感染対策40の鉄則

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医療関連感染対策を成功させるために、筆者が実践している40のルール(=鉄則)をつぶさに紹介! 例えば、「鉄則1:手指衛生消毒薬の使用量から手指衛生実施率を知ることはできない」「鉄則23:感染経路別予防策は、感染症の疫学的特徴に合わせてカスタマイズする」など。効果的な感染対策に欠かせない科学的視点や思考過程についてわかりやすく解説。医療機関で活用できる知識とコツを満載した充実の内容。
坂本 史衣
発行 2016年09月判型:A5頁:170
ISBN 978-4-260-02797-7
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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序文

 医療機関で行う感染対策を成功に導くには,「何を行うか」(What)と「どう行うか」(How)の二側面について検討する必要があります.前者はガイドラインや法律である程度明確にされており,おおむねコンセンサスも得られていますが,後者については正答がありません.例えば,「手指衛生を推進すること」(What)については,有力な専門機関が推奨していることもあり,異議を唱える人はほとんどいないでしょう.一方で,「手指衛生を推進する方法」(How)は医療機関の機能,規模,マンパワー,方針,感染対策の体制などにより,幾通りも考えられます.そのため“What”はわかっていても,“How”で迷う感染対策担当者は多いと思います.
 しかし,筆者にはHowについて述べることにも,それを他者に尋ねることにもためらいがあります.さまざまな選択肢があるなかで,相手の状況もよく知らずに個人的見解や経験を語ることは,時に相手を思考停止に陥らせることがあるからです.Howは感染対策担当者の力量が最も試される部分であり,その力量は人から一方的に受けるものではなく,生涯にわたり勉強を続け,経験を積み上げることで獲得するものだというのが筆者の考えです.
 ですから本書はノウハウ本ではありません。しかし,Howを生み出すために役立つ視点や考え方を紹介することで,感染対策の進め方に悩む同業者の役に立つことができるのではないかと思い,このたびそれらを「40の鉄則」としてまとめました.鉄則とは,変えてはいけない厳しい決まりを意味しますが,これらはすべて筆者にとっての鉄則,すなわち感染対策を成功させるために自身が忘れてはならないルールのようなものです.これらの鉄則には即効性はありません.しかし,感染対策を含む医療の質の改善は時間を要するものです.その過程に作用する触媒として,本書が少しでも役立てば大変うれしく思います.
 本書が完成するまでには多くの方の理解と協力がありました.まず,医学書院の西村僚一氏からは,読みやすい書籍となるためのさまざまなアイディアをいただきました.また,制作にあたっては同社の野中久敬氏に大変お世話になりました.この場を借りて厚くお礼を申し上げます.さらに,夜な夜な作文を書いている筆者を励ましてくれた子どもたち,校正刷の上にどっしりと横たわって気分転換に協力してくれた猫1匹にも深謝します.そして,ここで紹介する40の鉄則ができるまでには数多くの失敗や試行錯誤がありました.しかしそれに喜んで,あるいはしぶしぶながらでも付き合ってくれた数多くの聖路加国際病院の職員には感謝してもしきれません.これからも試行錯誤は続き,新たな鉄則が生まれることでしょう.いつかそれらを加えた50の鉄則をご紹介できる日を目指してこれからも頑張りたいと思います.

 2016年8月吉日
 坂本史衣

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第1章 標準予防策の評価と改善
 1-1 『本当の』手指衛生実施率の評価(1)
 1-2 『本当の』手指衛生実施率の評価(2)
 1-3 手指衛生実施率の改善(1)
 1-4 手指衛生実施率の改善(2)
 1-5 手指衛生実施率の改善(3)
 1-6 手指衛生実施率の改善(4)
 1-7 手指衛生実施率の改善(5)
 1-8 個人防護具の活用(1)
 1-9 個人防護具の活用(2)

第2章 医療関連感染の情報収集と活用
 2-1 効果的な感染対策の見つけ方(1)
 2-2 効果的な感染対策の見つけ方(2)
 2-3 効果的な感染対策の見つけ方(3)
 2-4 効果的な感染対策の見つけ方(4)
 2-5 効果的な感染対策の見つけ方(5)
 2-6 効果的な情報の活用(1)
 2-7 効果的な情報の活用(2)

第3章 日常使いの疫学・統計学
 3-1 感染リスクを表す指標
 3-2 オッズ比と相対リスク
 3-3 有病率の活用
 3-4 サーベイランスデータの要約
 3-5 迅速診断検査結果の捉え方
 3-6 医療器具使用比と医療器具平均留置日数

第4章 感染対策の効果を引き出す
 4-1 感染経路別予防策の組み立て方
 4-2 感染経路別予防策の選び方
 4-3 感染経路別予防策の情報共有
 4-4 ケアバンドルの実践
 4-5 手術部位感染予防に直結する対策
 4-6 感染を予防するマニュアルの特徴
 4-7 感染を予防するマニュアルの活用

第5章 病原体の伝播を阻止する
 5-1 薬剤耐性菌のアウトブレイクにおける環境培養
 5-2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応
 5-3 Clostridium difficile 感染症対策(1)
 5-4 Clostridium difficile 感染症対策(2)
 5-5 ノロウイルス感染症対策
 5-6 結核対策

第6章 医療関連感染予防における多部門連携
 6-1 輸入感染症への備え
 6-2 購買部門との連携
 6-3 医療現場における食品衛生
 6-4 清掃の質の評価と改善
 6-5 感染性廃棄物のリスク管理

索引

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「鉄則」が自分のものになるまで何度も読み返したい
書評者: 吉田 眞紀子 (東北大大学院・総合感染症学)
 文字通り,一字一句見逃せず無駄な言葉が一つもない,真剣勝負の感染対策の本が発刊された。「感染対策の本」は,既に多数出版されており,その中には良書も少なくない。しかし,本書は,これまでのいかなる書籍とも立ち位置がまったく異なる,まさに“Only One”の書である。

 筆者は,聖路加国際病院QIセンター感染管理室に所属し,日々現場で感染対策を実践しておられる坂本史衣さん。公衆衛生学修士(MPH),感染制御・疫学認定機構による認定(CIC)に裏打ちされる疫学と感染対策の実践者である。

 タイトルになっている「鉄則」について,筆者は序文でこう述べている。「鉄則とは,変えてはいけない厳しい決まりを意味しますが,これらはすべて筆者にとっての鉄則,すなわち感染対策を成功させるために自身が忘れてはならないルールのようなものです」と。本書には,筆者が長年にわたり質の良い情報をこつこつ集め,解析し,それらに基づいて試行錯誤を繰り返し,苦しみ悩みながらたどり着いた鉄則のすべてが惜しみなく紹介されている。また,それだけにとどまらず,1つひとつの鉄則に丁寧に「背景」(こう考える),「解説」(だから私はこうしている)が記載されており,まるで筆者が目の前にいて,「あなたならどうするの?」とディスカッションを挑まれている気分になる。この理詰めのファイトはかなりの快感である。

 鉄則には,このような文章が並ぶ。「鉄則1:手指衛生消毒薬の使用量から手指衛生実施率を知ることはできない」「鉄則30:『なんとなく』行ったスクリーニング培養検査の結果は,感染源を見誤らせる」「鉄則39:清掃の質管理は,外部委託業者に任せきりにしない」。誰もが自分のことかとはっとさせられる。しかし,不安になることはなく,背景,解説,まとめを読み進めていくと,明確な解答に出合うことになる。

 たとえば,「鉄則23:感染経路別予防策は,感染症の疫学的特徴に合わせてカスタマイズする」では「季節性インフルエンザ」の場合として,飛沫予防策の具体的な対策が図で明確に示されており,読者自身に「自分の施設ではどのように考え,実践すればよいか」を考えさせてくれる内容となっている。

 第3章「日常使いの疫学・統計学」では,公衆衛生学修士のバックグラウンドが光る。疫学・統計学が現場で使えるように,しっかりまとめられている。さらに実践のためのグラフの選び方,見せ方の具体例も示されており,読者がサーベイランスデータをまとめるときにすぐに役立つ。もう,何冊も専門書を探す必要はなく,本書の「鉄則」が自分のものになるまで何度も読み返せばよい。まさに座右の書である。

 まぎれもなくわが国を代表する一流の感染対策実践者が本気で自らの財産を全てさらけ出した本書を手にした以上,私達ももう実践あるのみ。あとはやるしかない。帯の「医療関連感染対策を成功させよう!」という言葉の通り,多くの方々が本書により成功経験を積まれ,わが国の臨床現場から少しでも医療関連感染が減少していくことを願ってやまない。
これからのわが国の感染対策を導く方向性を示した一冊
書評者: 塚本 容子 (北海道医療大教授・看護福祉学)
 わが国の感染対策は,欧米諸国の対策を参考に発展してきた。これに対して異を唱える医療従事者はいないと思う。初めての感染管理認定看護師が2001年に認定されてから15年経つが,その間,医療施設における対策レベルは飛躍的に上がった。認定看護師は,米国疾病予防管理センター(CDC)の医療関連感染に関するガイドラインを読み解き,臨床の現場でその内容を導入することに努力し,サーベイランスを実施し,感染率が下がっていることを学会等で報告している。しかし,感染対策に対しては終わりがない。グローバリゼーションおよび人口移動により,新興・再興感染症が脅威となり,また多剤耐性微生物も世界的に重大事項として取り上げられる世の中で,患者が安全に医療を受けるためには医療従事者は最善を尽くして感染を予防する使命がある。

 現在,わが国の感染対策は過渡期である。欧米諸国の対策を取り入れ,ある程度感染率は低減した。20年前とは異なり,多くの感染対策に関する著書や論文が発表され,インターネットにも多くの情報が載せられ,情報過多な時代である。ヘルスケアも多様性に富み,高度医療を提供している施設から長期療養型医療を提供している施設までさまざまである。ガイドライン等に示されている対策をそのままそれぞれの施設にも当てはめることが難しい。

 同時に医療従事者も多くの職種で構成され,異なる教育背景を持って働いている。施設の特徴に合わせて,どのようにベストな感染対策を行ったらよいのか判断が難しい。その道筋を示しているのが本書である。

 筆者は,認定看護師の教育に携わり,また臨床現場で実践を積み上げ,感染対策のエビデンスとなる研究を発表し続けているフロントランナーである。その筆者が,本書で海外の研究結果を丁寧に紐解き,それを日本の臨床現場にどのように応用していけばよいのか示している。40のルールを「鉄則」として紹介し,なぜその鉄則が重要なのかを「背景」(Background)として説明,その後その鉄則をどう実践につなげるのかを,「解説」(Discussion)で実例を交えステップを分けて紹介している。

 感染対策に現在関わっている医療従事者から感染対策を実践してみたいと考えている医療従事者まで多くの読者に対して説得力を持つ一冊である。
極めて密度が濃く,「リアリティ」のある感染管理の本
書評者: 青木 眞 (感染症コンサルタント)
◆はじめに

 おそらく感染管理ほど日本の医療文化の病理・弱点を端的に象徴する領域はない。環境感染学会が大変な賑わいをみせる一方で,行政からの通達は実効性を欠き,各医療機関の感染管理担当者が抱く不全感が消えることがない。その理由は感染管理という仕事が,問題を定義し,その解決に必要な要素を決定,対策の効果を測定する……といった疫学的な業務に加えて,臨床各科や看護部,病院管理部など利害を異にする各部門間の調整をする……といった日本人が最も苦手なことを要求することにある。一人の患者の血圧を外来で目標値に移動させるといった作業とは,およそ対照的であり,どこか「巨大な軍隊組織の運用」対「一兵卒の射撃訓練」の対比に似る。前者には冷徹な数理・統計的な素養と人間関係の機微に対する洞察が求められるが,後者は基本的に個人が「匠の技で一生懸命やる」ものである(感染症専門医に感染管理も期待するといった混乱も,この辺りの整理が不十分であることに起因している)。

◆本書の紹介

 内容は極めて密度が濃く,参考文献もほとんどが過去数年以内の新しいものであり,著者の地道な努力を物語っている。「鉄則」を一部ご紹介すると……

鉄則19:耐性菌の伝搬を防ぐには,保菌圧の高い病棟をタイムリーに把握し,介入する(p.66)。
 耐性菌の伝搬が起こりやすい状況を察知して未然に防ぐには,耐性菌の有病率(ここでは保菌圧)に注目することが有用(保菌圧という言葉を知らない方は本書をご購入下さい。この概念一つだけでも学ぶ甲斐がある)。

鉄則23:感染経路別予防策は,感染症の疫学的特徴に合わせてカスタマイズする(p.86)。
 季節性インフルエンザは症状出現の前日から感染性があり(発症してからの対策ではToo late),ノロウイルス感染症は症状消失後も2~3週間にわたりウイルスを排泄する(症状が消えても注意が必要)。

鉄則31:環境消毒と接触予防策を指示しただけでは,アウトブレイクの終息は期待できない(p.120)。
 多くの事例では感染源は保菌患者。個室であっても,単に四方に壁がある空間にすぎず,人やモノに乗って耐性菌が出て行くのを阻止することはできない。

鉄則36:輸入感染症に備えるには,患者が突然受診した場合を想定した多部門合同の訓練を繰り返す(p.134)。
 国内で実施される輸入感染症対策の訓練の中には好条件の揃った筋書きに基づいて行われるものがあります(都合のよいシナリオを想定するのは日本のお家芸)。

◆おわりに

 感染管理は疫学という医療機関(時に地域社会,国,世界)のBig pictureを見る仕事でありながら,同時に施設内各部門の調整など繊細な作業も要求してくる。著者はMPH(公衆衛生学修士)のタイトルが示すように疫学的素養を持つが,同時に女性ならではの各部署間の連携など細部に目を配ることのできる方でもある。感染管理の真実も「細部に宿る」のである。「感染予防 inch by inch」(http://blog.goo.ne.jp/fumienum)という名前のBlogを持たれる著者の繊細かつ,日本には珍しい「リアリティ」のある感染管理の本として多くの読者を得ることを望みます。
は書評者の注)

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