EBM健康診断 第2版

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一般健康診断を科学的に分析すること,そしてその問題点を指摘し,さらに改善へ向けて何が求められているのかを柔軟に提言すること――その基本姿勢を貫いて,初版発行より3年半。待望の改訂版の登場。視力・聴力検査,そして現在注目される女性検診を新たに加え,項目の充実を図るとともに,EBMのエビデンスの考え方をより厳密に,各検査の評価もより系統的に刷新。
編集 矢野 栄二 / 小林 廉毅 / 山岡 和枝
発行 2003年04月判型:B5頁:240
ISBN 978-4-260-10635-1
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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第I部 健康診断とその評価法
 1 健康診断の有効性と有用性
 2 スクリーニング
 3 メタ・アナリシス
 4 医療経済評価
第II部 職域における健康診断項目の検討
 1 自覚症状とうつの検査
 2 身体測定
 3 視力検査
 4 聴力検査
 5 胸部X線・喀痰検査
 6 血圧測定
 7 尿検査
 8 貧血検査
 9 肝機能検査
 10 血中脂質検査
 11 血糖検査,ヘモグロビンA1c
 12 心電図検査
 13 腎機能検査(クレアチニン)
 14 女性の健康診断
第III部 健康診断の歴史と今後の方向性
 1 わが国の健康診断の歴史
 2 これからの職域健康管理活動
索引

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エビデンスに基づいて明らかにされた定期健康診断の現実
書評者: 大島 明 (大阪府立成人病センター調査部)
◆多くの項目が「根拠不十分」

 本書は,1999年に出版された『Evidence Based Medicineによる健康診断』の全面改訂版である。すでに第1版で,わが国の職域健診の多くの問題点を指摘していたが,本書では,その後3年半の間の新たなエビデンス,とくに米国予防医療研究班報告の新しい内容などを参考にして,労働安全衛生法による一般定期健康診断項目のそれぞれの有用性について改めて吟味している。その結果,定期健康診断に含めるべきだとする根拠があるものが少なく,多くが有用,無用の根拠が不十分であることを明らかにした。

 日本でのEBMは,横文字を縦にするだけで,いわば社会現象のように流行して内容を伴うことがないところからはじまったが,最近ようやく臨床の現場では実際に適用されつつあるようである。しかし,編者が言うように,「お膝元の公衆衛生領域や予防活動の実践に,EBMを適用しようとする動きが多くない」「わが国の公衆衛生や予防医学の領域も,権威主義や経験主義からいまだに脱却しえていない」のは誠に残念なことである。特に,健康診断は「現在自覚的には特に問題のない対象に,時には侵襲や不利益をもたらすこともある検査をおこなう」のであるから,「健康診断項目にある検査を含めるか否かは,より直接かつ厳密にエビデンスが示すものに従うべき」である。

◆健康診断のガイドライン必要

 このような編者の健康診断に関する問題意識に,書評子はまったく賛同する。しかし,各論における提言では,編者も認めていることではあるが,「さらなる研究が必要である」というような歯切れの悪い結論の章が少なくないのは,大いに不満が残る。編者の問題意識が検診の「専門家」である各論の執筆者の共通の認識に必ずしもなっていないように思われる。「権威主義や経験主義」に基づいていったん定期健康診断の項目に取り入れられたものをエビデンスに基づいて中止あるいは変更しようとすると,検診現場から大きな抵抗があることは十分予想できることである。せめて編者のまとめとして,何を目的にしているかが明確でないものや有用性のエビデンスのないものは,健診項目から削除するべきだと各健診項目ごとに明示してほしかった。編者が言うように,今後わが国の健康診断の制度が法規準拠を脱し,現場の産業医の判断で前向きな取捨選択の裁量が取り込めるようにして,さらに過程でなくアウトカムを重視するようにするためには,産業医が参照するべき健康診断のガイドラインの作成と定期的な改訂更新が必須である。今後,本書がさらに発展して,そのようなガイドラインとなることを期待したい。

 さて,本書は健康診断という二次予防の問題点を指摘しているが,提言にもあるように予防医学の中心は一次予防にあり,今日のわが国ではタバコ・コントロールが最重要課題である。おりしも,本年5月から施行された健康増進法の第25条では受動喫煙の防止が,事務所など職場を含む施設の管理者の義務と規定された。また,WHOタバコ・コントロール枠組み条約が,本年5月の世界保健総会で日本政府を含む加盟192か国の全会一致で採択された。日本におけるタバコ・コントロールをめぐる環境は変わりつつある。行動科学や薬理学の裏づけのある禁煙指導を職場の禁煙・分煙とセットして組み合わせれば,禁煙成功率は確実に高まり成果を上げることができる。日本の産業保健の分野で,タバコ・コントロールは今後最優先して取り組むべき課題であると書評子は考える。

「健診大国」のこれからを考えるための道しるべ
書評者: 和田 攻 (東大名誉教授・埼玉産業保健推進センター所長)
◆EBMによる評価は必然

 本書は,1999年に出版された『Evidence Based Medicineによる健康診断』の全面改訂版であり,初版には含まれていなかった視力検査,聴力検査,および問診,さらには女性の健康診断にもEBMの光をあて,事業場で行なわれている一般定期健康診断項目のすべてについて論じ,かつ提言を行なっている,予防医学・公衆衛生学・社会医学分野では初めてのEBM書である。

 わが国は「健診大国」であり,健診はこれら上記の分野での重要な事業で,職域だけでも毎年数千万人の人が健診を受け,その費用も極めて膨大となっている。他の医学分野で取り入れられつつあるEBMにより,健診のあり方,すなわち健診の有用性・有効性,および医療経済面からの評価を受けることは必然である。さらに受診者への情報提供の面で,また,現在健診目的の変換(成人病の早期発見から生活習慣病の一次予防へ)が必須となっている面からも,すべての保健関係者が,自らの立場で健診のあり方を考える道しるべとして,繙くべき必読の書である。

 これからの健康診断のあり方は,まず第一にEBMに基づいた健診であること,さらに結果(アウトカム)から出発し,かつ事後措置に結びつくこと,個別的健診(テイラーメイド健診)をめざすこと,個々人(受診者)の自主努力のもとに行なわれること,予防から健康増進へと前向きの健診であること,などが優先されるべきものとされており,これらの内容は,プライバシーの保護のさらなる重要性を指している。米国のように,“自分の欠点を曝すことは止めてくれ”という要求が出されるかも知れない。EBMはこれらすべてをカバーするものともなり,今後,最も重視すべき1つの指針である。

◆現時点での評価は絶対的ではない

 もちろんEBMに対しては,「総論賛成・各論反対」の空気も強い。と言うのも,もともとEBMは臨床疫学から出発している。臨床医学が原理・原因を重視し,介入(診療)はそれに理論的に合わせて行なわれるのに対し,疫学では,発想的な介入によって,結果がどうなったかが重視される。原理や真の原因は誤っていても,誤った理論に由来する介入でも,結果が良ければよいということで,高木兼寛の麦と動物性蛋白補給による海軍の脚気対策の成功など,歴史的にも疫学の成果は大きい。

 本書では健診の項目の大部分が“Cグレード,すなわち健診に含めるには適しない”と厳しいが,その根拠は,エビデンスが示されていないというわけで,医学の進歩やエビデンスの提供によっては,グレードアップすることも,本書では尿蛋白の検査などでみられる。現時点での評価が絶対ということではない。EBMは著者らも述べているように,“医学技術の詳細かつ段階的な評価”であるということである。

 本書の構成は第I部は総論,第II部は,すべての健診項目についてEBMの立場から論じ,私たちが今まで無意識のうちに信じてきた有用性をバタバタと切り捨てる痛快な科学的内容となっており,第III部は,歴史と今後の方向性が述べられている。第I部の医療経済評価の章は手法の導入上重要である。

 本書は,今後の健診に関する先がけと同時に基本となる本で,すべての保健関係者が一読し,さらには熟読すべき,この方面でのわが国唯一の成書である。日常の健診実施にも,新しい眼が開けるものである。心から推薦したい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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