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レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版

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感染症診療全般を網羅したバイブルの改訂第4版。病原の同定と適切な薬剤選択を基本に、臨床の実践知が学べる。トピックとして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、ゾーニング、薬剤耐性菌(AMR)対策、最新の検査法などを収載。一線で活躍するエキスパートらの臨床知が凝縮された渾身の一冊。
シリーズ レジデントマニュアル
青木 眞
発行 2020年12月判型:A5頁:1730
ISBN 978-4-260-03930-7
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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第4版 序

 現在,世界は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックの渦中にあり,3500万人を超す感染者,100万人以上の死者を出している。感染症の時代は終わり,これからは癌の時代,生活習慣病の時代になるはずだったのに,気づいてみれば耐性菌による死者の数は癌死の数を超えると予測され,本パンデミックは世界の社会活動,経済活動をシャットダウンしている。
 本ウイルス(SARS-CoV-2)はエボラウイルスのように人を即死させず,感染者の半数弱は無症候に近いにもかかわらず他者への感染性をもつため公衆衛生的には非常にコントロールが難しい。有効な抗ウイルス薬やワクチンがない現在,COVID-19の拡散を押さえる唯一の方法は人と人との距離を保つSocial Distancingと隔離だけとなる。近年これほどまでに「人間は社会的な動物である」という事実を人類が噛みしめたことはなかったのではないか?
 人が傷つき病めば手を差し伸べるのが我々の自然な姿であるが,本ウイルスはその機会を新たな犠牲者を生み出す場へと変える。医療関連感染症も同様であり,死亡した医療従事者は世界で3000人を超えるとされる。
 感染症診療の要諦は,詳細な病歴と身体所見の検討に基づく最小限の感染症治療薬の選択と丁寧な経過観察であるが,COVID-19は,それを極めて困難にしている。その分,現場には検査や抗菌薬の乱用を促す思考停止が常態化しやすく,本マニュアルの意図する「感染症診療の原則」を遠ざける誘惑の力は強大である。それでも第1級の臨床医である本マニュアルの執筆協力者達は最前線で自らの健康・生命の危険を顧みず戦っている。
 普段でさえ多忙であった日常診療に,さらに本感染症の負荷が加わる中で執筆された各章であるにもかかわらず,その内容は可能な限り現時点での最新のエビデンスに基づいた記述となっている。適切な感染症診療が困難な今こそ現場で求められるマニュアルとなったことを確信している。
 新たな執筆陣,新たな章を加えた本マニュアルが引き続き多くの読者を得ることを願います。

 2020年10月
 青木 眞

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第1章 感染症診療の基本原則
 A はじめに基本的な大原則
  発熱,CRP白血球数上昇に対して抗菌薬などを使わない
     (感染症の存在を正確に認知する)
  重症度を理解する
  各論的に考えよう(問題の臓器解剖と原因微生物の検討)
  やるとなったら治療は徹底的に
  回復のペース,パターンを予測する
  耐性が患者を失う唯一の原因ではない
  経時的な変化を追う
 B 発熱患者(感染症を疑う患者)に対する診療の進め方
  どの臓器解剖による発熱か?
  感染症か? 感染症ならば原因微生物は?
  どの感染症治療薬を使うか?
  治療効果は何と何で判定するか?

第2章 感染症治療薬の概要
 A 抗菌薬
  抗菌薬の種類
  抗菌薬の分類
  抗菌薬の投与量の調節
  抗菌薬の副作用
  抗菌薬の予防投与
  抗菌薬各論
 B 抗真菌薬
  抗真菌薬の分類
  抗真菌薬各論
  臨床状況による抗真菌薬の使用
  併用療法
  真菌感染症の研究評価の難しさ
  表在性真菌症〔皮膚糸状菌症(dermatophytosis),
     白癬(tinea,trichophytia,ring worm)〕用抗真菌薬
 C 抗ウイルス薬(HIV治療薬を除く)
  抗ウイルス薬の分類
  抗ウイルス薬各論
 D 抗寄生虫薬
  原虫
  線虫
  吸虫
  条虫

第3章 医療関連感染の予防
  標準予防策 standard precautions
  接触予防策 contact precautions
  飛沫予防策 droplet precautions
  空気予防策 airborne precautions

第4章 AMR対策
 A 薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)対策の理解
  AMR対策は医療従事者だけでなく,非医療従事者も含めたすべての人々が考える
     べき問題である
  世界における薬剤耐性の現状の理解が必要である
  日本における薬剤耐性の現状の理解と課題の共有が必要である
  日本の医療機関におけるARM対策総論は以下である
 B 抗菌薬適正使用プログラムの実際
  実際の抗菌薬適正使用プログラムの展開を理解する
  入院患者における抗菌薬適正使用の特徴とは
  外来患者における抗菌薬適正使用の特徴とは
  抗菌薬の処方以外への介入による抗菌薬適正使用の方法を理解する
  感染症医がいない状況での抗菌薬適正使用を進めるのに必要なエレメント

第5章 検体の取り扱いと検査の考え方
 A 検体の採取法と取り扱い
  一般的な注意
  検体種類別の取り扱い
  特定の微生物を疑っている場合の検体取り扱い
 B 検査の基本的な考え方
  各検査の概要
  穿刺液検査

第6章 特殊な発熱患者へのアプローチ
 A 不明熱
  診療のポイント
  具体的な検索の進め方
  治療
  感染症以外の不明熱の原因
  特殊な不明熱
  再発性の不明熱
  原因究明のできない場合
 B 皮疹を伴う発熱患者
  最初に検討すべきこと
  皮疹を伴う発熱患者の効果的な診療のポイント
  各種皮疹とその原因微生物,原因疾患
 C 発熱とリンパ節腫脹
  概要
  診療の進め方
  各種リンパ節腫脹
  リンパ節生検

第7章 中枢神経系感染症
  診療のポイント
 A 髄膜炎
  診断
  治療
  脳室内シャントおよび関連器具に伴う髄膜炎
  原因微生物別各論
 B 脳膿瘍
  疫学病因病態など
  診断
  治療
  予後
  原因微生物別各論
 C 硬膜外膿瘍,硬膜下膿瘍,頭蓋内化膿性血栓性静脈炎
  硬膜外膿瘍
  硬膜下膿瘍
  頭蓋内化膿性血栓性静脈炎
 D 脳炎
  診断
  治療
  治療効果の判定
  予後
  単純ヘルペス脳炎
  日本脳炎
  ウエストナイル脳炎
 E 急性顔面神経麻痺と感染症

第8章 呼吸器感染症
  診療のポイント
 A 上気道感染症
  急性ウイルス性鼻炎
  急性咽頭炎,扁桃腺炎
  急性気管支炎
  慢性気管支炎の急性増悪
  ヘルペス性気管支炎
  急性喉頭蓋炎
  百日咳
 B 下気道感染症(肺炎)
  胸部異常陰影,喀痰の増加,発熱の組み合わせ
  原因微生物想定の努力
  肺炎の治療
  肺炎の改善過程の見守り方,治療効果の判定方法
 C 肺膿瘍を含む亜急性肺病変
  空洞性亜急性肺病変
  非空洞性亜急性肺病変
 D 胸水,膿胸
  病因病態
  診断
  治療

第9章 尿路泌尿器関連感染症
 A 尿路感染症
  総論
  各論
 B その他の泌尿器関連感染症

第10章 血管内感染症
 A 感染性心内膜炎
  診療のポイント
  診断
  治療
  治療効果の観察
  合併症
  原因微生物別各論と治療
  心内膜炎の予防
 B カテーテル関連感染症,カテーテル関連血流感染症
  中心静脈カテーテル関連感染症
 C 特殊な血管内感染症
  感染性動脈瘤感染性動脈内膜炎
  人工血管感染症
  心筋内膿瘍
  心筋炎

第11章 腹部感染症
 A 急性下痢症〔急性(胃)腸炎〕
  診断
  治療
  原因微生物別各論
 B 腹腔内感染症
  腹膜炎

第12章 皮膚軟部組織感染症
  診療のポイント
 A 表面の限局した病変
  小水疱(vesicle)を認め滲出液を伴う病変
  疱疹(小水疱の集合=ヘルペス)を認める病変
  紅斑(erythema)が広がる病変
  膿疱(pustule),膿性の滲出液を伴う病変
  リンパ節,リンパ管の感染症
 B 深部で急速に進展する病変(皮下組織,筋膜の感染症)
  病因病態
  臨床像
  診断
  治療
  特別な菌
 C 既存の皮膚病変傷害に生じる二次的な感染症
  外傷による創感染症
  手術部位感染症
 D その他
  市中感染型MRSA(CA-MRSA)による軟部組織感染症
  免疫不全に伴う軟部組織感染症

第13章 骨髄炎化膿性関節炎
 A 骨髄炎
  総論
  各種の骨髄炎
 B 感染性関節炎(化膿性関節炎)
  総論
  特殊な化膿性関節炎

第14章 眼科関連感染症
  眼瞼感染症
  結膜感染症
  角膜感染症
  ぶどう膜炎
  眼内炎
  涙器関係感染症
  眼窩感染症
  HIV感染症と眼科感染症

第15章 頭頸部感染症
 A 耳副鼻腔領域感染症
  急性中耳炎
  滲出性中耳炎
  急性乳様突起炎
  慢性中耳炎
  ICUなどで問題になる経鼻挿管経管栄養に伴う中耳炎副鼻腔炎
  耳性帯状疱疹(Ramsay Hunt症候群)
  急性副鼻腔炎
  慢性副鼻腔炎(歯性上顎洞炎を含む)
  外耳道炎
  蝸牛~前庭感染症
  耳鼻科領域から進展する髄膜周囲,頭蓋内感染症
  眼窩骨膜下膿瘍眼窩内膿瘍
  鼻性頭蓋内合併症Pott’s Puffy Tumor
  浸潤型真菌症
 B 口腔内頸部領域感染症
  口腔内感染症
  歯科領域感染症
  唾液腺関係の感染症
  頸部感染症(cervical fascial space infection)

第16章 性感染症
  診療のポイント
  男性の尿道炎
  精巣上体-精巣炎
  女性の尿道炎
  腟の炎症
  子宮頸管炎子宮頸炎
  骨盤内炎症性疾患
  外陰部潰瘍性病変
  外陰部非潰瘍性病変
  皮疹を伴う急性多発性関節炎(播種性淋菌感染症)
  咽頭炎
  小腸炎,大腸直腸炎
  性暴力(レイプ)被害者の診療
  妊婦のスクリーニング

第17章 重要な微生物とその臨床像
 A 黄色ブドウ球菌感染症
  細菌学
  病態
  治療薬
  臨床像
  MRSAと院内感染症
 B 連鎖球菌腸球菌感染症
  連鎖球菌感染症
  腸球菌感染症
 C グラム陰性桿菌
  グラム陰性桿菌の分類と臨床像
  腸内細菌科細菌
  緑膿菌:Pseudomonas aeruginosa
  緑膿菌以外のブドウ糖非発酵菌
 D 潜在性結核と活動性結核
  理解すべき基本的な病態
  疫学
  診断
  治療
  治療効果の判定
  治療に失敗した場合
  再発を認めた場合
  HIV感染症と結核
  妊娠と結核
  腎機能障害腎不全の場合
  臓器別各論
  治療薬各論
  耐性結核菌
  ツベルクリン反応とインターフェロンγ遊離試験
  潜在性結核の治療
  隔離予防策
 E 非結核性抗酸菌症
  概要と診療のポイント
  臨床像
  代表的非結核性抗酸菌各論
 F カンジダ症
  表在性カンジダ症
  深在性カンジダ症
  Candidaの微生物学
 G アスペルギルス症とムーコル症
  アスペルギルス症(aspergillosis)
  ムーコル症(mucormycosis)

第18章 免疫不全と感染症
  診療のポイント
 A 免疫不全総論
  免疫の構成要素機能とその障害因子
  免疫不全の種類と問題となる微生物
 B 免疫低下がみられる種々の臨床状況
  免疫低下がみられる疾患
  リウマチ膠原病薬物療法と感染症
  がん薬物療法と感染症
  放射線治療
  各種移植に伴う感染症
  免疫不全と胸部異常陰影

第19章 HIV感染症後天性免疫不全症候群
  HIV自体に対する診療
  合併症(日和見感染症,腫瘍)の診療
  新たな感染源としない努力,工夫
  抗HIV療法で安定した状態にあるHIV感染者の合併症診療

第20章 敗血症
  敗血症の新しい国際定義診断基準(sepsis-3)
  敗血症1時間バンドル
  Surviving Sepsis Campaign Guideline 2016(SSCG 2016)
  敗血症診療におけるコントロバシー
  原因となった感染症の診断
  抗菌化学療法
  血液培養で検出された菌真菌各論
  血液培養で検出された菌真菌と臨床状況

第21章 予防接種
 A 基礎的なこと
  予防接種のタイプ
  成人で考慮すべき予防接種の種類とスケジュール
  予防接種の禁忌と副作用
  接種の実際
 B 予防接種各論
  ウイルスに対するワクチン
  細菌ワクチン
 C 特殊な対象
  医療従事者に対する予防接種
  糖尿病患者に対する予防接種
  腎機能低下症例に対する予防接種
  慢性肝疾患症例に対する予防接種
  骨髄幹細胞移植症例に対する予防接種
  固形臓器移植症例に対する予防接種
  悪性腫瘍症例に対する予防接種
  ステロイド使用例,解剖学的機能的無脾症に対する予防接種
  妊娠と予防接種
  HIV感染症と予防接種
  ヒトパピローマウイルス感染症と予防接種
  海外渡航と予防接種

第22章 熱帯感染症と予防
 A 海外渡航歴がある患者に対する診察
 B 海外渡航後の発熱のアプローチ
 C 下痢症
 D 動物咬傷
 E 熱帯皮膚感染症

第23章 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
 A 新型コロナウイルスに対する診療
 B 病棟におけるゾーニングの考え方

あとがき
欧文索引
和文索引
処方例索引

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全ての医療者のために
書評者:岩田 健太郎(神戸大大学院教授・感染治療学/神戸大病院感染症内科)

 本書の第3版が出たときも書評を書かせていただいたが(2015年),力を込めすぎついつい長文になってしまった。今回は「800~1400字で」,と編集部から注文がついている。宴席でスピーチが長すぎるおじさんがあらかじめくぎを刺されている様相だが,その「宴席」もいずれ死語になるやもしれぬ今日このごろだ。

 というわけで,今回は短く書かせていただく。

 結論を先に申し上げる。本書初版が2000年に出版されていたのは本当に僥倖であった。さもなくば,日本の医療は現在直面するパンデミックの厄災に到底,耐えきれなかったであろう。今(2021年1月),日本の医療は何とか持ちこたえている状況(hang in there)だ。それを支えている全国の感染症対策のキープレイヤーたちのほとんどが,青木眞先生の「マニュアル」で学んだいわば同門の徒だ。本書がなかった世界を想像すると本当にぞっとするのだ。

 全ての特定の感染症診療方法は,基本的な感染症診療方法の応用問題にすぎない。COVID-19ももちろん,例外ではない。逆に,基本的な感染症診療を無視した形で質の高いCOVID-19診療遂行は到底不可能だ。これは感染防御という観点からも同様だ。例えば,ゾーニングとか防護服(PPE)とかを実践し,マニュアルに組み込むことは誰にでもできる。が,「原則」を無視したままでそれを行うと,PPEを着用したままでレッドゾーンからグリーンゾーンに無邪気に歩き出たりする(p.1597)。院内感染のリスクも考えずに「ちょっと胸の画像を見てみたいから」とCTをオーダーしたりする。そのCT画像が,診療に変化を及ぼすことがない場合にもかかわらず,だ。治療薬の選択も「耳学問」的であり,アドホックに「ネットに書いてあった」治療を試してみたりする。例えば,炎症が激しいのだからと(推奨されていない)ステロイドパルス療法を試みて,そのために不要な合併症を起こしたりする。

 こうした誤謬は全て感染症診療の「原則」の欠如に起因する。「マニュアル」出版後の20年で,こうした誤謬は随分減った。しかし,医師の大多数は「マニュアル」をまだ読んでいない。第3版の書評で2015年の日本感染症界は夜明け前の薄明かり状態だと書いた。2021年の日本はそれなりに明るさを増しているが,それでも日本晴れとはいい難い。

 「経過観察」という言葉がある。多くの医者はこれを「何もしないこと」と勘違いしている。しかし,経過観察は得られる見通しがちゃんと立てられているとき初めてとれる戦略で,よって観察すべきパラメーターも明確だ。そこで「避けるべきパラメーター」である体温や白血球数ばかり見ていて「用いるべきパラメーター」である呼吸数などに目配りしないと構造的な失敗が生じるのだ(p.576)。

 感染症診療の失敗の多くは「恐怖」が原因だ。その恐怖は知識と(適切な)経験の欠如が原因だ。目の前が真っ暗だと不安になるのは当然だ。啓蒙とは決して表層的差別語ではなく「光を照らす」(enlighten)という意味だ。知識が光を照らし,光が導いた適切な治療とその成功体験が,さらに明るく道を照らし,われわれに勇気を与えるのだ。真っ暗な夜道を突っ走るのは火に飛び込む昆虫のごとく「勇気」ではない。

 本書は症例ごとにペラペラとめくればよい本だ。電話帳を怖がる人がいないように,本書の分厚さを恐れる必要はない(電話帳も,そろそろ死語だが)。

 本書にたじろぐのは本屋で手に取るときだけである。その後はじんわりと,毎日のように読者に勇気を与えてくれることだろう。間違いなく。


本書が全医師にとって必読である理由
書評者:志水 太郎(獨協医大主任教授・総合診療医学)

 青木眞先生の本書に出会ったのは今から約20年前,医学部2年生のときで,偶然,初版が発行されてからすぐのことでした。大学生協書店で立ち読みしていたUSMLE関連の本の横に並んでいたこと,特別講義で感染症の授業があった直後だったこともあり手に取ったのです。医学部低学年でもすごい本はわかるものです。衝撃を受けたのは,今もその形をとどめ,さらにデザインも洗練された第1章の「感染症診療の基本原則」でした。ページをめくるたび臨床のリアルがそこに展開され,興奮しました。学年が進むにつれ,初版序の記載を地で行く“無数の感染症治療薬に窒息しかかっていた”自分に,先に進む光を与えてくれた感動を昨日のように思い出します。医師になった後は本書の“名所”の一つである感染症フローチャート(p.7)に倣い,自分は初期研修医時代の紙製の温度板にマニュアルの指示通りこれでもかというくらいびっしり重要な情報を書き込み,温度板を見ただけで全てのことが一目瞭然に明快にわかるように整理しました。青木先生が“内科は整理の学問だ”とおっしゃる通り,この温度板の習慣が症例を頭の中で俯瞰して整理する能力を鍛えてくれたと感じています。

 『ハリソン内科学』と同様に,総論部分は本書の価値の中核を成しています。本書は約1700ページの大著ですが,ページ数に圧倒される必要もなく,積読にする必要もありません。時間がなければ各論は必要時に参照するとして,まず購入日のうちにでも確実にお読みいただきたいのは第1章です。わずか38ページですが,濃密な38ページでもあります。全てのページが重要ですが,「重症度を理解する」(p.2),「各論的に考えよう」(p.2),「やるとなったら治療は徹底的に」(p.4),「回復のペース,パターンを予測する」(p.5),「経時的な変化を追う」(p.6),「基礎疾患と起因菌」(p.13),「グラム染色に対しての否定的な意見」(p.19),「治療効果は何と何で判定するか?」(p.35),「細菌感染症は悪化か改善あるのみ」(p.37)などは遅くとも初期研修修了までに体感として骨の髄まで染み込ませる必要があると思います。そして現場に出て発熱患者に途方にくれないためにも,次に読み込み制覇すべき章は,第6章の「A 不明熱」の(pp.441-459)の19ページです。ここまでの領域が頭の中でクリアに整理されていれば,少なくともベッドサイドでコモンな感染症や熱・不明熱のケースに対峙する準備は整ったといえると思います。

 本書が第4版を迎えても「マニュアル」の名前を変えない理由はなぜでしょうか? それは,マニュアルとして指針を示すが,盲従するわけではなく,原則に則った上での個別化を考えよ,というメッセージと想像します。“青木マニュアルにこう書かれているからそうすべき”というより,“マニュアルにはこう書かれている。その上で,この患者さんの場合は○○という条件もあるから,今回は△△の根拠と理由でこうするべきだと思う”が,本書が期待する臨床医の姿勢だと思います。仮にその上でベストの方針を採用しても,患者さんはさまざまな状況性のもと臨床上難しい経過をたどることもあります。そんなときに生きるのが総論で強調された原則をもとにした,解剖,生理,生化学といったbiomedicalの力,psychological,social medicineを多面的に考慮してゼロベースで考える,総合的な思考力や応用力だと思います。

 「師匠は優れた弟子の数で偉大さがわかる」というのは,本書の推薦の言葉のLawrence M. Tierney Jr.先生の数あるパール(名言)の一つです。初版の単著から幾星霜,初版からのファンであったことが想像に難くない弟子・盟友の先生方が今度は著者側となり,本書をさらに充実させています。共著者が多数になっても論調が単著のように一貫し続けているのは,執筆のプリンシプルやロジックが著者陣に十分に共有されているからと思います。この事実自体が,先生が日本の医療界に与えられてきた歴史とインパクトを証明していると感じます。また,初版にしてすでにベストセラーだった本書の改訂を,先生が単著ではなく共著者を入れられていること(前版より)も,教育者である先生の懐の大きさを感じます。もちろん,特に第2版の時など文字通り「命を削って」この本を書かれていた先生のお姿を身近で知る自分としては,このような継承で本書が改訂を続けられていることは,弟子として安心し,またうれしく感じています。

 最後に一つ,提案としてこの書評をご覧の先生にお願いがあります。秘書さんなどにお伝えいただき,本書評を医局のポットの近くなど,よく目につくところに貼っていただきたいのです。本書評を読む機会のない先生方にお読みいただきたいからです。臨床医である以上,感染症を診察しない医師はいないと思います。感染症を診る奥義ともいうべき基本の考え方や共通言語が,まず本書の総論部分と不明熱の章に明示されています。そのため,この章は全ての医師にお読みいただいたほうが良いと思います。さらに臓器別科の先生方であれば追加で担当臓器の章を,総合診療医や救急・集中治療の先生方であれば全ての章を,お読みいただくと良いと思います。つまり全てのベッドサイドの医師にとって,本書は必読となる一冊と思います。

 本書を通して,COVID-19の騒動であらためて明らかになった医師のダークサイド,つまり感染症に対する思考停止の常態化の連鎖と悪夢を断ち切り,日本の臨床感染症のレベルを向上させるのは,今が絶好のタイミングだと思います。

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