついて回ることを自覚しなければならない.このような反省をしながら本書の翻訳作業を楽しんだのであるが,本書の翻訳チームの1人ひとりもそのようなことを感じていたに違いない.
訳出は前半を滋賀医科大学の16名の方々,後半を岐阜大学の18名の方々が分担し,それぞれ森田幸代講師と山田尚登教授,塩入俊樹教授が手を入れて,最終的に監訳者が統一性をもたせるよう訂正した.特に第Ⅰ部はRoberts教授自ら執筆した格調高い文章なので,各訳者が日本語訳に苦心されたようである.しかし,「労多くして功少なし」と感じた人はいないはずだ.その濃厚な内容に触れたのであるから,精神科診断学のおかれた現在の難題がよくわかったことは,訳者にとっても大きな収穫であっただろう.
2016年5月
訳者を代表して
滋賀医科大学 名誉教授 高橋三郎
序
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』は精神疾患の診断に最も広く用いられているマニュアルである.それは,これらの疾患の臨床的治療と研究および精神疾患に対する患者,家族,一般大衆の理解に非常に大きな影響をもっている.DSMの知識と機能は,精神疾患とともに,またはそれに罹患しながら生活している人々のために働く臨床家や他の専門職にとって必須のものである.DSM-5,すなわちこのマニュアルの第5版全体が,身体的精神的健康のすべての領域において研修を受けている人達のために必須の資料である.
DSM-5は,精神疾患の過程や状態をいかに記述し体系づけるかについての長年にわたる研究調査と討論の集大成である.DSM-5は,古いものの何を残し,新しいものの何を入れ替えるかの間の均衡を具体化しており,その均衡とは,精神医学のような急速に進化する領域のすべてで当然に期待されるものである.次の版まで,DSM-5は,さらなる仮説の吟味や,米国国立精神衛生研究所の研究領域基準(www.nimh.nih.gov/research-priorities/rdoc/index.shtml)や世界保健機関の『疾病および関連保健問題の国際統計分類(ICD)』の改訂版のような同様ではあるが同一ではない目的をもつ他の公式のスキーマとの比較のため,この進化における鍵となる基準点となるであろう.
DSM-5は,各診断分類,すなわち1つのスペクトラムに沿って見直された多数の疾患についての各章を含んでいる.個々の疾患は,疫学的で“統計学的”な情報と証拠に基づくその疾患の診断のために満たさなければならない基準を含み,十分に記述されている.本文の構造は,マニュアル従来の体系のままである.すなわち,基本的には精神病理に焦点を合わせており,また疾患中心である.DSM-5の全包括的構造は,各疾患の診断単位で重なり合い,または類似の特徴をもつものが可能な限り意図的な順序に並べられている点で,以前の版のDSMとは異なる.
読者に残されたことは,これらの疾患が臨床の実践で個々にどのように表現され出現するのかを学習することである.病気に罹患した人間的経験——罹患した人の見方から,および臨床家の見方からの——は臨床家の“診断基準”や“統計”ではとらえることができない.人が1つあるいはそれ以上のこのような疾患を経験したとき,なんと言うのであろうか.臨床家は,これらの経験について患者にどのように話すのか.臨床家は,患者に診断を割り当てるかもしれないが,その人は一組の診断基準,1つの診断,または一組の診断群にまで還元することはできない.生物学的,心理学的,社会学的な各個人の特性は,疾病,つまり“診断”がいかに表現されるかを色彩づける.『DSM-5 スタディガイド』は,印刷されたDSM-5診断基準を患者の生きた経験へと翻訳するのに役立つことを目的としている.
『DSM-5 スタディガイド』は,DSM-5マニュアル全体とともに2つ並べて用いられるべきである.この『DSM-5 スタディガイド』では,DSM-5の疾患中心体系を補完するよう,患者中心の方法を採用した.われわれは,診断の章でDSM-5の概念が生き生きしたものになるよう一貫した特徴を紹介する.例えば,第Ⅱ部の各章は,予期され,時には予期されない要素を含んだ疾病のあり方を描いた症例要約があり,年齢,性別,およびいくつかの他の文化的要因がいかにその症例に影響を及ぼすかを示している.他の症例要約は,面接の過程での患者・臨床家の関係に焦点を合わせて,ある疾患についての患者の独特な体験をよりよく評価するよう臨床家が尋ねるべき質問の見本を提供する.第Ⅱ部の診断中心の章でも,「診断の重要点」や日常の臨床場面での重要なポイントを用意している.『DSM-5 スタディガイド』は,DSM-5のすべての診断についての背景を提供するが,すべての診断を表面的に扱うのではなく,特定の大変興味深い,または各診断分類を説明する大変頻度の高い診断だけを非常に詳細につっこんで(“深く”),扱うことを選択した.
本書はひとつの学習の手引であるため,われわれは,DSM-5から新しい情報を取り込む過程を促進し,それを思い出し,さらにどのようにそれを読者の仕事に応用するかを考慮して,“学習者に親切な”ものにすることを試みた.第Ⅰ部は,診断の枠組みを説明し,その枠組みが患者に適用されるときどんな形を作るかを示すという観点から,DSM-5の位置づけを行っている.第Ⅱ部は,DSM-5の各診断分類に焦点を合わせている.各疾患についての学習を促すため,この章のおのおのには,鍵となる概念,同僚や指導者への質問,複雑な症例,Short-Answer QuestionsとAnswers(その答えは,概して本書またはDSM-5のどちらかの情報に基づいている)を含む自己評価の部分がある.第Ⅲ部(「自主テスト」)は100以上の質問を満載しており,そこにはDSM-5を臨床活動と研修により応用するのに役立つような,広範囲の診断と患者のおかれた環境を含めた短い症例要約が含まれている.
DSM-5には,限られた紙面のために本書では検討されなかったいくつかの部分が残されている.例として,「他の精神障害群」「医薬品誘発性運動症群および他の医薬品有害作用」「臨床的関与の対象となることのある他の状態」「今後の研究のための病態」「DSM-ⅣからDSM-5への主要な変更点」「専門用語集」などがある.読者には,これらの重要な要素に親しむために直接DSM-5を参照することがすすめられる.例えば,DSM-5の「臨床的関与の対象となることのある他の状態」は,1つの診断を示すことに影響する心理社会的ストレス因を含む.「今後の研究のための病態」は,DSMの今後の改訂において,診断として考慮すべきかすべきでないかを決定するために研究すべき病態を記述している.また学習者は,「DSM-ⅣからDSM-5への主要な変更点」や「専門用語集」の章がきわめて便利であることがわかるだろう.
この『DSM-5 スタディガイド』はDSM-5の友となる本で,内容は意図的にDSM-5と並行させてある.本書の特定の文章とDSM-5の橋渡しをするように,本書の学術用語や言葉使いは時にはDSM-5と同じものとなっている.本書の著者は,DSM-5からの内容を引用することについて,American Psychiatric Publishingの許可を得ている.
『DSM-5 スタディガイド』全体で人物の記述は,——例えば,症例要約や質問や回答の中で——仮の名を使用している.現実の人々との類似があってもそれはまったく偶然であり,その名前は任意に選ばれた.これらの人々の記述の中には,臨床家とのやりとりや臨床家が尋ねるかもしれない質問を含んでいる.これらの記述されたやりとりは,ただ例を示すためだけであり,臨床家の質問は単に質問の見本である.その記述は完璧な臨床的面接あるいは症例の分析ではなく,多くの必要な詳細も紙面の制限により省略した.
『DSM-5 スタディガイド』の著者は,本書のすべての情報を,執筆当時には正確で,一般的な精神医学的および医学的標準と一致したものにしようと試みた.しかし,医学研究や臨床は進歩し続けるので,情報や標準は変化することもある.特定の状況によっては,本書に含まれていないような特定の反応が必要とされるかもしれない.編集者と著者は,本書における採択また除外における誤りについては,いかなる法的な責任もとることはできない.
『DSM-5 スタディガイド』は『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』の学習指針であって治療や介入についてのものではないので,本書のいかなる情報も,推奨する治療を提供するものと解釈するべきではない.これらの理由から,そして人的あるいは機械的な誤りは時々起こるため,われわれは読者に対して,患者の治療にあたっている,またはその家族の相談に直接関係している医師の助言に従うことをすすめる.
この『DSM-5 スタディガイド』の各章や質問と回答の部の多くの執筆者に感謝したい.彼らには,本書を準備するにあたり,非常に惜しみない専門性や責任感をもって取り組んでいただいた.われわれは,本書の準備に絶大な支持をいただいたスタンフォード大学医学部のAnn TennierとMelinda Hantke,American Psychiatric Publishing編集部の上級編集者Ann Engに永遠の感謝を申し上げたい.この出版企画を可能にし,ここに至るまでいろいろ助言をいただいた,American Psychiatric Publishing編集長Robert E. Hales,副社長John McDuffieに感謝したい.
私,Laura Robertsは,本書に貢献された仲間達に感謝の意を表し,また私の家族にも愛の感謝を表したい.またAlan Louieは,妻,子ども達,両親の過去から現在に至るまでの支援に感謝したい.
最も重要なことは,親愛なる読者の方々——あなたの分野,専門,年齢,職業または社会的地位が何であろうと——この『DSM-5 スタディガイド』に積極的にかかわっていただいたことに対して,私は何よりもまずあなたに感謝したいということである.われわれの仕事があなたの学習を助け,理解と治療を求めてやってくる人々の生活を改善しようとするあなたの努力を助けることを期待する.
Laura Weiss Roberts, M.D., M.A.
Alan K. Louie, M.D.
スタンフォード,カリフォルニア
訳者の序
2013年5月の米国精神医学会開催に合わせてDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, 2013)が出版され,その日本語訳は日本精神神経学会の日本語版用語監修により『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』〔高橋三郎,大野 裕(監訳),染矢俊幸,神庭重信,尾崎紀夫,三村 將,村井俊哉(訳),医学書院,2014〕として翌年6月に出版された.その後,American Psychiatric Publishing社からさらにDSM-5関連書6冊が出版されたため,われわれは,その後のさらに3年間も,翻訳作業を続けてきており,参加された8大学の諸兄姉と医学書院医学書籍編集部3課と制作部の素晴らしい共同作業の結果,2015年には4冊『DSM-5 診断面接ポケットマニュアル』(A.M. Nussbaum),『DSM-5 診断トレーニングブック』(P.R. Muskin),『DSM-5 ケースファイル』(J.W. Barnhill),『DSM-5 鑑別診断ハンドブック』(M.B. First)を,2016年にはDSM-5 診断基準を解説した『DSM-5 ガイドブック』(D.W. Black, J.E. Grant)と,最後の1冊である本書『DSM-5 スタディガイド』(L.W. Roberts, A.K. Louie)を出版することができた.
本書はスタンフォード大学精神科の主任教授であるLaura Weiss Roberts と副主任教授で教育部長のAlan K. Louieが編集し,同大学36名およびその関連施設8名のスタッフの協力により,DSM-5を十分に学習できるよう執筆されたものである.米国の大学のトップ3を走るスタンフォード大学医学部で,精神科研修医の教育がどのように行われているかを知る好材料でもある.
本書の内容は,既刊のDSM-5関連書5冊と比較すれば,わかりやすいだろう.他の5冊は,いわばDSM-5のさまざまな側面の1つ,例えば,診断面接の仕方,復習問題,症例,診断フローチャートを取り上げていたのに対し,本書では臨床症例を中心に,DSM-5の代表的な疾患について総合的かつ徹底的に解説し,ぎっしり活字が埋まった頁が534頁にわたっている,きわめて内容の濃い,もう1冊のDSM-5マニュアルと言ってもよい.本書と対照的な1冊は,『DSM-5を使いこなすための臨床精神医学テキスト』〔澤 明(監訳),阿部浩史(訳),医学書院,2015,Introductory Textbook of Psychiatry, 6th Edition, D.W. Black, N.C. Andreasen, American Psychiatric Publishing, 2014〕である.これは医学部の学生用に執筆された,そのタイトルどおりの入門書であり,もともと定評のあった教科書をDSM-5の出版に合わせて第6版として改訂したものである.
本書の構成はきわめて懇切ていねいで,各カテゴリーのDSM-5診断を症例要約を通して徹底的に理解できるよう執筆されている.本書の第Ⅰ部「基礎」は3章からなり,編集者Roberts教授の書き下ろしである.それぞれ「診断とDSM-5」「診断に至る—臨床面接の役割」「診断分類のさまざまな方法を理解する」のタイトルのもと,精神科診断学の総論としてなかなか説得力がある.特に毎日の診療にも慣れ,医者稼業が気楽なものだと思い始めたようなときに読むと,精神科診断学の実践がどれほど奥深い重要な仕事であるかということを示してくれる.科学論文を書きつくしたRoberts教授による内容の濃い論説であって,いわば精神科診断学の目的と現状を格調高く展望している.抽象的な論説だけでは診断を実践している臨床家には難解であるので,ここでも具体的症例をあげて(BOX1-1,2-1,3-1),それをもとに解説する方法をとる.
第Ⅱ部「DSM-5診断分類」の疾患別の各章(第4~22章)では,その下位分類の疾患ごとに症例を3つずつあげて解説していく.例えば,本書の編集者であるRoberts教授が担当している第8章「不安症群/不安障害群」を見てみよう.はじめに不安症全体のDSM-5による診断を概説してから,この章における重要な疾患カテゴリーとして,パニック症,社交不安症,全般不安症を取り上げ,それぞれの症例の要約を示しながら診断の過程を解説していく.パニック症について「診断を深める」で,まず20歳女性の症例について説明し,次に「診断へのアプローチ」で解説を記述している.「病歴聴取」では27歳患者の症例を取り上げ,それから「診断を明確にするヒント」で小さくまとめた後,「症例検討」で35歳男性の症例をあげている.それから「鑑別診断」,さらにこのカテゴリーの「要約」がある.同じ構成で社交不安症についても,その診断を解説していくという構成である.この章全体の「本章の要約」には,「診断の重要点」として章全体のまとめがあり,最後に「自己評価」として,ここでも「ケースに基づく質問」で36歳女性の症例をあげていくつかの設問がある.結局,この章には10例の症例の要約が示されている.このようにして,19の大分類それぞれにつき4~16症例ずつ,本書全体では第Ⅰ部の症例呈示も含めて200症例近くが取り上げられている.
このとおり本書で示された内容をいつもスタンフォード大学で実践し,教育しているのであれば,まさに理想的である.それを20年続け,この指導を受けた世代が増えれば,世界の精神科医療も変わるだろう.
本書を監訳中に感じたことは,精神科診断学に取り組む姿勢を見直すべきだということだ.精神科という医学全体の中の小さな分野でも,1つの疾患1つの治療に強い臨床家は,一方で他の疾患は適当に流してしまう傾向にある.あるいは,精神薬理の研究に没頭している人は,診断学を臨床薬理学の道具としてみる傾向がついて回ることを自覚しなければならない.このような反省をしながら本書の翻訳作業を楽しんだのであるが,本書の翻訳チームの1人ひとりもそのようなことを感じていたに違いない.
訳出は前半を滋賀医科大学の16名の方々,後半を岐阜大学の18名の方々が分担し,それぞれ森田幸代講師と山田尚登教授,塩入俊樹教授が手を入れて,最終的に監訳者が統一性をもたせるよう訂正した.特に第Ⅰ部はRoberts教授自ら執筆した格調高い文章なので,各訳者が日本語訳に苦心されたようである.しかし,「労多くして功少なし」と感じた人はいないはずだ.その濃厚な内容に触れたのであるから,精神科診断学のおかれた現在の難題がよくわかったことは,訳者にとっても大きな収穫であっただろう.
2016年5月
訳者を代表して
滋賀医科大学 名誉教授 高橋三郎
序
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』は精神疾患の診断に最も広く用いられているマニュアルである.それは,これらの疾患の臨床的治療と研究および精神疾患に対する患者,家族,一般大衆の理解に非常に大きな影響をもっている.DSMの知識と機能は,精神疾患とともに,またはそれに罹患しながら生活している人々のために働く臨床家や他の専門職にとって必須のものである.DSM-5,すなわちこのマニュアルの第5版全体が,身体的精神的健康のすべての領域において研修を受けている人達のために必須の資料である.
DSM-5は,精神疾患の過程や状態をいかに記述し体系づけるかについての長年にわたる研究調査と討論の集大成である.DSM-5は,古いものの何を残し,新しいものの何を入れ替えるかの間の均衡を具体化しており,その均衡とは,精神医学のような急速に進化する領域のすべてで当然に期待されるものである.次の版まで,DSM-5は,さらなる仮説の吟味や,米国国立精神衛生研究所の研究領域基準(www.nimh.nih.gov/research-priorities/rdoc/index.shtml)や世界保健機関の『疾病および関連保健問題の国際統計分類(ICD)』の改訂版のような同様ではあるが同一ではない目的をもつ他の公式のスキーマとの比較のため,この進化における鍵となる基準点となるであろう.
DSM-5は,各診断分類,すなわち1つのスペクトラムに沿って見直された多数の疾患についての各章を含んでいる.個々の疾患は,疫学的で“統計学的”な情報と証拠に基づくその疾患の診断のために満たさなければならない基準を含み,十分に記述されている.本文の構造は,マニュアル従来の体系のままである.すなわち,基本的には精神病理に焦点を合わせており,また疾患中心である.DSM-5の全包括的構造は,各疾患の診断単位で重なり合い,または類似の特徴をもつものが可能な限り意図的な順序に並べられている点で,以前の版のDSMとは異なる.
読者に残されたことは,これらの疾患が臨床の実践で個々にどのように表現され出現するのかを学習することである.病気に罹患した人間的経験——罹患した人の見方から,および臨床家の見方からの——は臨床家の“診断基準”や“統計”ではとらえることができない.人が1つあるいはそれ以上のこのような疾患を経験したとき,なんと言うのであろうか.臨床家は,これらの経験について患者にどのように話すのか.臨床家は,患者に診断を割り当てるかもしれないが,その人は一組の診断基準,1つの診断,または一組の診断群にまで還元することはできない.生物学的,心理学的,社会学的な各個人の特性は,疾病,つまり“診断”がいかに表現されるかを色彩づける.『DSM-5 スタディガイド』は,印刷されたDSM-5診断基準を患者の生きた経験へと翻訳するのに役立つことを目的としている.
『DSM-5 スタディガイド』は,DSM-5マニュアル全体とともに2つ並べて用いられるべきである.この『DSM-5 スタディガイド』では,DSM-5の疾患中心体系を補完するよう,患者中心の方法を採用した.われわれは,診断の章でDSM-5の概念が生き生きしたものになるよう一貫した特徴を紹介する.例えば,第Ⅱ部の各章は,予期され,時には予期されない要素を含んだ疾病のあり方を描いた症例要約があり,年齢,性別,およびいくつかの他の文化的要因がいかにその症例に影響を及ぼすかを示している.他の症例要約は,面接の過程での患者・臨床家の関係に焦点を合わせて,ある疾患についての患者の独特な体験をよりよく評価するよう臨床家が尋ねるべき質問の見本を提供する.第Ⅱ部の診断中心の章でも,「診断の重要点」や日常の臨床場面での重要なポイントを用意している.『DSM-5 スタディガイド』は,DSM-5のすべての診断についての背景を提供するが,すべての診断を表面的に扱うのではなく,特定の大変興味深い,または各診断分類を説明する大変頻度の高い診断だけを非常に詳細につっこんで(“深く”),扱うことを選択した.
本書はひとつの学習の手引であるため,われわれは,DSM-5から新しい情報を取り込む過程を促進し,それを思い出し,さらにどのようにそれを読者の仕事に応用するかを考慮して,“学習者に親切な”ものにすることを試みた.第Ⅰ部は,診断の枠組みを説明し,その枠組みが患者に適用されるときどんな形を作るかを示すという観点から,DSM-5の位置づけを行っている.第Ⅱ部は,DSM-5の各診断分類に焦点を合わせている.各疾患についての学習を促すため,この章のおのおのには,鍵となる概念,同僚や指導者への質問,複雑な症例,Short-Answer QuestionsとAnswers(その答えは,概して本書またはDSM-5のどちらかの情報に基づいている)を含む自己評価の部分がある.第Ⅲ部(「自主テスト」)は100以上の質問を満載しており,そこにはDSM-5を臨床活動と研修により応用するのに役立つような,広範囲の診断と患者のおかれた環境を含めた短い症例要約が含まれている.
DSM-5には,限られた紙面のために本書では検討されなかったいくつかの部分が残されている.例として,「他の精神障害群」「医薬品誘発性運動症群および他の医薬品有害作用」「臨床的関与の対象となることのある他の状態」「今後の研究のための病態」「DSM-ⅣからDSM-5への主要な変更点」「専門用語集」などがある.読者には,これらの重要な要素に親しむために直接DSM-5を参照することがすすめられる.例えば,DSM-5の「臨床的関与の対象となることのある他の状態」は,1つの診断を示すことに影響する心理社会的ストレス因を含む.「今後の研究のための病態」は,DSMの今後の改訂において,診断として考慮すべきかすべきでないかを決定するために研究すべき病態を記述している.また学習者は,「DSM-ⅣからDSM-5への主要な変更点」や「専門用語集」の章がきわめて便利であることがわかるだろう.
この『DSM-5 スタディガイド』はDSM-5の友となる本で,内容は意図的にDSM-5と並行させてある.本書の特定の文章とDSM-5の橋渡しをするように,本書の学術用語や言葉使いは時にはDSM-5と同じものとなっている.本書の著者は,DSM-5からの内容を引用することについて,American Psychiatric Publishingの許可を得ている.
『DSM-5 スタディガイド』全体で人物の記述は,——例えば,症例要約や質問や回答の中で——仮の名を使用している.現実の人々との類似があってもそれはまったく偶然であり,その名前は任意に選ばれた.これらの人々の記述の中には,臨床家とのやりとりや臨床家が尋ねるかもしれない質問を含んでいる.これらの記述されたやりとりは,ただ例を示すためだけであり,臨床家の質問は単に質問の見本である.その記述は完璧な臨床的面接あるいは症例の分析ではなく,多くの必要な詳細も紙面の制限により省略した.
『DSM-5 スタディガイド』の著者は,本書のすべての情報を,執筆当時には正確で,一般的な精神医学的および医学的標準と一致したものにしようと試みた.しかし,医学研究や臨床は進歩し続けるので,情報や標準は変化することもある.特定の状況によっては,本書に含まれていないような特定の反応が必要とされるかもしれない.編集者と著者は,本書における採択また除外における誤りについては,いかなる法的な責任もとることはできない.
『DSM-5 スタディガイド』は『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』の学習指針であって治療や介入についてのものではないので,本書のいかなる情報も,推奨する治療を提供するものと解釈するべきではない.これらの理由から,そして人的あるいは機械的な誤りは時々起こるため,われわれは読者に対して,患者の治療にあたっている,またはその家族の相談に直接関係している医師の助言に従うことをすすめる.
この『DSM-5 スタディガイド』の各章や質問と回答の部の多くの執筆者に感謝したい.彼らには,本書を準備するにあたり,非常に惜しみない専門性や責任感をもって取り組んでいただいた.われわれは,本書の準備に絶大な支持をいただいたスタンフォード大学医学部のAnn TennierとMelinda Hantke,American Psychiatric Publishing編集部の上級編集者Ann Engに永遠の感謝を申し上げたい.この出版企画を可能にし,ここに至るまでいろいろ助言をいただいた,American Psychiatric Publishing編集長Robert E. Hales,副社長John McDuffieに感謝したい.
私,Laura Robertsは,本書に貢献された仲間達に感謝の意を表し,また私の家族にも愛の感謝を表したい.またAlan Louieは,妻,子ども達,両親の過去から現在に至るまでの支援に感謝したい.
最も重要なことは,親愛なる読者の方々——あなたの分野,専門,年齢,職業または社会的地位が何であろうと——この『DSM-5 スタディガイド』に積極的にかかわっていただいたことに対して,私は何よりもまずあなたに感謝したいということである.われわれの仕事があなたの学習を助け,理解と治療を求めてやってくる人々の生活を改善しようとするあなたの努力を助けることを期待する.
Laura Weiss Roberts, M.D., M.A.
Alan K. Louie, M.D.
スタンフォード,カリフォルニア
目次
開く
第Ⅰ部 基礎
1.診断とDSM-5
■DSM-5および診断の役割と属性
■同情心をもった抜け目ない診断家
■自己評価
2.診断に至る——臨床面接の役割
■背景に応じた診断をするということ
■精神科面接と評価へのアプローチ
■精神科面接
■精神症状検査
■評価
■要約
■自己評価
3.診断分類のさまざまな方法を理解する
■疫学のための洞察
■DSM方式
■自己評価
第Ⅱ部 DSM-5診断分類
4.神経発達症群/神経発達障害群
第Ⅲ部 自主テスト
23.質問と回答
索引
1.診断とDSM-5
■DSM-5および診断の役割と属性
■同情心をもった抜け目ない診断家
■自己評価
2.診断に至る——臨床面接の役割
■背景に応じた診断をするということ
■精神科面接と評価へのアプローチ
■精神科面接
■精神症状検査
■評価
■要約
■自己評価
3.診断分類のさまざまな方法を理解する
■疫学のための洞察
■DSM方式
■自己評価
第Ⅱ部 DSM-5診断分類
4.神経発達症群/神経発達障害群
- 診断を深める
- ■知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)
- ■自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
- ■注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
- 本章の要約
- ■神経発達症群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■統合失調症
- ■短期精神病性障害
- ■妄想性障害
- ■統合失調感情障害
- 本章の要約
- ■統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■双極Ⅰ型障害,双極Ⅱ型障害
- 本章の要約
- ■双極性障害および関連障害群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■うつ病/大うつ病性障害
- ■重篤気分調節症
- ■持続性抑うつ障害(気分変調症)
- ■月経前不快気分障害
- 本章の要約
- ■抑うつ障害群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■パニック発作とパニック症/パニック障害
- ■社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)
- ■全般不安症/全般性不安障害
- 本章の要約
- ■不安症群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■強迫症/強迫性障害
- ■醜形恐怖症/身体醜形障害
- ■抜毛症
- 本章の要約
- ■強迫症および関連症群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■急性ストレス障害および心的外傷後ストレス障害
- ■適応障害
- 本章の要約
- ■心的外傷およびストレス因関連障害群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■離人感・現実感消失症/離人感・現実感消失障害
- ■解離性同一症/解離性同一性障害
- 本章の要約
- ■解離症群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■身体症状症
- ■病気不安症
- ■変換症/転換性障害(機能性神経症状症)
- 本章の要約
- ■身体症状症および関連症群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■異食症
- ■神経性やせ症/神経性無食欲症
- ■神経性過食症/神経性大食症
- 本章の要約
- ■食行動障害および摂食障害群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■遺糞症
- ■遺尿症
- 本章の要約
- ■排泄症群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■不眠障害
- ■ナルコレプシー
- ■閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸
- ■レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)
- 本章の要約
- ■睡眠-覚醒障害群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■女性オルガズム障害
- ■射精遅延
- ■女性の性的関心・興奮障害と男性の性欲低下障害
- 本章の要約
- ■性機能不全群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■子どもの性別違和
- ■青年および成人の性別違和
- 本章の要約
- ■性別違和
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■反抗挑発症/反抗挑戦性障害
- ■間欠爆発症/間欠性爆発性障害
- 本章の要約
- ■秩序破壊的・衝動制御・素行症群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■アルコール関連障害群
- ■大麻関連障害群
- ■オピオイド関連障害群
- ■精神刺激薬関連障害群
- ■タバコ関連障害群
- 本章の要約
- ■物質関連障害および嗜癖性障害群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■せん妄
- ■アルツハイマー病による認知症または
アルツハイマー病による軽度認知障害 - ■レビー小体病を伴う認知症(レビー小体型認知症)または
レビー小体病を伴う軽度認知障害 - ■血管性認知症または血管性軽度認知障害
- ■外傷性脳損傷による認知症または
外傷性脳損傷による軽度認知障害 - 本章の要約
- ■神経認知障害群
- ■自己評価
- ■パーソナリティ障害全般
- 診断を深める
- ■境界性パーソナリティ障害
- ■強迫性パーソナリティ障害
- ■統合失調型パーソナリティ障害
- ■自己愛性パーソナリティ障害
- 本章の要約
- ■パーソナリティ障害群
- ■自己評価
- 診断を深める
- ■露出障害
- ■小児性愛障害
- ■フェティシズム障害
- 本章の要約
- ■パラフィリア障害群
- ■自己評価
第Ⅲ部 自主テスト
23.質問と回答
索引
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