脊髄損傷 第2版
日常生活における自己管理のすすめ

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脊髄損傷の患者が自立して社会復帰し,日常生活を送るために,どういう点に注意し,どう取り組んだらよいかをわかりやすく説いた患者・家族のための本。改訂にあたっては,初版の枠組みを踏襲しつつ,公的介護保険などの新しい制度や医学的・技術的進歩を十分に取り入れて,具体的に解説した。
徳弘 昭博
発行 2001年06月判型:A5頁:252
ISBN 978-4-260-24395-7
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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  • 目次
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I 脊髄損傷とは
 1. 脊椎と脊髄
 2. 脊髄損傷と脊髄性麻痺
 3. 脊髄性麻痺の合併症 
II 日常生活上の注意点
 日常生活での基本的注意事項
 1. スキン・ケア(皮膚の管理)
 2. 排尿の管理
 3. 排便の管理
 4. 体温の調節
 5. 呼吸器の感染症
 6. 筋肉の異常緊張
 7. 自律神経の障害
 8. 性機能の障害 
III 身体の機能を維持するには
 1. 関節の運動
 2. 筋肉の力
 3. 体力
 4. 歩行用装具 
IV 車いす
 1. 車いすとクッションの支給制度
 2. 車いすに乗るまで
 3. 車いすの種類
 4. 車いすの基本構造
 5. 車いすの性能(安全性と走行性)
 6. 車いすの手入れ
 7. 車いす用クッション 
V 社会での自立
 1. 自助具,装具,生活援助危機など
 2. 家屋改造,住宅設備
 3. 自動車の運転 
VI 社会福祉制度
 1. 社会福祉制度への窓口-MSW
 2. 社会保障制度の知識
 3. 身体障害者福祉法によって受けられる援助
 4. 介護保険
 5. 年金の制度
 6. 施設についての知識 
VII 職業復帰
 1. 職業復帰の形
 2. 制度についての知識 
VIII 社会活動への参加
 1. 障害者の団体
 2. 障害者のスポーツ団体
 3. 交通機関の利用 
IX 食事と栄養
 1. 一般的な注意点
 2. 脊髄損傷の人が注意すべきこと 
X よく使われる薬剤と副作用
 服薬に際して
 1. 筋弛緩薬
 2. 排尿障害に使われる薬剤
 3. 排便調節に使われる薬剤
 4. 皮膚・粘膜の殺菌消毒に使われる薬剤
 5. 局所麻酔薬・潤滑薬として使用される薬剤
 6. 褥瘡治療に使われる薬剤
 7. 性機能障害者に使われる薬剤 
XI 健康管理
 1. 定期的な健康のチェックが必要な理由
 2. 定期的にチェックが必要な項目 
XII 自己管理の知識のチェックリスト
 チェックリスト

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脊髄損傷にどう取り組むか,患者・家族のための本
書評者: 岩坪 暎二 (総合せき損センター部長・泌尿器科)
◆患者自身の理解を意図したわかりやすい内容

 事故などで誰にでも起こり得る脊髄損傷の治療には,麻痺の医学と医療体制が必要である。脊髄麻痺による合併症を予防し,身体の障害を最小限にくいとめるためには,急性期の包括的な医療と効率的なリハビリテーションが必要である。障害として残ったハンディキャップを克服して社会復帰させるためには,具体的な日常生活を想定した医用工学的支援や福祉制度の援助が必要である。
 本書は,A5判252頁の小冊子ながら,脊髄損傷の医療とリハビリテーションについて,入り口から出口までの包括的・専門的な内容を患者自身にわかるように意図してまとめられているが,医療スタッフにこそ必要な解説書でもあると考える。わかりやすい理由は,流れに沿った具体的な項目を1人の脊損専門医が,「噛み含んで口移しするように」平易な言葉と挿絵を交えてまとめたことにある。分担執筆の書は,専門家を満足させる詳しい記載がなされていても,往々にして,患者のための生きた情報源にはなりにくいのと逆である。ちなみに,著者が唯一不得手とする領域,「性機能の障害」の項は文献を引用し,気負わずに,外国での具体的な取り組みの例を紹介していて,著者の誠実な取り組みの意図が覗える。

◆脊損医療の流れにそって編集

 目次から内容の概略を俯瞰すると,「I 脊髄損傷とは」で,自己管理のための脊損病態と問題点の医学的概説をはじめ,「II 日常生活上の注意点」で,まず,健康維持のための自律神経系のセルフケア,褥瘡予防,排泄・呼吸管理ほかの要点に入り,「III 身体機能を維持するには」で,生活動作の基本となる身体能力,筋力の向上・維持など理学療法的視点について述べている。
 「IV 車いす」では,入手のための支給制度と使用法,構造・整備の仕方,褥瘡を回避し使いやすいクッションの要点などを,「V 社会での自立」では,社会復帰後の生活能力を高める自助具や生活援助機器,家屋の改造・住宅整備・自動車運転の準備などを述べてある。「VI 社会福祉制度」では,家族にとっても一番必要な社会福祉・保障制度と受けることができる援助・介護保険,福祉施設の設立趣旨,その利用の仕方など,病院にいる者には馴染みが薄かった行政施策・制度の紹介は,非常にありがたい。
 「VII 職業復帰」では,職場復帰の形・制度の概略・公的機関の実態について,「VIII 社会活動への参加」では,障害者の社会活動やスポーツ団体,公共交通機関の利用の仕方などが紹介されている。
 ここまでは,ある程度網羅している実用書も少なくないが,「IX 食事と栄養(低栄養と肥満への注意)」,「X よく使われる薬剤と副作用」,「XI 健康管理(健康維持と合併症予防のための定期チェックの重要性)」などの身近な情報は,シンプルな本書でも圧巻な内容である。
 最後の「XII 自己管理の知識のチェックリスト」は,まさに本書を患者のために書いた著者のハートで締めくくったものである。
 本書は,最初の頁から最後まで脊損医療の流れに沿って編集され,読み終えれば脊損専門医に必要な常識は,すべて身につく流れになっている。読者により受け取り方もさまざまであると思うので,書評を終えるにあたり,今までに出版された類似の解説書を下記に紹介して責を果たしたいと思う。
1)サンタクララバレー医療センター編著(斎藤篤編訳):脊髄まひ-家庭療護の手引き(150頁),協同医書出版社,1981.
2)Lynn Phillips著(緒方甫監訳):脊髄損傷-患者と家族の手引き(245頁),医学書院,1994.
3)津山直一監修:頸髄損傷のリハビリテーション-国立身体障害者リハビリテーションセンターマニュアル(327頁),協同医書出版社,1998.

患者の立場に立った見事な脊髄損傷入門書
書評者: 柴崎 啓一 (国立療養所村山病院長)
 損傷脊髄の神経学的再建はなお困難な医学的現状にあって,脊髄損傷治療は,残存機能の可及的強化を目的としたリハビリテーションが治療の中心である。脊髄損傷の管理は,合併症予防も含めて受傷後早期には医療従事者により行なわれるが,亜急性期以降には,意欲的なリハビリテーション推進にまず患者本人の積極性が求められている。慢性期には,自己導尿などの排尿動作あるいは褥瘡好発部位の監視などの自己管理が加わり,さらに退院後の生活では,自己管理にゆだねられる動作が一層増加することになる。脊髄損傷者の自立には,好発する合併症も含めた脊髄損傷に対する当事者本人の正確な理解が必要である。インフォームド・コンセントが重視されるゆえんであるが,脊髄損傷の病態をいかに平易に本人へ説明するかが問題である。啓蒙を目的としたマニュアル作りも各施設で行なわれているはずであるが,脊髄損傷に関する医学的な諸専門的事項を簡潔に解説した啓蒙書は,きわめて少ない現状である。

◆きめ細かい脊髄損傷患者への指導内容

 本書は,序文に著者が示す通り,脊髄麻痺の身体に関する自己管理を目的として,患者本人を対象に書かれた書籍である。脊椎と脊髄の解剖学的基礎的事項および脊髄麻痺の概要紹介に始まり,好発する9つの合併症を平易な言葉で図を交えて解説している。中でも,呼吸障害に関する説明や骨の二次的変化に関する周到な,そして簡潔な説明は大変理解しやすい。そして本書の本題である日常生活上の自己管理に関しては,大変きめ細かく指導されている。従来はともすると簡単な説明ですまされていた排便指導の部分も含めて,随所に入れられているイラストも効果的である。ことに,いろいろの動作指導の図示は,本人および介助する家族にとってきわめて実用的である。
 本書で特に注目したのが,性機能に関して大きく取りあげた点である。従来は敬遠されがちで,われわれも患者さんへの説明を逡巡する場合もある問題であるが,オーストラリアの病院を例示しながら,性機能障害の概要を紹介している。紹介されている体験談には説得力があり,医学的な解説も男性の場合には,バイアグラの使用法に至るまで紹介されている。女性についても出産に至るまで,ていねいに紹介されている。身体能力維持のための具体的方法では,障害者スポーツの紹介も含まれており,車椅子や自助具に対する知識および家屋改造なども懇切ていねいに解説してある。社会福祉制度に関しても,いろいろな交付金から収容施設に至るまでが紹介されており,患者さんが情報を求めている諸点を網羅した著者にただただ敬服している。あえて注文をつけるとすれば,項目として社会生活あるいはスポーツの場におけるボランティアとの関わり方の一項の追加と,痙性の項目では,発現機序と治療法の解説に反射弓を示した図解がほしかった程度である。

◆十分配慮された患者と家族の視点

 本書の特徴は,対象をあくまで脊髄損傷者とその家族に絞っており,解説文は平易で大変理解しやすい。しかも,内容は脊髄損傷者の実生活に即しており,患者が当然抱くであろう疑問点について十分に配慮した構成となっている。海外も含めて脊髄損傷治療施設が作製したマニュアルや,筆者が当院の退院患者の互助組織が発行する機関誌に掲載した啓蒙記事と比較しても,患者の立場に立った見事な解説書である。脊髄損傷患者の治療を担当し,自己管理の推進に腐心している臨床医ならではの著作である。脊髄損傷者の社会生活上の自立度は,必ずしも残存機能の多少とは相関せず,むしろ自己管理意欲が大きく影響している。褥瘡などによる再入院例をみても,褥瘡発生率が高いと想定される車椅子スポーツ愛好者の入院例は意外に少ない。スポーツ継続意欲の高まりとともに,向上した自己管理能力の効果である。麻痺した身体の自己管理は,必ずしも特殊技能の修得を要するものではなく,麻痺に伴う身体的な弱点を認識した上で,うっかりミスを未然に防止するなどの小さな注意の積み重ねである。脊髄麻痺の病態および好発する合併症に関する医学的事項が平易に書かれており,注意事項なども適切で,きわめて周到に紹介されている。脊髄損傷者全員に推奨するとともに,脊髄損傷入門書として医師および看護婦などのコメディカルスタッフにも一読を勧めたい1冊である。

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