PT・OTのための
これで安心 コミュニケーション実践ガイド 第2版
人間性教育にも着目した、コミュニケーションテキストの決定版
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好評を博したPT・OTのためのコミュニケーションテキストの改訂版。学内や医療現場におけるコミュニケーションの問題は、スキル以前の人間性に関するものが多い現状を踏まえ、今改訂では感情管理をはじめ人間性教育の項目を加え、自己成長に必要な内容の充実を図った。また、学生、若手PT・OTの心の教育にも役立つことを狙いとした。対人援助者としての人間力と基本的臨床技能としてのコミュニケーション力を育成する。
著 | 山口 美和 |
---|---|
発行 | 2016年11月判型:B5頁:240 |
ISBN | 978-4-260-02787-8 |
定価 | 3,080円 (本体2,800円+税) |
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- 目次
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序文
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推薦のことば(日野原 重明)/はじめに(山口 美和)
推薦のことば
私が医師としての第一歩を踏み出したのは戦争前の1937年のことでした。以来,今日まで医師として80年を過ごしたことになります。この間,太平洋戦争を挟み,日本の医療も大きな変革を遂げてきました。しかし,その一方で,私の見るところまだまだ旧弊で不合理なところも目につきます。
「医療は,各種の医療専門職がそれぞれの専門を持ち寄って,患者や家族のために行う協働作業である」といわれています。しかし,自分の専門とする技術を身につけた上で,それぞれの能力と知識を持ち寄って協働するためには,効果的なコミュニケーションが不可欠です。さらにこれからの医療職者には,病む人ばかりでなく,広く人々の健康に積極的に関わっていくことが求められています。そのためには,もっと他分野との共通の理解に立った上での連携が必要で,その中核となるものはまさに一人ひとりのコミュニケーション能力なのです。
私の尊敬する米国の医師,P.A. タマルティ教授(ジョンズ・ホプキンス大学,1912-1989)は,「患者は,医師の話したことのうちわずか1%しか頭に残っていない」と述べておられます。これは患者を全人的に理解する上で十分に考慮に入れておかなければならないことだと思います。そしてこの問題は医師と患者間ばかりでなく,各医療職者同士の間にも存在する事実であるということを強く自覚しなければなりません。
本書には,「患者さん(相手)へのタッチ」について詳しく触れられていますが,これは私が医師としてこれまでいちばん心にかけてきたことでもあります。人間関係が次第に希薄になってきつつある社会の中で,心と心の通い合いによって生まれる温かい人間理解がPTやOTの働く場面で実現されることを願っています。
現在,医療の現場では,PTやOTは医療チームに欠かすことのできない大切な存在です。本書によってコミュニケーションという大切なツールをよく理解し,チームの中で専門職としての技能を十分に発揮し,医療の向上に役立てていただくことを心から期待します。
2016年10月
聖路加国際大学名誉理事長
日野原 重明
はじめに(第2版)
今回は,初版で盛り込めなかった「感情管理」をはじめ,人間性を高める内容を加筆し,自己成長に必要な項目の充実や若手PT・OTの心の教育にも役立つことをねらいとしました。人としてどのような状況にも屈することなく,どんな相手にも敬意と思いやりと勇気をもって誠実に関わることができたなら,自分を取り巻く環境はどのように変化するでしょうか。一見不可能だと思われがちなこの課題に取り組み始めることで,私たち1人ひとりの日々の小さな幸せが実現できるかもしれません。思いやりのある心が通ったコミュニケーションは人を笑顔にし,生きる勇気を与えてくれます。“この病気にならなければあなたに出会えなかった” “あなたと一緒に仕事ができて嬉しい”と言われる医療者になれたとしたら…。“人と関わることは楽しい” “この仕事を通じて得られた人間関係が自分を成長させ人生を豊かにした”と思える,喜びに満ちたコミュニケーションができる医療者が増えることが,本書を通しての私の願いです。
タイトルの「PT・OTのための」は内容の文脈上設けているものですが,本書は職種を問わず誰にとっても共通して重要なものが多く,他の職業の方々にも活用していただけるものと思っています。本書が対人援助職のコミュニケーション教育に少しでもお役に立つことができれば,望外の幸せです。
2016年10月
山口美和
推薦のことば
私が医師としての第一歩を踏み出したのは戦争前の1937年のことでした。以来,今日まで医師として80年を過ごしたことになります。この間,太平洋戦争を挟み,日本の医療も大きな変革を遂げてきました。しかし,その一方で,私の見るところまだまだ旧弊で不合理なところも目につきます。
「医療は,各種の医療専門職がそれぞれの専門を持ち寄って,患者や家族のために行う協働作業である」といわれています。しかし,自分の専門とする技術を身につけた上で,それぞれの能力と知識を持ち寄って協働するためには,効果的なコミュニケーションが不可欠です。さらにこれからの医療職者には,病む人ばかりでなく,広く人々の健康に積極的に関わっていくことが求められています。そのためには,もっと他分野との共通の理解に立った上での連携が必要で,その中核となるものはまさに一人ひとりのコミュニケーション能力なのです。
私の尊敬する米国の医師,P.A. タマルティ教授(ジョンズ・ホプキンス大学,1912-1989)は,「患者は,医師の話したことのうちわずか1%しか頭に残っていない」と述べておられます。これは患者を全人的に理解する上で十分に考慮に入れておかなければならないことだと思います。そしてこの問題は医師と患者間ばかりでなく,各医療職者同士の間にも存在する事実であるということを強く自覚しなければなりません。
本書には,「患者さん(相手)へのタッチ」について詳しく触れられていますが,これは私が医師としてこれまでいちばん心にかけてきたことでもあります。人間関係が次第に希薄になってきつつある社会の中で,心と心の通い合いによって生まれる温かい人間理解がPTやOTの働く場面で実現されることを願っています。
現在,医療の現場では,PTやOTは医療チームに欠かすことのできない大切な存在です。本書によってコミュニケーションという大切なツールをよく理解し,チームの中で専門職としての技能を十分に発揮し,医療の向上に役立てていただくことを心から期待します。
2016年10月
聖路加国際大学名誉理事長
日野原 重明
はじめに(第2版)
“この病気にならなければ,あなたに出会えなかった”
“あなたと一緒に仕事ができて嬉しい”
と言われる人間になるために
今回は,初版で盛り込めなかった「感情管理」をはじめ,人間性を高める内容を加筆し,自己成長に必要な項目の充実や若手PT・OTの心の教育にも役立つことをねらいとしました。人としてどのような状況にも屈することなく,どんな相手にも敬意と思いやりと勇気をもって誠実に関わることができたなら,自分を取り巻く環境はどのように変化するでしょうか。一見不可能だと思われがちなこの課題に取り組み始めることで,私たち1人ひとりの日々の小さな幸せが実現できるかもしれません。思いやりのある心が通ったコミュニケーションは人を笑顔にし,生きる勇気を与えてくれます。“この病気にならなければあなたに出会えなかった” “あなたと一緒に仕事ができて嬉しい”と言われる医療者になれたとしたら…。“人と関わることは楽しい” “この仕事を通じて得られた人間関係が自分を成長させ人生を豊かにした”と思える,喜びに満ちたコミュニケーションができる医療者が増えることが,本書を通しての私の願いです。
タイトルの「PT・OTのための」は内容の文脈上設けているものですが,本書は職種を問わず誰にとっても共通して重要なものが多く,他の職業の方々にも活用していただけるものと思っています。本書が対人援助職のコミュニケーション教育に少しでもお役に立つことができれば,望外の幸せです。
2016年10月
山口美和
目次
開く
推薦のことば
はじめに(第2版)
はじめに(第1版)
本書の概要と使いかた
第Ⅰ編 学内編 医療者になるための準備-自分づくり
第1章 PT/OTを目指すあなたへ
1 PT/OT養成教育は異文化教育
2 対人援助職としてのPT/OT
3 PT/OT学生に必要なコミュニケーション力
4 心身ともに健康な医療従事者になるには
第2章 自分を理解しよう
1 自分を知る
2 自分の性格と傾向
3 自分の態度
第3章 コミュニケーション力を育もう
1 言語コミュニケーションと非言語コミュニケーション
2 みる力
3 きく力
4 伝える力
第4章 自律した自分になろう
1 自己管理
2 自己実現
3 自分の使命
4 就職活動
第Ⅱ編 臨床編 どんな相手でもOKのプロを目指そう
第5章 社会人のマナーとしてのコミュニケーション
1 挨拶は自分から
2 相手の領域に入るということ
3 実習先への電話のかけかた
4 スタッフルームでの電話の出かた
5 実習先へのお礼状の書きかた
6 電子メールのマナー
第6章 臨床で役立つコミュニケーションスキル
1 コミュニケーションスキルを学ぶ前に
2 医療面接での対話のしかた
3 相手との関係を築く方法
4 質問のしかた
5 相手を会話にのせる方法
6 話題の提供のしかた
7 相手から話を引き出す方法(聴く技術)
8 話を上手に切り上げる方法
9 答えにくい質問に応じる方法
10 否定的な話に対応する方法
11 認知症の方とのコミュニケーション
12 患者さんの家族とのコミュニケーション
13 スーパーバイザーとのコミュニケーション
文献(引用文献・参考文献)
付録(ワークシート①~⑧・資料)
おわりに
索引
はじめに(第2版)
はじめに(第1版)
本書の概要と使いかた
第Ⅰ編 学内編 医療者になるための準備-自分づくり
第1章 PT/OTを目指すあなたへ
1 PT/OT養成教育は異文化教育
2 対人援助職としてのPT/OT
3 PT/OT学生に必要なコミュニケーション力
4 心身ともに健康な医療従事者になるには
第2章 自分を理解しよう
1 自分を知る
2 自分の性格と傾向
3 自分の態度
第3章 コミュニケーション力を育もう
1 言語コミュニケーションと非言語コミュニケーション
2 みる力
3 きく力
4 伝える力
第4章 自律した自分になろう
1 自己管理
2 自己実現
3 自分の使命
4 就職活動
第Ⅱ編 臨床編 どんな相手でもOKのプロを目指そう
第5章 社会人のマナーとしてのコミュニケーション
1 挨拶は自分から
2 相手の領域に入るということ
3 実習先への電話のかけかた
4 スタッフルームでの電話の出かた
5 実習先へのお礼状の書きかた
6 電子メールのマナー
第6章 臨床で役立つコミュニケーションスキル
1 コミュニケーションスキルを学ぶ前に
2 医療面接での対話のしかた
3 相手との関係を築く方法
4 質問のしかた
5 相手を会話にのせる方法
6 話題の提供のしかた
7 相手から話を引き出す方法(聴く技術)
8 話を上手に切り上げる方法
9 答えにくい質問に応じる方法
10 否定的な話に対応する方法
11 認知症の方とのコミュニケーション
12 患者さんの家族とのコミュニケーション
13 スーパーバイザーとのコミュニケーション
文献(引用文献・参考文献)
付録(ワークシート①~⑧・資料)
おわりに
索引
Work 〔括弧内は付録のワークシート(WS)の番号を示す〕
1 Who am I ?テスト(WS:②) 2 わたしの長所(WS:③) 3 自己肯定感診断テスト 4 エゴグラムチェックリスト 5 6段階の自己意識 6 態度類型 7 聴き手として認めてもらえる自分づくり 8 あなたへの質問 9 私の時間管理(WS:⑤) 10 スケジュール管理チェックリスト 11 エラーパターン診断テスト 12 私の健康管理法 13 私の立ち直り法 14 私の生活習慣(1) 15 私の生活習慣(2) 16 私の気持ち 17 ビジョンを描く 18 私の夢と目標(WS:⑥) 19 誰かの夢と目標 | 20 職業への意識 21 ミッション・ステートメント 22 私のアファーメーション 23 社会人として必要な力 24 ライフキャリア(WS:⑦) 25 こんなときはどうしたらよい? 解答例 26 よく使われるフレーズを使って メールを作成してみよう メール文書作成例 27 物語から読み取る 28 ミラーリングを体験してみよう 29 ペーシングを体験してみよう 30 バックトラッキングを体験してみよう 31 リーディングを体験してみよう 32 あなたなら何と言う?(その1) 33 あなたなら何と言う?(その2) 34 リフレーミング(WS:⑧) 35 症例検討 |
コラム集
1 守破離 2 恋愛力はメタ認知能力と関係してる? 3 ヒンズー教の教え 4 「言った」「聞いてない」をなくすには? ~高コンテキスト文化と 低コンテキスト文化を理解する~ 5 誤解して引用されている「メラビアンの法則?」 6 走る日本人!? 7 うっかりミスは何のせい!? 8 レジリエンスとは? 9 マインドフルネス瞑想 | 10 “ホスピタリティ”って? 11 “クッション言葉”って? 12 SNSに気をつけよう 13 “ベイビートーク”とは 14 相づちは文化である 15 沈黙は怖いもの!? 16 リフレーミングの天才 -ヴィクトール・フランクル 17 “パーソンフッド”ってなに? 18 認知症ケアの技法「ユマニチュード」 |
書評
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自己を肯定し,コミュニケーション力を身につけるために必要な内容を具体的に記述
書評者: 小川 克巳 (日本理学療法士協会副会長/参議院議員)
本書は,理学療法士や作業療法士が職務上求められるコミュニケーション力,すなわち療法士と患者や利用者,そのご家族など,またはスタッフ間における人間間コミュニケーションに焦点を当てており,それを習得するための導入から実践場面を想定した意思疎通のあり方までを具体的に解説しています。
私は33年間,養成施設で後進の育成に携わってきましたが,入学後の学生の課題は,以前の基礎学力や学習力から,人間関係や信頼関係の構築という課題へと変わってきました。特に学びの最終段階である臨床実習という対人スキルがその成否を左右する場面では,そうした課題が顕在化するため,学生指導上,教員や臨床実習指導者の悩みの種となっています。コミュニケーション力は良好な対人関係構築に大きく関わってくるため,特に医療職にとっては極めて重要な基本的資質とされます。私たちはさまざまな身体的・精神的不調に悩む方々を対象とし,その方々から生身の,また時には声にならない「声」を引き出し,それを専門職として解釈した上で対応しなければなりません。病める方々の真の訴えを引き出し,十二分に理解する力が求められます。相手を理解し受け止めた上で,自分は何をどう伝えるかを意識化するには,著者が指摘する通り,まず自己の確立が必要となります。
教員は教員で,学生は学生で真剣に悩み,苦しむのが,コミュニケーション力の指導であり習得ですが,本書第2版の発行はそうした学生をはじめ,現場の教員や臨床実習指導者にとっても大きな福音となることでしょう。
本書の著者である理学療法士の山口美和氏は,初版(2012年)の「はじめに」で,「本書の内容は(略),自己成長を最大のテーマとしています」と単にスキルではなく自己の成長が鍵であると記しています。また,「こうした課題に必要なのは,自己を肯定し自ら進んで取り組む力を涵養する教育であり,実際に役立つコミュニケーション力を具体的に身につけていくことである」と,コミュニケーション力の修得に向けて果たすべき教育のあり方についても鋭い指摘をしています。
こうした確たる信念の下で,コミュニケーションに悩む学生や新人療法士に対する深い情愛を持ちつつ記された第2版では,マイナーチェンジとはいえ,多くの追加や試みがなされています。「感情管理」が新たに加えられ,「非言語コミュニケーション」「傾聴」「敬語」などの充実化が図られています。また,学ぶ上で何とも巧妙な構成は第2版にそのまま引き継がれ,本文の奇数ページのヘッダー部分には「自分を成長させる言葉」があります。さらに第2版では「論語」からの章句を引用するなど,読者がコミュニケーション力を身につけるために必要な自己の成長のために本書を何とか役立ててほしいと願う,著者の並々ならぬ愛情をひしひしと感じさせられます。
本書は,「あなたに出会えてよかった」と病める方々から言っていただける,そういう関係を構築するための大きな助けになるものと信じます。
コミュニケーション力向上のための具体的方法を多彩に提示
書評者: 福井 勉 (文京学院大教授・理学療法学)
本書は理学療法や作業療法の学生および新人若手を主な対象として書かれた,人間力向上を目的とした書籍の改訂版である。最近大きくクローズアップされているコミュニケーションの問題をはじめとして,自己肯定感や主体性を高めるためにどのようなことを実践したらよいのか,詳細なガイドで読者を牽引する力を持っている。前著にはなかった「感情管理」など人間性を高める内容が加筆されている。
本書では,養成校に入学した際に生ずる「リアリティ・ショック」の扱い,対人援助職,感情労働としての自覚,コミュニケーション力を学内でどのように培ったらよいかという基本的問題が冒頭に記されている。このことからも本書は,入学直後から自らの感情をうまく扱うために必要なことを知るために,教科書としてだけでなく自らの生活ガイドとしても有益である。次にメタ認知を高める具体的手段についても詳細に記されている。一見扱いやすいように見えるが実は扱いにくい,自分自身とのコミュニケーション能力。その出発は自分を知ることであり,その性格や傾向を知ること,そしてそれは変化するものであることを知ることは,自己評価が低めになってしまう人に特に有益な手段である。
コミュニケーション力を育むためには自然に任せるのではなく,具体的方策として対処すること,苦手なら少しずつ得意にするというように改善することが同時にメタ認知の向上にも寄与する。具体的なコミュニケーション力向上のため,「傾聴」には練習が必要であり,「伝える」プロセスは分析して自らの責任としてとらえれば,上達するとされている。これらは全て「PT・OTのため」というよりも「人間」への教示でもある。
前半の「学内編」も同様であるが,特に後半の「臨床編」は新人の理学療法士・作業療法士には有益である。就職した部署で差がある新人教育に対する扱い,この違いだけに左右されないためにはどのようにしたらよいか。たとえ十分な新人教育を受けられない環境でも,本書を実践すればかなりの部分が解決に結びつくのではないだろうか。「第5章 社会人のマナーとしてのコミュニケーション」「第6章 臨床で役立つコミュニケーションスキル」はそれぞれ深いノウハウが刻み込まれている。例えば,患者さんの家族とのコミュニケーション,スーパーバイザーとのコミュニケーションなどである。
また本書には35項目にわたる「Work」があり,それらを実践することでより理解を深められるようになっている。これらを用いることでPT・OTの教育に携わる方,実習指導者の方にも教育におけるメタ認知,コミュニケーション力について考えていただく良い機会になると考えられる。
本書の良さは,実践することで学生生活や就職したての生活に還元することであると思う。開巻有益という言葉を表す必読書である。
書評者: 小川 克巳 (日本理学療法士協会副会長/参議院議員)
本書は,理学療法士や作業療法士が職務上求められるコミュニケーション力,すなわち療法士と患者や利用者,そのご家族など,またはスタッフ間における人間間コミュニケーションに焦点を当てており,それを習得するための導入から実践場面を想定した意思疎通のあり方までを具体的に解説しています。
私は33年間,養成施設で後進の育成に携わってきましたが,入学後の学生の課題は,以前の基礎学力や学習力から,人間関係や信頼関係の構築という課題へと変わってきました。特に学びの最終段階である臨床実習という対人スキルがその成否を左右する場面では,そうした課題が顕在化するため,学生指導上,教員や臨床実習指導者の悩みの種となっています。コミュニケーション力は良好な対人関係構築に大きく関わってくるため,特に医療職にとっては極めて重要な基本的資質とされます。私たちはさまざまな身体的・精神的不調に悩む方々を対象とし,その方々から生身の,また時には声にならない「声」を引き出し,それを専門職として解釈した上で対応しなければなりません。病める方々の真の訴えを引き出し,十二分に理解する力が求められます。相手を理解し受け止めた上で,自分は何をどう伝えるかを意識化するには,著者が指摘する通り,まず自己の確立が必要となります。
教員は教員で,学生は学生で真剣に悩み,苦しむのが,コミュニケーション力の指導であり習得ですが,本書第2版の発行はそうした学生をはじめ,現場の教員や臨床実習指導者にとっても大きな福音となることでしょう。
本書の著者である理学療法士の山口美和氏は,初版(2012年)の「はじめに」で,「本書の内容は(略),自己成長を最大のテーマとしています」と単にスキルではなく自己の成長が鍵であると記しています。また,「こうした課題に必要なのは,自己を肯定し自ら進んで取り組む力を涵養する教育であり,実際に役立つコミュニケーション力を具体的に身につけていくことである」と,コミュニケーション力の修得に向けて果たすべき教育のあり方についても鋭い指摘をしています。
こうした確たる信念の下で,コミュニケーションに悩む学生や新人療法士に対する深い情愛を持ちつつ記された第2版では,マイナーチェンジとはいえ,多くの追加や試みがなされています。「感情管理」が新たに加えられ,「非言語コミュニケーション」「傾聴」「敬語」などの充実化が図られています。また,学ぶ上で何とも巧妙な構成は第2版にそのまま引き継がれ,本文の奇数ページのヘッダー部分には「自分を成長させる言葉」があります。さらに第2版では「論語」からの章句を引用するなど,読者がコミュニケーション力を身につけるために必要な自己の成長のために本書を何とか役立ててほしいと願う,著者の並々ならぬ愛情をひしひしと感じさせられます。
本書は,「あなたに出会えてよかった」と病める方々から言っていただける,そういう関係を構築するための大きな助けになるものと信じます。
コミュニケーション力向上のための具体的方法を多彩に提示
書評者: 福井 勉 (文京学院大教授・理学療法学)
本書は理学療法や作業療法の学生および新人若手を主な対象として書かれた,人間力向上を目的とした書籍の改訂版である。最近大きくクローズアップされているコミュニケーションの問題をはじめとして,自己肯定感や主体性を高めるためにどのようなことを実践したらよいのか,詳細なガイドで読者を牽引する力を持っている。前著にはなかった「感情管理」など人間性を高める内容が加筆されている。
本書では,養成校に入学した際に生ずる「リアリティ・ショック」の扱い,対人援助職,感情労働としての自覚,コミュニケーション力を学内でどのように培ったらよいかという基本的問題が冒頭に記されている。このことからも本書は,入学直後から自らの感情をうまく扱うために必要なことを知るために,教科書としてだけでなく自らの生活ガイドとしても有益である。次にメタ認知を高める具体的手段についても詳細に記されている。一見扱いやすいように見えるが実は扱いにくい,自分自身とのコミュニケーション能力。その出発は自分を知ることであり,その性格や傾向を知ること,そしてそれは変化するものであることを知ることは,自己評価が低めになってしまう人に特に有益な手段である。
コミュニケーション力を育むためには自然に任せるのではなく,具体的方策として対処すること,苦手なら少しずつ得意にするというように改善することが同時にメタ認知の向上にも寄与する。具体的なコミュニケーション力向上のため,「傾聴」には練習が必要であり,「伝える」プロセスは分析して自らの責任としてとらえれば,上達するとされている。これらは全て「PT・OTのため」というよりも「人間」への教示でもある。
前半の「学内編」も同様であるが,特に後半の「臨床編」は新人の理学療法士・作業療法士には有益である。就職した部署で差がある新人教育に対する扱い,この違いだけに左右されないためにはどのようにしたらよいか。たとえ十分な新人教育を受けられない環境でも,本書を実践すればかなりの部分が解決に結びつくのではないだろうか。「第5章 社会人のマナーとしてのコミュニケーション」「第6章 臨床で役立つコミュニケーションスキル」はそれぞれ深いノウハウが刻み込まれている。例えば,患者さんの家族とのコミュニケーション,スーパーバイザーとのコミュニケーションなどである。
また本書には35項目にわたる「Work」があり,それらを実践することでより理解を深められるようになっている。これらを用いることでPT・OTの教育に携わる方,実習指導者の方にも教育におけるメタ認知,コミュニケーション力について考えていただく良い機会になると考えられる。
本書の良さは,実践することで学生生活や就職したての生活に還元することであると思う。開巻有益という言葉を表す必読書である。