心的外傷後成長ハンドブック
耐え難い体験が人の心にもたらすもの

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災害や事故、大切な人の死などは人生にとって過酷な体験であり最大の苦しみであるが、一方でそこから精神的な成長がもたらされることは古くから経験的には知られてきた。本書は学術的には20年ほど前から研究されてきたPTG(Posttraumatic Growth)についての入門書。原著者はこのテーマの第一人者であり、PTG評価尺度の考案者でもある。
原著編集 Lawrence G. Calhoun / Richard G. Tedeschi
監訳 宅 香菜子 / 清水 研
発行 2014年01月判型:A5頁:576
ISBN 978-4-260-01639-1
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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日本語版への序

日本語版への序
 われわれは,日本の読者の皆様にこうしてご挨拶文を書かせていただく機会を得たことを,たいへん恐縮するとともに,光栄に思っている.人生で出合う重大な危機に際して,精神的なもがきや闘いを経験し,そこから人間としての成長が生じるという可能性についてわれわれがこれまでに研究してきたことを,こうして日本の読者の皆様方と共有できるのは非常に大きな喜びである.特に,この“Handbook of Posttraumatic Growth : Research and Practice”の日本語版の出版に際して,一言述べさせていただけることはこのうえなく名誉なことであり,このような機会をくださったことに心から感謝申し上げる.翻訳を担当してくださった諸先生方のたいへんなご苦労によって,われわれが心的外傷後成長(posttraumatic growth ; PTG)について考えてきたこと,そして本書の各章に名を連ねるわれわれの研究者の仲間が考えてきたことを,このたび,日本の研究者の方々に知ってもらうことが可能となった.重ねて御礼を申し上げたい.
 PTGの研究は,われわれが必ずしも最初に始めたわけではない.とてつもない困難に直面し,それを切り抜けるためにさまざまなもがきを体験した結果,人がよい方向に変わることがあるという考えは,古代からずっと存在している.そのようなテーマは文学作品だけではなく,世界中の主要な宗教の教えのなかにもみられるものである.したがって,われわれが,人生で出合う困難に対処するなかでみられる成長,つまりPTGを最初に研究した社会科学者,行動科学者というわけではない.Viktor Frankl,Gerald Caplan,Irvin Yalom,Abraham Maslowをはじめとする,多くの心理学者や精神科医が,われわれがこの研究を始める何年も前から,その可能性について指摘してきた.難しい状況に陥ることで生じる困難と闘うことによって,人がどのように変わるのかという問いを理解することに,もしわれわれがいくばくかの貢献をしたといってよいならば,それは全て,われわれよりずっと大きな貢献をしてきた先人たちのおかげだといえる.われわれはほかの研究者の方々が築き上げてきた知見の上に,新たなものを積み上げたにすぎない.
 われわれは,本書が日本語に翻訳されて出版されることについて,非常にうれしく思っている.というのも,日本でもすでに複数の研究者の方々がPTGの研究に大きな貢献をしてきており,今後も,危機との闘いから成長が生じる可能性についてよりよく理解することにおいて,偉大な貢献をされそうな方が数多くいることを知っているからである.PTGについて理解するためには,困難に直面している人々の特に社会文化的背景を考慮に入れる必要がある.この日本語版が出版されることで,日本の研究者の方々は,心的外傷に見舞われた人々に対してとるべき対応についてさらに理解を深めることが可能になるだろう.
 この「日本語版への序」を書きながら,2011年3月におきた未曾有の自然災害,地震と津波が日本にもたらしたたいへんな被害のことを考えている.われわれは,日本の方々が強さと知恵を兼ね備えていることを知っており,耐えねばならないこの大災害に対処し,状況に適応していくことができると信じている.そして,日本の方々がそこから立ち直り,おそらくそのなかには,その回復過程で地域あるいは文化に基づいた成長を体験する方もいると信じている.

 Lawrence G. Calhoun・Richard G. Tedeschi
 (訳:宅 香菜子)



 心的外傷後成長(posttraumatic growth;PTG)とは,昨今,世界中のさまざまなところで研究が行われているテーマである.人は心的外傷とのもがきによって変わることがあり,時に根本的によい方向へと変わることがあるという考えは昔から広く知られている.しかしながら,研究者や臨床家によって,危機とのもがきから成長が生じる可能性について,系統立てて焦点が当てられるようになったのは,最近になってからである.現在では,PTGに先行する要因,関連する要因,およびPTGに引き続いて生じる結果についての研究や学術論文が増えつつあり,また,研究をさらに発展させるための指針となるような理論的モデルもある.けれども,この「苦難のあとに,時として人は成長を遂げる」という現象への理解がいまだ十分ではないということも明らかである.
 本書は2つの共通目標を念頭におきながら執筆されている.1つは,これまでに明らかとなっていることについての全体像を示し,包括的かつ最新の知見を臨床家,そして研究者の方々に提供することである.もう1つは,PTGのさらなる理解に向けて有意義な一歩を踏み出すために,これまでに研究されてきたPTGに関しての基礎を臨床に応用することである.この領域における研究者が築き上げてきた研究の成果全てを本書で紹介するのはいうまでもなく不可能なことであるが,PTGについて幅広い見識を提供してくださっている重要かつ影響力のある研究者の方々が,これまでに何を明らかにしてきたのかが,本書には記されている.PTGについての最終的な答えは示されていないが,学術的な意味でも,またPTGの臨床への応用という可能性においても,本書が研究のさらなる発展のきっかけになればと願っている.
 国際的に第一線で活躍されている研究者の方々が,執筆を快く引き受け多大な貢献をしてくださったことで,本書をまとめることができた.心より感謝申し上げる.出版社Lawrence Erlbaum AssociatesのSusan Milmoe,Kristen Depken,Victoria Forsythe,Steve Rutterに,この企画全体を通じて助言をいただいたこと,そして,この研究の仲間である,Arnie Cann,Virginia Gil-Rivas,Ryan Kilmerにも感謝の意を表したい.彼らの専門的知識によりわれわれのPTGについての理解はよりいっそう深まり,また,彼らの優しさ,機知に富んだ話,幅広い知識が,われわれの研究という仕事を楽しくやりがいのあるものにしてくれた.記して感謝申し上げる.さらに,近年,多くの才能ある学生の方々とともに研究できたことも喜びの1つである.Jennifer Baker,Katie Bellon,Lisa Keeler,Erin Mills,Deborah Proffitt,Debora Arnoldにも謝意を表したい.そして,われわれが所属する大学学部のスタッフである,Sean Barnett,Mary Olbrich,Shannon Randall,Marti Sherrillにも感謝の意を表したい.
 最後に,われわれの研究を常に支援してくださった学部長Brian Cutler氏に特別の感謝の意を捧げる.

 Lawrence G. Calhoun・Richard G. Tedeschi

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訳者一覧
日本語版への序

執筆者一覧

第1部 心的外傷後成長-理論と方法
 第1章 心的外傷後成長の基礎-発展的枠組み
 第2章 レジリエンスと心的外傷後成長-回復,レジリエンス,そして再構成
 第3章 人生で出合うストレスフルな経験後の成長を測定するうえで生じる問題点
 第4章 失ったものについてもう一度語ること
     -心的外傷後のナラティブのなかで育まれる成長
 第5章 認知的枠組み(スキーマ)の変化という視点から見た心的外傷後成長
 第6章 大きな喪失によって引き起こされるさまざまな結果や心的外傷後成長
     -特に家族関係の文脈において

第2部 特別な文脈における心的外傷後成長
 第7章 スピリチュアリティ
     -心的外傷後成長へと続く道筋なのか,それとも衰退へと続く道筋なのか?
 第8章 がん患者の心的外傷後成長
 第9章 死別と心的外傷後成長
 第10章 戦争後の心的外傷後成長
 第11章 HIV/AIDSとともに生きる過程で生じるポジティブな変化
 第12章 災害および非常事態にかかわる職務からの心的外傷後成長
 第13章 ホロコーストからの生還
     -小児生存者の心的外傷後成長:そんなことが可能なのだろうか?
 第14章 子どものレジリエンスと心的外傷後成長

第3部 心的外傷後成長の臨床への応用
 第15章 エキスパート・コンパニオン-臨床実践における心的外傷後成長
 第16章 心的外傷後成長とゆるしとの関連性-直観的な真実
 第17章 心的外傷後成長と心理療法
 第18章 レジリエンスと心的外傷後成長-構成的ナラティブの見通し

監訳者あとがき
索引

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