臨床精神薬理ハンドブック

もっと見る

神経精神薬理の基礎から臨床までを網羅した決定版テキスト。神経精神薬理のベーシックサイエンス,臨床に直結した各種向精神薬の薬理学的特徴,薬理の知識に裏打ちされた薬物療法の実際,具体的な症例に基づく処方例,さらには臨床試験の進め方まで,第一線の気鋭の執筆陣が豊富な図表とともに最先端の内容をわかりやすく解説。
編集 樋口 輝彦 / 小山 司 / 神庭 重信
発行 2003年06月判型:B5頁:360
ISBN 978-4-260-11881-1
定価 9,350円 (本体8,500円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

第I編 神経精神薬理の基礎
 第1章 神経情報伝達のメカニズム
 第2章 向精神薬のスクリーニング
 第3章 薬物動態学と相互作用
 第4章 薬理遺伝学
 第5章 生理学的手法による精神薬理学研究
 第6章 血中薬物濃度モニタリング(TDM)
第II編 精神薬理の理論と実際
 第7章 統合失調症(精神分裂病)
 第8章 気分障害
 第9章 不安障害
 第10章 睡眠障害
 第11章 てんかん
 第12章 痴呆
 第13章 依存性薬物の薬理
 第14章 自閉症,注意欠陥/多動性障害,チックの薬物療法
 第15章 せん妄の薬物療法
第III編 向精神薬の臨床試験
 第16章 臨床試験(治験)の方法論と進め方
和文索引
欧文索引

開く

精神医学の基礎と臨床を有機的に結びつける
書評者: 村崎 光邦 (CNS薬理研究所/北里大名誉教授)
◆神経精神薬理学と臨床精神科薬物療法の視点を統合

 このたび,医学書院から『臨床精神薬理ハンドブック』が,この方面の権威であられる樋口・小山・神庭3先生の編集のもとに発刊された。

 本書の特徴は神経精神薬理学と臨床精神科薬物療法の両方の視点から,すなわち基礎と臨床の有機的結びつきを意図して,両者と統合する形で編成されている。したがって,「神経精神薬理の基礎」,「精神薬理の理論と実際」,「向精神薬の臨床試験」の3編から成り立っている。まず,第Ⅰ編の「神経精神薬理の基礎」では,神経情報伝達のメカニズム,向精神薬のスクリーニング,薬物動態学と相互作用,薬物遺伝学,生理学的手法による精神薬理研究,血中濃度モニタリングの6つの章からなり,第Ⅱ編へ進むにあたって必要にして十分なテーマが解説されて,基礎医学を専門とする方との理解を深めながら,臨床の先生方にも十分理解されるようにとの苦心が伺われる。こうした内容の書物を手元に持たない臨床医にとって理解するのに難しいところも少なくないが,ここであきらめずに熟読玩味しておきたいところである。

 第Ⅱ編の「精神薬理の理論と実際」では,統合失調症,気分障害,不安障害,睡眠障害,てんかん,痴呆,依存性薬物の薬理,自閉症,注意欠陥/多動障害,チック,せん妄など精神医学における主要な疾患あるいは病態の本態の成り立ちを薬理生化学的あるいは生物学的仮説に基づいて説明している。疾患や病態の理解を深めるには極めて優れた内容となっており,読むのに楽しさを与えてくれる。こうして生物学的仮説に基づいてそれぞれの薬物療法が合理的に培われる本書の構成はすばらしい。具体的な症例をあげての処方例や,ガイドラインに基づく治療の順序などが取り入れられて画期的といえる。ただ,本書が編集された時点からすでに時代が進んでおり,例えば統合失調症の治療アルゴリズムは古いものになっており,また,抗精神病薬を中心とした処方の単純化や用法の減量化などにテーマが移っているところまで言及されていない。また,抗うつ薬,特にSSRIでの離脱症状の重大性などが問題となってきており,うつ病や不安性障害にSSRIが多用される今日,ここに力点を置いてもらいたいところである。このあたりについては,是非改訂版に期待したいところである。

 第Ⅲ編は,「向精神薬の臨床試験」が取りあげられ,治験の方法論と進め方として,新GCP,臨床評価・評価尺度,治験の進め方が極めて要領よく解説されている。現実には,わが国での治験の空洞化が叫ばれて数年を経ており,海外で広く用いられている向精神薬がわが国では承認されないで,精神科薬物療法の後進国となっている現状がある。この状況をどう打開するかという点も本書の改訂時にぜひ取りあげてもらいたい。

◆基礎的研究に偏りがちな精神医学に一石

 本書の意図した神経精神薬理学と臨床精神科薬物療法の有機的結びつきは十分に達成されており,神経精神薬理学と生物精神医学があまりにも基礎的研究に偏り,臨床医が離脱しようとする傾向の中で,本書の果たすべき役割への期待は大きい。精神科医や心療内科医はもちろん,中枢神経系を研究されている基礎の先生方,精神医学への興味を持たれている他科の臨床医の方とに基礎と臨床の豊富な知識が満載されているハンドブックとしてぜひご利用いただきたいものである。
診療にも研究にも役立つ,精神科薬理学の最新知見が満載
書評者: 八木 剛平 (翠星ヒーリングセンター/慶應大客員教授)
◆向精神薬の生物学的基盤も学べる

 病気の治療における医薬(化学物質)の有効性は,哺乳動物の個体内部のすべての細胞に対する情報が化学物質として与えられており,個体の積極的な行動や生存は,個体を構成する細胞が化学物質の情報を受容して応答することによって保証されるという事実にもとづいている。それでは,いま世界中で使用されている医薬のうち,抗生物質・免疫抑制剤・抗がん剤を除くほとんどが,その作用点を直接・間接に受容体にもっているのはなぜか。それは,細胞を機能させるための情報の受け入れ口は受容体だけであり,受容体を介して細胞内情報伝達系を稼動させることが,無理なく(つまり生理的に)細胞の機能をコントロールする唯一無二の手段だからである。これに対して,受容体を介さないで細胞内の重要な構成因子の活性だけを直接おさえるような化学物質は,いずれ細胞の生理的機能を破綻させる恐れがあり,精神疾患をはじめとするcommon diseaseの治療の目的には望ましいものではない。

 これは,第1編「神経精神薬理の基礎」の第1章「神経情報伝達のメカニズム」から評者が学んだことの一部である。精神科の治療薬を思い浮かべながらこの章を読む読者は,今使われている向精神薬のいわば生物学的基盤を把握できるであろう。

 39名の執筆者による本書の構成は次のとおりである。

 第Ⅰ編 神経精神薬理の基礎(86頁)
  第1章 神経情報伝達のメカニズム
  第2章 向精神薬のスクリーニング
  第3章 薬物動態学と相互作用
  第4章 薬理遺伝学
  第5章 生理学的手法による精神薬理学研究(Ⅰ基礎,Ⅱ臨床)
  第6章 血中薬物濃度モニタリング(TDM)
 第Ⅱ編 精神薬理の理論と実際(215頁)
  第7章 統合失調症(精神分裂病)
  第8章 気分障害
  第9章 不安障害
  第10章 睡眠障害
  第11章 てんかん
  第12章 痴呆

 以上の第Ⅱ編の各章では治療薬の薬理と薬物療法のガイドラインとの2部に分けて,それぞれ別の執筆者が担当している。

  第13章 依存性薬物の薬理
  第14章 自閉症,注意欠陥,多動性障害,チックの薬物療法
  第15章 せん妄の薬物療法
 第Ⅲ編 向精神薬の臨床試験(20頁)
  第16章 臨床試験(治験)の方法論と進め方
(Ⅰ新GCPについて,Ⅱ臨床評価,評価尺度,Ⅲ臨床試験(治験)の進め方)

 その他に「抗精神病薬開発の歴史」をはじめ,抗不安薬,抗てんかん薬,児童精神科薬物療法についてのSide Memo(8編)があり,最後に索引(和文,欧文)が付されている。

 本書は,基礎面では遺伝子解析の進展,臨床面ではEBMの提唱など,20世紀末から21世紀はじめに至る最新の知見を視界にいれて編集され,神経精神薬理学と精神科薬物治療学とを統合したハンドブックである。診療にも研究にも役立つ良書として推薦したい。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。