網膜硝子体手術SOS
トラブルとその対策

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大学・施設間の垣根を越えた網膜硝子体手術の症例検討会である「RETINAの会」監修の書籍。典型的な症例を通して、術中・術後の網膜硝子体手術合併症の対策と予防策を懇切丁寧に解説。1つのテーマに対し、複数の著者が異なる視点から解説とアドバイスを執筆する、いわゆる紙上症例検討会のような内容構成。想定外の状況に対応し、シリアスなトラブルに陥らないためのコツ、ヒントが満載。
監修 RETINAの会
編集 喜多 美穂里
発行 2012年01月判型:A4頁:264
ISBN 978-4-260-01417-5
定価 17,600円 (本体16,000円+税)

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 留学,大学院を終えて臨床復帰して間もない頃,小椋祐一郎先生に連れられて初めてRETINAの会(おそらく第2回)に参加した.札幌の某所,そうそうたるメンバーが硝子体手術を熱く語り,檀上眞次先生が拡声器をもって進行をされていた.その迫力に圧倒された.大学が異なれば,手術手技もコンセプトも随分違う.衝撃的だった.
 RETINAの会は,故田野保雄先生,竹内忍先生,故樋田哲夫先生,荻野誠周先生たちが中心となって昭和58年頃に立上げられた眼科Surgeonsの会を,平成3年頃,池田恒彦先生が檀上眞次先生,小椋祐一郎先生たちとともに,名称を変えて引き継がれた会とお聞きしている.現在は昭和60年卒以降が世話人となり,日眼と臨眼の折,年2回の集まりを開いている.
 札幌の衝撃から20有余年が経過した今,私は,最多出席,最多発表者に名を連ねているらしい.RETINAの会で揉まれながら,なんとか網膜硝子体術者にしてもらったと感謝している.会での本音の討論は,学会発表や論文になりにくいものも多く,もったいないといつも思っていた.
 硝子体手術は,小切開の時代に移行した感がある.20G手術を知らない若い世代も増えている.彼らは非常に器用でスマートな手術をする.一方で,想定外の状況に遭遇した時には驚くほどもろさを露呈してしまう.考えてみれば,起こしたことも,見たこともない合併症の対処を要求するのは酷である.
 今こそ網膜硝子体手術合併症を扱った本が必要ではないか,RETINAの会での討論をここで活かせるに違いないと考えた.
 RETINAの会のスタイルをrespectして,私たち第2代目世話人世代のメンバーが症例を提示し,会の先輩方にアドバイスをいただく形式とした.会での臨場感を感じていただくことができれば幸いである.
 この本を出版するにあたっては,本当に多くの方々にお世話になった.お忙しいところ快く執筆をお引き受けいただいた先生方,編集にご協力いただいたRETINAの会の世話人の先生方,書籍化にご尽力いただいた根木昭先生,企画をお引き受けいただき,さまざまな我儘をきいてくださった医学書院の皆様に心から感謝申し上げたい.この本の企画会議をしていた博多臨眼で,出席を予定されていたRETINAの会直前に体調を崩され,ご逝去された河野眞一郎先生も出版を喜んで下さっていると信じている.

 2012年1月
 喜多 美穂里

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I 術中SOS
 A 強膜バックリング手術
  1 網膜裂孔が同定できなくなった
  2 網膜凝固斑が出ない
  3 網膜凝固時の強膜穿孔
  4 通糸時の穿孔
  5 網膜下液排液時のトラブル
  6 子午線ひだ,フィッシュマウス
  7 眼圧上昇,低眼圧
  8 ガスのトラブル
 B 硝子体手術
  1 上脈絡膜出血,駆逐性出血
  2 灌流ポートのトラブル
  3 網膜嵌頓
  4 視認性低下
  5 医原性裂孔
  6 網膜下出血
  7 IOL脱臼
  8 水晶体損傷
  9 レーザーが出ない
  10 内境界膜(ILM)が染まらない
  11 後部硝子体剥離(PVD)が起こせない
  12 網膜がずれる
    巨大裂孔網膜剥離でのずれ
    黄斑部を含む上方胞状網膜剥離でのずれ
  13 網膜剥離が復位しない
  14 術中出血
  15 増殖膜が取れない
    増殖糖尿病網膜症(PDR)の膜
    増殖硝子体網膜症(PVR)の膜
  16 高度な脈絡膜剥離眼への対処
 C 麻酔に関するトラブル
 D 手術機器・器具関連のトラブル
    灌流液がなくなった
    広角観察システム使用時にセンタリングがずれる

II 術後SOS
  1 バックル感染・脱出
  2 眼球運動障害
  3 再剥離
  4 黄斑パッカー
  5 前部増殖硝子体網膜症(anterior PVR),増殖硝子体網膜症(PVR)
  6 循環障害
  7 シリコーンオイルに伴う合併症
  8 脈絡膜剥離
  9 眼圧上昇
  10 硝子体出血
  11 前房出血
  12 フィブリン析出
  13 黄斑浮腫
  14 再増殖
  15 黄斑円孔非閉鎖・再開孔
  16 内境界膜(ILM)剥離に伴う合併症
  17 低眼圧,創閉鎖不全
  18 感染性眼内炎
  19 ガス白内障
  20 視野欠損
  21 網膜光障害
  22 角膜上皮障害

索引

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網膜硝子体手術を手がける術者にとって待望の本
書評者: 竹内 忍 (竹内眼科クリニック院長/東邦大客員教授)
 術中,術後の合併症は避けることのできないものである。多数例の手術を経験した術者であればあるほど,合併症の経験も数多くあり,皮肉にもその分豊富な対処方法を持っている。その意味では,経験したことのない合併症に遭遇したら,直ちにベテランの術者にアドバイスを求めるのが妥当であろう。

 実際,昔のことであるが,他の病院から緊急の電話がかかり,「今,硝子体手術中に駆逐性出血が生じたので,どうしたらよいか!?」という問い合わせを受けたことがある。このように緊急時に対応できれば幸運であるが,必ずしもそのような恵まれた状況にあるとは限らない。何らかの合併症に遭遇したら,あらかじめある程度の知識があれば,合併症の程度を最小限にとどめることができるかもしれない。その意味で今回,RETINAの会から『網膜硝子体手術SOS――トラブルとその対策』が上梓されたことは,非常に喜ばしいことである。

 手術の合併症だけをまとめた成書は非常に少なく,特に網膜硝子体手術に関してはほぼ皆無であり,網膜硝子体手術を手がける術者にとっては待望の本が出版されたと言える。RETINAの会は,眼科サージャンズの会が行った症例検討会を引き継いで,年2回の割合で開催されてきたという。眼科サージャンズの会は,故田野保雄先生の提案で「失敗を素直に語り合う会」という一面があり,今回の『網膜硝子体手術SOS』は,まさに合併症への対策を受け継いできた歴史の集大成ではないかと個人的には思える。

 この本では網膜硝子体術者ならば経験した,または今後経験するかもしれない術中・術後の合併症がほぼ網羅され,その対策について詳しく解説されている。

 具体的にみると術中では強膜バックリング手術,硝子体手術,麻酔に関するトラブル,手術機器・器具関連のトラブルという項目に分類されている。術後の合併症では,バックル感染・脱出,眼球運動障害に始まって,眼圧上昇,硝子体出血,感染性眼内炎と続き,網膜光障害,角膜上皮障害で終わっており,計66名の執筆者がそれぞれ得意分野を分担している。個々の事例を手術の経過からどのように発生したかを示し,問題を解決するために行った処置を提示している。ストーリーとして書かれているため状況がわかりやすく,その上で,合併症の発生メカニズムと対応策を理論的に解説しているので,非常に理解しやすい。担当した執筆者が個々に経験した事例を解説しているため,個人的な考え方が前面に出やすく,一般的には独善的な傾向に陥ることがある。この点を是正する意味もあると思われるのが,経験豊富な術者によるアドバイスの項目である。ここに書かれたアドバイスは実に適切であり,それぞれの合併症について,補完的な意味を持たせている。また,参考文献も提示されているので,より詳しく調べるには好都合である。

 取り上げられている合併症は適切に選ばれており,十分網羅されていることから,合併症に遭遇したときには,この本を開くことによって的確な対応ができることは間違いない。ぜひとも臨床の場に置いておきたい一冊である。
代表的なトラブルへの対策を簡潔,明快に示した手術実用書
書評者: 本田 孔士 (京大名誉教授/大阪赤十字病院名誉院長)
 「網膜硝子体手術」を遂行するときに遭遇するトラブルを約50項目に分類し,それぞれへの対策を実に簡潔,明快に示した手術実用書である。この中には,代表的(かつほとんどすべての)トラブルが取り上げられており,現在行われている標準的な対策はすべて書かれている。したがって,この分野にかかわる者すべてが一度は通読しておくべき書物である。また,トラブルに遭遇したとき,反省を込めて,適時,振り返りながら拾い読みしたい本でもある。いずれにせよこの分野で術者たらんとする者は,座右に必須で備えるべき書物であるに違いない。取り上げられているトラブル項目のネーミングも実際的,具体的でわかりやすく,随所に,写真だけでなくスケッチが添えられているのが非常に理解を助けている。

 編集の妙として,主執筆者のシャドウのごとく,経験豊富なほかの識者がコメント(この本では「アドバイス」と命名してある)を寄せており,それが記載内容に一段と深みを増し,対策を立体化している。両者がインディペンデントの立場から発言しているから,考え方が微妙に違っているのが非常に面白い。アドバイス側にこそ対策の本質が見える項目もあり,両者の記載には軽重を付け難い。

 手術は網羅的な教科書を何度読んでも進歩しない。実際の症例,それも先人の失敗に学びながら上達するものである。その意味で,手術は典型的な経験学であり,実践学である。

 例えば,良質の過去問,例題を数多く解くことが入試問題の解答につながるように,手術は多くの実例に学びながら上達するものである。しかも,失敗例の蓄積にこそ,先人の本音の体験記にこそ,学ぶべきものが多いのである。円滑な手術はいくら見てもあまり勉強にならないものである。

 筆者の経験から一つ注文を付ければ,交感性眼炎についても記載してほしかった。手術といえども外傷に違いなく,何千例の手術症例中には,非常にまれではあるが,非手術眼の炎症に遭遇することがある。ほとんどの術者が経験せずに一生を過ごすのであるが,不注意だと見逃す。

 手術はしっかりした指導者の下で,体系だった教育を受けて学ぶべきものであるが,まれな事項,特にトラブルは,自験例が有限であることから,書物から学ぶしかない。編者が序文で述べているように,現在は情報が共有されやすい時代である。ビデオも情報交換の手段に違いないが,術中,術後のトラブルについて,自分と異なった環境で上達した術者の経験を,書物を通してではあるが,じっくりと読んで自己反省し,また,将来遭遇するかもしれない事態に備えたい。上級の術者は,ここにある記載内容を批判的に読まれるかもしれないが,それはそれで意味のあることではないか。

 本の構成として,最後に索引が設けてあるのも,経験の浅い術者が,手術場で思わぬトラブルに遭遇して動転したときに役立つかも知れず,親切である。

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