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質的研究方法ゼミナール 増補版
グラウンデッドセオリーアプローチを学ぶ

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質的研究の入門書である本書が発行されて2年余。「初学者がグラウンデッドセオリーアプローチを学ぶなら本書」の定評を得ている。増補を機に、分析の押さえどころを、よりわかりやすく加筆・修正。“腑に落ちる”記述に意を注いだ。新たに、質的データ分析支援ソフトについても解説。グラウンデッドセオリーを学ぶ方々の必読書。
戈木クレイグヒル 滋子
発行 2008年06月判型:A5頁:236
ISBN 978-4-260-00700-9
定価 2,860円 (本体2,600円+税)
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増補版の刊行にあたって

 本書で私たちのゼミをはじめて紹介してから2年半が経ちました.未完成なゼミとデータ分析をありのままのかたちで提示したので,どんな反応が返ってくるんだろうかと心配でしたが,これがきっかけとなり,いろいろな方から有意義なご意見や質問をいただくことができました.また,ワークショップや心理学や社会福祉学領域の大学院での集中講義の機会がふえ,他領域の方々とも出会えました.そのなかには,本書を何度も読んで独学でグラウンデッド セオリー アプローチを学んでくださっている方も多く,もともと意図した自習書の役割が果たせたことを嬉しく思いました.どこに何が書いてあるのかを,筆者以上に把握なさっている方さえおられたことには感激しました.
 そんななかで,私自身もこれまで以上にグラウンデッド セオリー アプローチと向き合わざるをえなくなり,その結果,分析方法と教え方が少しずつ進化/深化したように思います.じつは,これまでの増刷のたびに,それにあわせて修正を加えてきました.はじめから完璧なものをだすべきだというお叱りをいただくかもしれませんが,研究方法は生き物で,使い手の成長に伴って変化するものだと思います.いったん出版した以上,よい方向への変化があれば,可能なかぎりそれにあわせて書き替える責任があるのではないかと思ったのです.編集を担当してくださった小田嶋永さんは,快くそれにつきあってくださいました.
 今回の増補はその延長として生じたものですが,これを機に,プロパティとディメンションを据えて分析を進めていく経過がよりわかりやすくなるように手を加えました.さらに,ATLAS.tiに詳しい深堀浩樹さんに,本書の例題を使ってSIDE NOTEに『質的データ分析支援用ソフトの活用』を書いていただきました.最近,日本語データに使える分析支援用ソフトが出まわり,関心をもつ方が増えたように思ったからです.
 もちろん,本書で紹介するグラウンデッド セオリー アプローチを使いこなすために,分析支援用ソフトが不可欠だというわけではありません.分析をおこなうのは分析者自身あり,コンピュータではありませんから手作業でもまったく問題はありません.とはいうものの,分析支援用ソフトをうまく使いこなすことができれば,効率よく分析を進めることができるでしょう.関心のある方はぜひお試しください.
 『増補版』になったとはいえ,この本が質的研究もしくはグラウンデッド セオリー アプローチの入門書であり自習書であるという点はなんら変わりません.ゼミ生たちと一緒に,短い2つの例題の分析を通して,オープン コーディングとアクシャル コーディングの基礎をじっくり学んでいただきたいと思います.ミース・ファン・デル・ローエの建築物のように,分析結果としてだすときには表面にあらわれてこない,礎の部分こそが重要だからです.一見,複雑に見えるかもしれませんが,プロパティとディメンションに沿って進める分析の流れを理解しさえすれば,グラウンデッド セオリー アプローチは"Less is more."(シンプルこそ効果的)を体現した方法だと思います.
 時が経つのははやいものです.初版を書いたときに学部ゼミ生だった鈴木希世子さんが今は大学院生になり,今回の校正を手伝ってくれました.当初,医学書院からは増刷をすすめられましたが,大量の修正をお見せしたところ『増補版』に切り換えてくださいました.鈴木さんと医学書院,そしてゼミの仲間たちに感謝いたします.

 2008年3月
 ふるい五段飾りを眺めながら
 戈木クレイグヒル 滋子

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SESSION 1 研究方法を学ぶ理由
 1 研究方法を学ぶ理由
 2 研究方法のトレーニングを受ける意味
 3 質的研究におけるよい結果とは
 4 グラウンデッド セオリー アプローチによるデータ分析の流れ

SESSION 2 インタビュー法によるデータ収集
 1 対象者の選定
 2 前準備
 3 依頼の手順
 4 インタビュー環境を整える
 5 本番での作法
 6 リッチなデータを得るための方策
 7 インタビューが終わったら
 8 インタビュー法のトレーニング

SESSION 3 参加観察法によるデータ収集
 1 参加観察法によるデータ収集
 2 「参加観察法トレーニングゼミ」の概要
 3 フィールドでのデータ収集

SESSION 4 プロパティとディメンション
[講義]
 1 プロパティとディメンションとは何か
 2 プロパティとディメンションのあげ方
 3 研究結果として示すべきもの
 4 プロパティとディメンションを増やす方法
[データの分析]
[学生の学び]

SESSION 5 ラベル名をつける
[講義]
 1 コーディングの種類
 2 データの読み込み
 3 データの切片化
 4 ラベル名のつけ方
[データの分析]
[学生の学び]

SESSION 6 カテゴリーにまとめる
[講義]
 1 カテゴリーにまとめる
 2 カテゴリーを明確にする
 3 コアカテゴリー,カテゴリー,サブカテゴリー
[データの分析]
[学生の学び]

SESSION 7 比較をおこなう
[講義]
 1 比較とは何か
 2 理論的サンプリング
 3 理論的飽和をめざして
[データの分析]
[学生の学び]

SESSION 8 カテゴリー同士の関係をとらえる
[講義]
 1 パラダイムとカテゴリー関連図を使うメリット
 2 現象の構造とプロセスをとらえる
 3 現象ごとにカテゴリーを分類する
 4 ストーリーラインを書く
[データの分析]
[学生の学び]

SESSION 9 「ナースQさんの語り」のデータの分析
 1 データを読み込む
 2 ラベル名をつける
 3 カテゴリー名をつける
 4 カテゴリー同士の関係をとらえる
 5 比較
 6 理論的サンプリング

SESSION 10 参加観察法を用いて収集したデータの分析
 1 学生による分析
 2 分析例の提示

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戈木版グラウンデッド・セオリーとパラダイム
書評者: 水野 節夫 (法政大教授・社会学)
 英語圏における有力な質的分析法の一つにグラウンデッド・セオリー(Grounded Theory;以下,GTと略記)がある。このGTの開発者の一人であるA・ストラウス氏と彼の最晩年の共同研究者であるJ・コービン氏のもとで長年研鑽を積む形で調査・分析技法の腕を磨いてきた人物が,本書の著者である戈木氏である。そして本書の初版が出版された2005年以降,日本におけるGTの分析手法の第一人者として大活躍している戈木氏が,カテゴリーの関連づけ方に見られる認識上の深化と「質的データ分析ソフトの活用」セクションを入れ込む形でこの度公刊したのが,この増補版である。

 評者の見るところ,分析技法としての戈木版GTは,うまく生かされるならば,相当の展開力を備えているのだが,その最大の強みは,何といっても,〈具体的なターゲット素材が確定できれば,ボトム・アップ的やり方で,確実に体系的なデータ分析が行なえる仕組みを備え持っている〉という点にある。これは驚異的な達成と言うことができる。

 そうした戈木版GTの展開力の源泉としては,大きく次の3点を指摘できるように思う。第1は,概念化・コード化・カテゴリー化の際の中心的技法として〈プロパティとディメンション〉の発想を採用すると共に,多様な比較の手法をも駆使する形で,体系的にモデル構築をやっていく道筋を具体的に提示していること。第2は,(研究の焦点としての)ターゲット現象の概念的構造化の技法として,〈パラダイム〉と〈カテゴリー関連図〉と〈ストーリー・ラインの発想〉の3つを持っていること。そして,第3には,「ラベル名をつけたらデータに戻る,カテゴリー名をつけたらラベルやデータに戻るというふうに,行きつ戻りつを繰り返」(p.160)すやり方が徹底していることである。

 今度はその(ありうる)問題点である。私見では,それは,戈木氏におけるパラダイム〔つまり,「カテゴリーを現象ごと分類するための枠組み」(p.152)〕の把握の仕方に見て取ることができる。第1は,condition(条件)を“状況”という形でかなりあいまいに定式化している点である。これは,“条件”と“状況”と“コンテクスト”などは,相互の位置関係に注意しながら区別して用いるべきではないか,という見解を持っている立場からの異論である。第2は,(ストラウス氏らの議論をそのまま継承する形で)action/interactionをセットにしたままでこの着目点を採用している点である。これは,〈action〉水準と〈interaction〉水準との分析的区別をしておいたほうが‘展開力’がある,という立場からの違和感である。第3は,初心者用に,という断り書きはしているが,「状況→行為・相互行為→帰結(=次の段階での状況)→行為・相互行為→帰結…」というシークエンスの設定(p.154)が‘金太郎飴’的やり方に堕してしまう危険性を秘めている点である。
本を読むとき (雑誌『精神看護』より)
書評者: 田中 美恵子 (東京女子医科大学大学院看護学研究科・教授)
 本書は、2005年9月に発行された同書の増補版である。初版発行から、幅広い読者の支持を得て増刷を重ね、今回“満を持して”増補版発行になったとのことである。増補版での主たる変更点は、①プロパティとディメンションを中心にすえ、分析のすすめ方がよりわかりやすくなったこと、②質的データ分析支援用ソフト(ATLAS. ti)の活用が加筆されたこと、の2点だという。

◆「戈木グラウンデッド」のユニークな点

 いまやグラウンデッドセオリーアプローチは、質的研究方法のなかで揺るぎない地位を占めるようになった。すでにこの方法を活用して看護研究を行なっている方も多いことであろう。看護研究の初学者にとっては、いつかこの方法を使いこなせるようになりたいという「憧れ」の気持ちさえ抱かせるような、そんな研究方法となった。

 本書は、すでにグラウンデッドセオリーアプローチを活用して研究を行なっているがいまひとつ自分の理解に自信がもてないという方、またこれから真剣に学んで自分の研究に活用していきたいと考えている方にとって、格好の入門書である。

 編者であり著者でもある戈木クレイグヒル滋子氏は、米国留学中にカリフォルニア大学サンフランシスコ校で、グラウンデッドセオリーアプローチの産みの親であるアンセルム・ストラウス氏から直接手ほどきを受け(羨ましい!)、この方法を駆使した数多くの研究をすでに世に問うている。つまり、グラウンデッドセオリーアプローチを十分に咀嚼し、自分のものとしている方といえる。本書はこうした著者だからこそ書くことができた本である。

 一方で、戈木氏自身本書の冒頭で述べているように、「ストラウス氏の方法を模倣して使ってはいるが、分析のなかでどこに重点を置くかは多少異なっている」とのことである。その異なっている点は、「プロパティとディメンションを分析の中心にすえていること」だそうである。

 プロパティとは、日本語に訳すと(各概念の)「特性」であり、ディメンションとは「次元」である。つまり、それぞれの概念の「特性」がどの「次元」(レベル)にあるかを丁寧に見ていくことで、分析の精度を高める仕組みをつくっており、この点が「戈木グラウンデッド」のオリジナルな点である。私も含めカタカナ語に弱い人は、最初、この「プロパティ」と「ディメンション」という言葉に少々惑乱され、目くらましにあってしまうのだが、今回の増補版において、この2つの言葉が丁寧に説明され、分析過程全体に織り込まれたことで、これらの語に対する恐怖心は薄れ、理解がたやすくなった。

◆活用できるレベルまで導いてくれる

 最後に付け加えれば、本書は、ただ単にグラウンデッドセオリーアプローチの解説書であることを超えて、教育方法の実践例であるという点に何よりもユニークさがある。分析方法だけでなく、インタビューや参加観察法の具体的なトレーニング方法が書かれているのは、看護教育者にとっては大変ありがたい。研究方法はどれもすべて、紙上の理解だけではなかなか自分のものとはならない。やはり実践的なトレーニングが欠かせない「技術」である。したがって、本書のなかにふんだんに示された演習方法が、看護研究の教育に資するところは大きい。勝手な感想を言わせていただければ、このゼミナールの教育方法には、長年看護教育が実習指導のなかで培ってきた知恵が自ずと編みこまれているような感をもった。

 いずれにせよ本書は、グラウンデッドセオリーアプローチが、日本の看護研究・教育へと自然な形で導入される過程での1つの到達点――結実といえるのではないだろうか。

(『精神看護』2008年11月号掲載)
懇切丁寧な構成で方法の理解と学ぶ面白さを同時に体感できる格好の入門書
書評者: 江口 重幸 (東京武蔵野病院精神科)
 近年,医療・看護・福祉領域で,質的研究は一種のブームとなり,多くの入門書が出版されている。本書は質的研究方法,特に副題にあるようにグラウンデッド セオリー アプローチを学ぶための格好の入門書である。2005年に第1版が出て,本年この増補版が出版された。

 グラウンデッド セオリーは,質的研究を志す人が必ず修得しようと試みる方法である。しかし残念ながら,途中に立ちはだかるいくつかのハードルの手前であきらめることが多いのではないか。独特な概念である「ディメンジョン」や「プロパティ」あたりは理解しても,「コーディング」の実践のあたりにさしかかると独学では簡単に進めない急峻な峠となる。評者もこの辺でこれまでに何回かリタイアした経験を持つ。

 本書はこうした難所を無事に通過できるように,随所にさまざまな懇切丁寧な工夫が凝らされていて,読む者をさらに内奥へと導いてくれる。それらの工夫は,一方的に著者が講壇からモノを教えるふうでなくコアの概念をかみ砕いた「講義」,それだけを読んでいっても楽しい人形の写真や挿絵,「SIDE NOTE」などの囲み記事など随所に見られるが,増補版では新たにデータ分析ソフトなどが加わることでさらに豊富になっている。語り口やページレイアウトを巧みに切り換えながら,具体的な研究にたずさわる者が場面場面で考え,経験できるような流れが形成されている。

 会話体で起こされたバーチャル・ゼミナールという討論形式も,読者が書物から一方的に情報を受け取るというより,実際にゼミに参加し,それがどういうものであるのか「もののやり方」をリアルに体感できる仕組みになっている。

 本書全体は10のセッションから構成されている。インタビューの作法や参加観察の方法から入り,プロパティ,ディメンジョン,コーディング,カテゴリー化などの中心的概念が丹念かつ平易に解説され,比較やカテゴリー関連を経て,具体的なデータ(「ナースQさんの語り」)の分析と,参加観察データの分析という順路をたどる。

 表紙のイラストが象徴的に示すように,本書全体が,カヤックを漕ぎ出して10の島(セッション)を巡る発見の旅にたとえられている。目的の島々への旅という物語は,研究テーマを追うことの面白さとその際に必要な視点の複数性を浮かべ立ててくれる。

 本書には,入門書や教科書にありがちな教条的口調や中だるみはまったくない。一本のテンションが終始貫かれているように思われる。それはグラウンデッド セオリー アプローチという一見難しそうな方法を,何としてでも咀嚼して伝えようとする著者の情熱であり,その面白さをひとりでも多くの人に知らせたいというあふれるような思いなのであろう。

 本書を手にとって数ページ読み進んでみてほしい。そうしたら読者も著者に誘われ,パドルを握って紺碧の海に漕ぎ出し,点在する島々を巡りたいという気に必ずなると思う。
質的研究の方法をこれほどわかりやすく示してくれた本があっただろうか (雑誌『看護教育』より)
書評者: 小林 奈美 (鹿児島大学医学部教授・保健学科看護学専攻)
 「先生,質的研究の方法を教えてください!」と目を輝かせた学生を前にしたとき,あなたはどうするだろうか? 今や,質的研究方法の多くが看護研究に適切な方法論と認知され,多くの学生が学習の機会を望んでいる。本書は,その切実な願いに応えることができる貴重な一冊である。というのは,質的研究,とくにグラウンデッドセオリーにおける「データとのつき合い方」をこれほど分かりやすく,かつそれを実際に体験できるトレーニングのプロセスまで解説した本はないからである。あなたに教える自信がなくても,本書が,大海原を航海する船の羅針盤のように行くべき先を示してくれるだろう。

 まさに大航海と呼ぶにふさわしい質的研究のプロセスを体験してもらうために,本書は「研究方法を学ぶ理由」から始まり,説明の難しいそれぞれの具体的なプロセスを,具体的なデータを提示しながら丁寧に解説している。また,著者の担当する大学のゼミの内容がふんだんに盛り込まれており,読者がゼミに参加しているような「バーチャル感」を体験できることも魅力である。すべてのプロセスで学生が葛藤した「実例」が示されているので,「未熟なもの」と「完成度の高いもの」の違いが明確になり,読者がより良いものを見分ける能力を養うことができる。例えば不十分なインタビューにはどのような落とし穴があるのかという感覚を実例から養うことができるのである。良いインタビューでリッチなデータが得られた次には,データとの「うまいつき合い方」が必要になる。それを学習するために,初期の段階ではデータに「密着」して,プロパティとディメンションという「ものの見方」を身につけ,データに潜んだ関係性を読み解くのに必要なトレーニングが示されている。分析が進んだ段階では,逆に「飛躍」し,データから離れた場所から眺めることが必要になるが,いずれもゲームのような楽しいトレーニングの方法が提示されている。ところどころに,ゼミの学生と教員の実際の質疑応答が紹介され,読者の素朴な疑問を,ゼミの学生が本書の中で代弁してくれるような感覚で,自分の理解度を振り返ることもできる。さらに,今回の増補版によって,データがモデルに変容していくプロセスと,質的研究ソフトウェアが支援できる範囲が具体的に示され,一層理解しやすくなっている。

 看護は,病や死の体験,良いケアを提供する人としての成長など,この方法が生きる現象に溢れている。教えようと気負わずに,本書を片手に学生と共にリッチなデータを得る工夫を考え,データとの距離のとり方を学びながら,日常と思ってきた現象に対する「データからの新しい発見」に,ぜひ取り組んでいただきたい。

(『看護教育』2008年10月号掲載)

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