エビデンス精神医療
EBPの基礎から臨床まで

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エビデンス精神医療Evidence-Based Psychiatry(EBP)の基礎から実践まですべてをまとめた本邦初の成書。EBPを実践するために必要な理論的根拠を丁寧に解説するとともに、精神科の臨床シナリオに基づくEBP実践例を豊富に掲載。これまで身体医学中心であったEBMを精神医療に適した形で発展させた、すべての精神医療従事者待望の書。
古川 壽亮
発行 2000年10月判型:A5頁:448
ISBN 978-4-260-11849-1
定価 6,490円 (本体5,900円+税)
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はじめに

基礎編
1 なぜEBPか
2 EBPについての誤解を解こう
3 エビデンスとは
4 EBPの4ステップ

理論編
1 治療に関する論文の批判的吟味
2 診断検査に関する論文の批判的吟味
3 評価手技に関する論文の批判的吟味
4 予後に関する論文の批判的吟味
5 副作用や病因に関する論文の批判的吟味
6 系統的レビューの批判的吟味
7 診療ガイドラインの批判的吟味

実践編
実践例 1 初発の精神分裂病挿話から寛解した後,抗精神病剤は続けるべきか?
実践例 2 アルツハイマー病の幻覚妄想にはハロペリドールを何mg程度使用できるか?
実践例 3 痴呆を疑われる人のMini-mental State Examinationが24点,どう解釈すべきか?
実践例 4 DSM-IV境界性人格障害の診断基準をかろうじて満たすようだ。どう解釈すべきか?
実践例 5 陰性症状とも錐体外路症状とも区別して抑うつ症状を測定できるか?
実践例 6 側頭葉てんかんの予後
実践例 7 パニック障害の予後
実践例 8 イミプラミンと妊娠
実践例 9 βブロッカーとうつ病
実践例10 強迫性障害には薬物療法? 精神療法? それとも薬物療法+精神療法?
実践例11 大うつ病の第1選択はTCA? それともSSRI?
実践例12 どの気分障害ガイドラインを勉強しようか?

エピローグ-自分の知識をアップツーデートに保つために
EBPの勉強方法
どの雑誌を定期購読するか-Current Awarenessの勧め

付録 EBPツールボックス

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EBMを精神医療に適した形で発展させた本邦初の成書
書評者: 福岡 敏雄 (名大・救急医学)
◆EBMに関する最高の本

 EBMに関する本である。「またか」と思われるかもしれない。しかも,「精神医療」と書かれている。「なるほど,自分には関係ない」と思う方もあろう。この本を読んでも精神医学の重要な知識が系統的に身につくわけではない。また詳細な統計の解説を期待しているのなら見事に裏切られるだろう。しかし,読む価値はある。EBMに関する最高の本である。
 内容は「基礎編」「理論編」「実践編」の3つからなっている。まず目を引いたのは最後の「実践編」であった。ここには12のケースが示されている。一般外来でも直面しそうなものもあり,情報の検索も現実的な手法が展開されている。さらにその妥当性や適用性の判断も示されている。あるケースでは判断を,患者情報を持つ主治医にまったくゆだね,「あなたの患者ではどうだろうか」という問いかけで終わっている。別のケースでは妥当性に乏しい「ガイドライン」を「読むに値しない」と明確な判断をする。実際の現場を念頭に置いた吟味と適用と思えた。まずここに目を通し自分の興味にあうケースを見つけて読み進めてみるとよい。

◆「真に有効で安全な医療」

 「理論編」では診断と評価手技,さらに副作用に関する部分が出色である。このうち,副作用の部分では,症例対照研究とコホート研究の批判的吟味について,具体的な例を交えてわかりやすく解説してある。考えてみれば,医療がこれらの研究手法に依存してきた面は大きい。RCT(ランダム化比較対照試験)を絶対とするのであれば,多くの副作用は看過されたであろう。もしも医療が,治療を受ける者に過大に期待を与えることで,「効く可能性があればなんでも……」といった論調で不確かな治療を容認し,一方で副作用に関しては,それを与えた者を非難・処罰するための厳密さを訴えることで「科学的に証明されていなければ……」と危険が疑われる治療の排除を遅らせてきたなら,医療に対する信頼はこれほどのものにはなり得なかっただろう。治療効果は可能である限りRCTによる厳密な評価が求められ,副作用に関しては,妥当性に乏しい症例報告や症例対照研究などで処方行動の変化が求められることがあるのが現実である。このバランスの中で「真に有効で安全な医療」が実現されるのであり,本書ではこの点を踏まえた解説が行なわれている。また,副作用を疑う結果を示した研究が,その後に否定された例も紹介されている。このような背景も踏まえてEBMという手法が語られなければならないという,著者の意図が感じられる。
 「基礎編」を読むと,著者の執筆にあたる問題意識と取り組む姿勢が伝わってくる。「精神医療」という,ともすると「EBM」の手法を活かしにくいと誤解されがちな分野で,その手法を実践し,臨床に活かせる情報を使いやすいようにまとめ,その共有に力を注いできた著者の活動が支えになっている(ぜひ著者が主宰するEBP Center: http://www.ebpcenter.comをご覧いただきたい)。さらに,「一緒にやろうよ。そんなに難しくはないよ。それにきっと役に立つことなんだ」というメッセージも感じる。それは著者から,EBMを実践しようとする者に向けられた,やさしい,しかし力強いささやきである
 本書の副題には「EBPの基礎から臨床まで」とある。もちろん「Evidence-Based Psychiatry」の略であろうが,これを「Evidence-Based Practice」の略と読み替えることが,本書の内容を理解することであると感じている。

EBMを臨床現場で活用するために必要なこと
書評者: 神庭 重信 (山梨医大教授・精神神経医学)
 JAMAがEBMのレクチャー・シリーズを開始したのが1992年のことである。その頃からであろう,精神医学の国際誌をめくっていると,目新しい解析法や用語につまずき,もどかしい思いをすることが多くなった。メタアナリシス,intention-to-treat analysis, effect size, odds ratio, likelihood ratioなどの言葉が,最初はぽつりぽつりと,やがて一流紙のほとんどの論文に登場するようになってきた。ぼんやりとではあるが臨床研究の流れが変わってきたことを感じた。“このままじゃまずいな”という気持ちを抱きながらも,当時は,これらの用語を調べようにも適切な解説書が身近になかった。
 しかし,状況は一転した。EBMは医学の一用語として定着し,一般的な解説書の数も多くなり,どれを手に取ったらよいのか迷うほどである。だがEBMが身体医学を基礎に発展してきたために,どの本をみても,高血圧とか心筋梗塞をめぐる議論で終始するので,専門外の私としては,読み飛ばしたり,辞書のように用いることはあっても,とうてい読み通すことはできなかった。

◆EBMの全体像を理解

 古川壽亮氏が纏められた『エビデンス精神医療』は,従来のEBM解説書のイメージを払拭した傑作である。私がこれほどまでに熱中して読めた解説書は他になかった。身体疾患の例に加えて精神科の例がふんだんに用いられており,難解なEBMをこれ1冊で理解し,応用できるようにと,随所に工夫が凝らされている。明晰な文体は,「あなたならば,どちらの治療法を患者に勧めるか……」などと,医師のプロフェッショナリズムを挑発する巧みさをも兼ね備えている。400頁を越す大著であるが,最後まで興味をもって読み続けることができ,EBMの世界の全体像を理解できる。
 研修医がアルツハイマー病の患者を受け持ち,その幻覚妄想を治療しようとしている。その研修医があるオーベンに尋ねると,「老人だからハロペリドール1mg以上使うことはできない」と言われ,他のオーベンに聞くと,今度は,「副作用が現れない限り,3mgくらいまでならいいよ」と言われる。研修医は異なる意見の間で1人悩むことになる。一体どうしたら最善の治療法を見つけることができるのだろう。これは本書に出てくる一例である。ごくありふれた精神科の臨床現場をうまく写し取ったスナップである。

◆EBMの対象は治療法に限定されない

 目の前にいる患者さんの抱える臨床的な問題を回答可能な疑問形に定式化する,そしてその疑問解決に参考になるエビデンス(論文)を検索し,そのエビデンスを批判的に吟味し,患者のケアにその結果を最良な形(現時点での)で反映させるにはどのようにするのがよいかを考える。EBMはこの一連の臨床判断を導いてくれる。無論EBMの対象は,診断,検査,予後,副作用などにわたり,治療法に限定されるものではない。
 本書からは,“経験医学の最たるもの”とされてきた精神医療にもEBMが必要であり,すでに誰にでも実践できることを伝えようとする古川氏の並々ならぬ熱意が伝わってくる。しかし一部には,EBMによって,裁量権は言うに及ばず,その医師がこれまで受けてきた医学教育や臨床経験,それらすべてが否定されるような気にさせられる医師もいるだろう。経験豊富な医師たちほど,自分のスタイルを変えることが難しいものである。しかし,EBMを誰よりもうまく臨床に活用できるのもまた,経験豊富な医師たちに他ならないのである。これが,本書に織り込まれた著者からのメッセージである。

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