介護施設の看護実践ガイド

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介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)などの介護施設で働く看護職員が、介護職員など他職種と協働しながら、効果的にケアを提供するための実践ガイド。ケアを提供する際に必要となる具体的な知識とその根拠を解説し、チェック項目などを使って、それらを確認しながら、日々のケアに活用できるつくりとなっている。
日本看護協会
発行 2013年06月判型:A5頁:216
ISBN 978-4-260-01881-4
定価 2,640円 (本体2,400円+税)
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はじめに

 わが国は世界に類をみない高齢社会を迎えています。それは同時に多死時代の到来を意味しています。どのように生き,どのように人生を終えるかは,もはや個人の問題ではなく,社会や政治の課題となっています。
 高齢者の生活の場の1つとして介護施設があります。介護施設で生活する高齢者の多くは,医療ニーズをもっています。さらに住み慣れたところを終の住処にしたいと願う人もいます。こうした生活・医療・看取りといったニーズに適切な対応をすることができる知識・技術をもっている専門職は看護職です。
 介護施設で働く看護職員は,介護職員と連携して,本来の看護の機能を発揮していくことが強く求められます。しかし,そうした期待に応えるには,(1)数少ない看護職員が他職種と連携を図りながらいかにマネジメントを行うか,(2)介護施設の看護職員が強化すべき専門的知識とは何か,(3)入居者へ継続的ケアを行うために,地域においてネットワークの強化を図るためにはどうすべきかという課題を解決しなければなりません。
 介護施設における看護の役割は,急性期病院の診断・治療といった医療ケア中心の看護とは異なり,「生活ニーズ」を重視した援助が重要となります。高齢者の特性を理解し,感染や転倒などの健康障害の重度化を予防するためのケアとともに,入居者が穏やかな生活を送り,最期を迎えるための支援が求められます。したがって,介護施設の看護職員は,(1)マネジメント能力の発揮によって看護の機能を強化すること,(2)入居者の生活を支えるための専門的知識・技術を習得すること,(3)地域におけるネットワークの強化を行う必要があります。
 それでは,どのように行動したらよいのでしょうか。このことを委員会で討議し,介護施設の看護職員へのガイド(道案内)を作成いたしました。このガイドは,介護施設で働く看護職員に,具体的で実行可能な看護実践を示したものです。このガイドを片手に,入居者の代弁者として,療養生活支援のプロとして,力を発揮し,変革の推進者となることができるでしょう。あなたは,入居者の尊厳を保持し,他職種と協働して高齢者の暮らしを支える看護サービス提供者のリーダーなのです。
成功を祈りつつ,このガイドを贈ります。

 2013年6月
 介護施設における看護の機能強化に関する検討委員会 委員長 井部 俊子

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 はじめに
 日本看護協会がめざす介護施設における看護の役割
 介護施設における看護
 本書の活用方法

I 高齢者の特性
 老年期の身体・心理・社会的側面の特徴
  高齢者をとらえるための視点
  加齢による「4つの力」の低下
  高齢者の心身に起こりやすい状態や変化
  高齢者ケアにおけるアセスメントのポイント
  高齢者の身体機能の変化
  高齢者の心理・社会面の特徴
  チェック項目
 認知症に対する理解とケア
  認知症の定義と原因疾患
  認知症ケアのためのアセスメントとケアプラン策定の視点
  認知症の症状とケア・コミュニケーション
  家族からの情報収集とケア
  チェック項目

II 看護の役割と看護実践
 入所(居)時の援助
  入所(居)時の援助の意義
  入所(居)時の援助における看護職員の役割
  具体的ケア
  入居者の変化時の対応と終末期ケアへの準備
  チェック項目
 生活リズムを整えるための基本的ケア
  呼吸に関するケア(吸引含む)
  循環に関するケア
  体温調節に関するケア
  睡眠に関するケア
  移動・姿勢保持に関するケア
  食べる・飲むためのケア
  排泄に関するケア
  皮膚に関するケア
  身体の清潔に関するケア
  身だしなみに関するケア
 薬の管理
  高齢者と薬物療法
  薬の管理に影響する要因
  看護職員の役割とアセスメントの視点
  チェック項目
 緊急時の対応(事故も含む)
  生活からみた高齢者の特徴
  看護職員の役割
  具体的ケア
  チェック項目
 看取りの援助
  高齢者の看取り期の特徴
  看取り期にある高齢者の状態像
  看取りケアを行うための基本姿勢
  看取りケアでの留意点
  看護職員の役割および具体的なケア
  チェック項目
 退所(居)時の援助
  退所(居)時の援助の意義
  看護職員の役割
  具体的ケア
  チェック項目

III 介護施設での看護実践の仕組みづくり
 施設における組織体制の理解
  組織の理念や目的と役割の理解
  組織図と役割機能
  組織とチーム
  組織マネジメントと連携・協働
  コミュニケーション
  チェック項目
 多職種チームの形成
  多職種チームにおける看護職員の役割と求められる能力
  多職種連携のためのコミュニケーションのポイント
  チーム力がアップすることによる効果
  チェック項目
 家族支援
  介護が家族に及ぼす影響
  ケアチームの一員としての家族
  家族との信頼関係を築く
  家族の連絡窓口を明確にする
  チェック項目
 安全管理
  介護事故の分類と対策
  事故防止に向けた基本的活動
  事故発生時の対応
  事故の原因と対策の実施
  看護職員に求められる責任
  職員の健康管理体制
  チェック項目
 感染管理
  感染管理のための基本的対応
  感染症の早期発見・対処のための視点
  感染管理体制の整備
  感染発生時の看護職員の役割
  チェック項目
 施設を超えた連携
  地域包括ケア
  入居者を取り巻く社会関係の評価と再構築
  看護職員同士の連携の促進
  チェック項目

IV 専門的知識・技術の習得と充実のための体制づくり
 研修体制
  研修体制づくりと企画
  研修の企画・実施のポイント
  チェック項目
 看護学生の実習
  看護基礎教育における介護施設での実習の意義
  臨地実習指導者の役割
  チェック項目

資料
 認知症に対する理解とケア
 認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)
 介護施設における看護職のための系統的な研修プログラム(抜粋)

 おわりに
 索引

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組織マネジメントとチーム形成を担う看護師のために
書評者: 片場 嘉明 (介護老人保健施設グリーンポート恵比寿施設長/東医大評議員副議長)
 日本看護協会の編集により,介護老人施設の看護師に対する実践ガイドが発刊された。本書の編集にあたっては,2010年より検討委員会が開始され,検証ワーキンググループや編集チームなど多数の関係者の創意により練り上げられた労作である。介護施設の看護師のための実践ガイド書としては,本書が初めての試みではないかと推察されるが関係各位のご尽力に深く感謝の念を捧げたい。

 はじめに,実働している看護職員たちが時折漏らす悩みについて触れておきたい。

 介護施設における介護職員と看護職員の定員は法的に定められ,ほぼ3対1の比率である。入居者に対する日常の介護業務の多くは介護職員が担っている。しかし介護という仕事の特性上,看護師が介入あるいは手伝わざるを得ない場合が少なからず発生する。このとき譲り合いや思いもかけぬ摩擦が生じ,看護と介護における実務上の分担または線引きに悩むことになる。臨機応変にといって片付けられる問題ではない。戸惑っている看護職員に対し,さらに掘り下げた実務分担指針が提示されることを望んでやまない。

 さて,悩める看護職員が本書の目次を開いたとき,「高齢者の特性」から始まって「看護の役割と看護実践」「介護施設での看護実践の仕組みづくり」「専門的知識・技術の習得と充実のための体制づくり」などの大項目を見れば,介護施設の業務を明解に俯瞰した内容であることに気付くであろう。大項目に続く中項目,小項目は詳細に分類・整理されており,特に各項目の末尾にある設問形式の「チェック項目」は実務上気になった事項を素早く検討できるように配慮されている。

 ここで私なりの要望を述べておきたい。高齢者の重要な疾患は認知症であり,本書では大変わかりやすく解説されている。ただし,認知症には,うつ病,統合失調症を合併していることがあり,簡略な鑑別法を併記していただければ成書を開く手間が省けるであろう。

 高齢者によく使用される薬剤の一覧表については,頁数の制約もあり膨大な薬剤を網羅するのは困難と思われる。汎用されている『治療薬マニュアル』や『今日の治療薬』を参考にする形式変更も一案と思われる。

 次に,介護施設では薬剤師の配置は義務付けられておらず,非常勤の薬剤師を雇用できる施設は極めて限られる。入居者の膨大な薬剤の仕分けから投薬までの業務はすべて看護職員に託されている。看護業務の大半が薬剤管理に費やされている現状は衆知されるべきであり,何らかの対策が待たれる。

 本書の主眼は,病院に比すれば狭小な施設に実働する多様な業種間での組織マネジメントとチーム形成であろう。中間管理職的な位置に立たざるを得ない看護職員にとっては,待ちに待った実践ガイドとして,施設長の立場からも推薦したい。多くの介護施設で読まれた後の印象や考察を集約し,さらなる良書として版を重ねることを期待している。

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