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精神科臨床における救急場面の看護

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自殺企図,自傷行為,クライエント同士や医療者に対する暴力の脅威と身体的攻撃など,精神科臨床における救急場面は看護師の臨床能力が最も問われる場である。個々の場面のもつ意味と構造を分析し,原理的考察から介入のスキルやサポートの実際までを言語化して明快に示す本書は,精神科看護実践の醍醐味を教えてくれる。
マーティン F. ウォード
阿保 順子 / 田崎 博一 / 岡田 実 / 佐久間 えりか
発行 2003年08月判型:A5頁:280
ISBN 978-4-260-33290-3
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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  • 目次
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1 救急理論
2 精神科救急看護
3 専門的な対処策
4 介入原理
5 自傷を伴う救急場面
6 暴力の脅威
7 身体的攻撃
8 抑制と離脱の技術
9 ケアをめぐる対立
10 心理的障害を伴う救急
11 薬物とアルコールに関連した救急
12 失敗への対処:スタッフへの支援
索引

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「精神的な緊急・救急事態」に遭遇しうるすべての看護師のために
書評者: 小林 信 (北里大助教授)
◆増加する「精神的な緊急・救急事態」

 私がかつて精神科病棟(第3次精神科救急の指定施設であった)に看護師として勤務していた経験からすると,「精神科臨床における救急場面Psychiatric Emergency:以下PE」という言葉は,著しい興奮や錯乱といった急性の精神症状に伴い自傷や他害の恐れがあり,ときには犯罪的な要素が関連したり警察官が同行するような精神疾患を有する患者とその場面を連想させる。しかし本書におけるPEとは,もちろんそのような場面も含まれてはいるが,むしろ前日や数時間前まではそうでなかったのに,ある出来事や環境の変化,看護師の対応などの刺激によって,急に自分自身のコントロールを失い,自殺を含む自傷や他者への言語的・身体的暴力などの反応を示す患者とその場面を表しているということがわかる。そしてそれは,精神科病棟にのみ固有の場面ではなく,どんな領域のどんな臨床場面にも起こりうることであり,PEは「精神的な緊急・救急事態」とも言い換えることが可能である。そして最近ではそのような場面が増えてきているとよく耳にする。知り合いのある看護師は,食事制限が必要な患者にその必要性を説明したところ,突然「バカにするな!」と怒鳴られ,いわれのない罵詈雑言をあびせられ殴られるのではないかという恐怖を感じたと言っていたし,別の看護師は身体的不調の検査目的で入院した若い女性が,検査前夜にカミソリで自分の腕に傷を付け「こうしないと安心できない」と言ったことに大変衝撃を受けたと語っていた。

 医療技術が進歩するに伴い克服できる疾病や障害が増えてきている反面,その治療によって患者に身体的・精神的苦痛を強いる場面が増えてきていることも否めない。とすれば,PEが発生する要件や状況も確実に増えているということである。本書のタイトルからして,精神科以外の看護師が「私には関係のない領域の本である」と感じてしまうことがあるのなら,それはとてももったいないことだ。特に本書に挙げられているようなPEのハイリスク集団と接する機会の多い看護師や,患者からいわれのない暴力の脅威を感じたことのある看護師には,是非一読されることをお勧めしたい。なぜそのような事態が起きたのか,どのように予測できたのか,その時にどのように対処すれば良かったかをチームで話し合ったり共有するのに助けとなることは間違いない。また厚労省の人口動態統計で明らかなように,自殺が死因の第6位であり,ここ数年は3万人を突破していること,無作為で突発的な暴力事件が世間を騒がせることが少なくないことなどを考えれば,最早PEは看護職者や医療従事者のみの関心事ではないのかもしれない。

◆PEへの積極的な支援システムを待望

 この中で扱われているような事例に遭遇するのは,精神科の臨床が最も多いのも事実であろう。私自身患者の暴力に曝されたり,自傷行為に遭遇したことが幾度かある。ぶつけようのない怒りや自分を責める気持ち,同僚に対する不信,無力感,自信喪失などの感情は,今思い出しても大変苦痛である。実際,その感情をうまく乗り越えることができなくて仕事を続けられなくなったり,その後の対人関係全般に長く引っかかりを残した看護師も知っている。そしてそのような状況はどうも増えつつあるようだ。

 本書は最後に,PEとその看護は起こったその時のみの対応だけではなく,またPEに陥った患者本人のみならずそれにかかわった看護師にも継続的・組織的な支援が重要であることを強調している。精神科において,PEが生じた後,原因を追及するだけのカンファレンスで終わってしまったり,お互いがそのことを口にしなくなるのをただ待つ,酒の席で愚痴をこぼすのに任せるのではない,PEに関する積極的な支援システムの構築が急務であるとの思いを強くした。
精神科救急がわかる―臨床家のための一冊
書評者: 柴田 恭亮 (日本赤十字広島看護大学教授)
 精神科救急(Psychiatric Emergency,以下PEと略)は,専門の病院や部署でベテラン看護師によって行なわれる高度な危機介入なので,自分たちとは無関係だと思っている精神科看護師が多い。事実,PEでは,緊急手術などの医学的処置は前提になっていない。したがって,一般的な救急のイメージとPEは一致しない。

 ところが,精神科看護の現場では,日常的にPEが発生している。しかも,看護師がPEへの対応を誤った結果として救急病院へ転送されることが多い。こうした意味でも,一般的な救急のイメージとPEは一致しにくいのである。

 第1章は,救急に関する理論を参考にしながら,PEの特徴を説明している。また,この章を熟読すれば,PEと危機介入の違いが明らかになるだろう。

 第2章では,PEには,適切な計画と看護チームや病院全体で支援する体制の必要性が強調されている。「救急場面の対応は看護師個人の経験に委ねる。失敗した場合は,表面的な処理で一件落着。後々,密かにささやかれる当事者である看護師の責任」―こうしたわが国の実態と比べると,PEに対する考え方の違いを感じさせる。

 第3章は,精神科看護実践上のストレス因子を,行動制限をされた患者集団,労働環境,看護師間の関係性から説明している。すなわち,救急場面に直面した看護師は,二重のストレス状態に晒されているという。わが国では,議論されることが少ないが重要なことである。

 第4章は,この書のメインディッシュである。著者は介入方法としてゲームプラン(AIRS)の活用を提案している。特別なことではない。お馴染みの看護過程と思えばよい。アセスメント(Assessment),介入(Intervention),解決(Resolution),支援(Support)の4段階で構成される。詳しくは読んでのお楽しみ。実践してみようと思うはず。

 各段階の説明を丁寧に読めば,精神科看護の本質が,随所にちりばめられている。訳者が「まえがき」で精神科看護の「原論」といっている所以である。

 第5章以下では,PE場面への介入方法(AIRS)を具体的な事例を用いて解説している。読めば,自殺,言動などによる暴力,行動制限,離院など,わが国の精神医療の現場では事故と呼んでいる事柄が,PEの対象だということが明らかになる。

 PE場面は,例外的なことではなく精神医療の現場では,ごく日常的に看護師が遭遇しているのである。しかるに,それに対する具体的な対策をわれわれは持ち合わせていなかった。事故対策ではなく,精神科救急看護としての専門的な対策の必要性を,改めて考えさせてくれる。

 第9章以下では,ケアをめぐる看護師間の対立,患者から受ける看護師の心の傷(PTSD),対応に失敗したスタッフに対する支援などである。現場では,意図的に避けられてきたことなので,抵抗を感じる人もいるだろう。しかし,AIRSの原理にしたがえば,当然必要になってくるプロセスである。

 とにかく本書を最後まで精読すれば,疑問や戸惑いは解消する。難解で意味不明な翻訳書が氾濫する昨今,珍しくわかりやすい実践に役立つ本といえる。現場の看護師のみならず,救急看護に携わっている方々には,是非,読んでいただきたい本である。

 本書の根底にあるのは,著者の援助観と看護に対する考え方である。特別なことではない。国や時代を超えて,われわれでも共感できることである。PEの形だけを取り入れても意味はないだろう。

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