看護を教える人のための
ルーブリック導入講座
ルーブリックは、学生の主体的な学びと教員自身の成長をともに促すものとなる
もっと見る
看護基礎教育の土台をつくる! ここからはじめる決定版! 現代の高等教育機関において標準的に導入され、看護師養成機関においても看護実践能力を評価するツールとして普及が進んだルーブリックづくりの入門書、待望の刊行。構成として第I講から第VI講に分かれ、初学者向けに段階を踏んでルーブリック全般の説明からその作成と導入に至る具体的な手順を、各領域別・汎用型それぞれで詳細に紹介している。
編集 | 北川 明 |
---|---|
発行 | 2024年09月判型:B5頁:164 |
ISBN | 978-4-260-05707-3 |
定価 | 2,970円 (本体2,700円+税) |
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- ご案内
- 序文
- 目次
- 書評
ご案内
開く
看護教育・研究のためのオンラインプラットフォームNEO(Nursing Education Online)にて、本書収載「第Ⅳ講 実例で学ぶ―領域別―」「第Ⅴ講 実例で学ぶ―汎用型―」掲載のルーブリックの実例をダウンロードいただけます。
『看護を教える人のための ルーブリック導入講座』連動企画
【教材PDF配布中】書籍『看護を教える人のための ルーブリック導入講座』実例ダウンロードのご案内
序文
開く
はじめに
私がルーブリックと出会ったのは、おおよそ10年前のこととなる。その当時、私は防衛医科大学校医学教育部において、看護学科設立の準備をしていた。学科を新たに立ち上げるにあたり、学生たちをどこに導くか、どのような段階を踏んで教育をしていくかについて頭を悩ませ、設立準備室長である安酸史子先生(現・日本赤十字北海道看護大学学長)と日々議論を重ねていた。そうしたなか、ディプロマ・ポリシー到達のための長期的ルーブリックを作成していったことが、その付き合いの始まりである。
ルーブリックをつくるうえで、最も困難であったことは、育成したい能力を具体化することであった。例えば、「他者を思いやる力」とはどのような力で、何ができればよいのか。そして、その能力を育成するためには、どのような教育を行えばよいのか──。これらの教育をするうえで当然考えなければならないことを、私はそれまで突き詰めて考えてこなかったことに気づかされた。ルーブリックを作成することで、どのような学生を育てたいと思っているのかが、より明確な像として私のなかで具体化されていった。このことから私は、ルーブリックをつくることは、学生のためになるだけでなく、教員が教育と向き合うために必要なツールであると考えるようになったのである。
教育とは、教師が知識や技術を伝達するだけの行為ではない。知識や技術が学生のなかに根づき、生きるなかで使えるようにならなければ、教育ができたとはいえないのではないかと私は思う。このような教育を為しえるためには、学生に何ができるようになってほしいのか、どうなってほしいのかを具体的にイメージしていくことが必要であろう。
本書は2018年に刊行した『看護学実習に役立つルーブリック作成法と実用例』(日総研出版、絶版)が幸い好評をいただけたことを受け、その後の実地での工夫や研究成果を含めて内容をアップデートし、現在の看護基礎教育のニーズに沿えるよう力を尽くしてまとめたものである。
構成としては、第I講から第VI講に分けて、ルーブリック全般の説明からその作成と導入に至る具体的な手順を、各実例別に段階を踏んで紹介している。ルーブリックを作成する際に、教育目標を具体化するために、実際にどのように考えていくかについても、できる限り丁寧な解説を心がけたつもりである。読者の皆様に、ルーブリックを作成することは、教師のなかにある理想とする学生像を具体化し、言語化していくことであり、教育を突き詰めて考えていくことであると実感していただけたら本望である。
本書が読者の日々の業務の役に立ち、学生の学びを通して患者の幸福につながるものであることを願う。
2024年初夏
北川 明
目次
開く
はじめに
第I講 基本をおさえる
1 時代の変化と教育の進化
2 看護を教える人にとっての評価
3 評価の種類
相対評価と絶対評価
形成的評価
完全習得学習
形成的評価とルーブリック
4 看護学教育での評価の現状
5 教育目標の分類体系
領域ごとの段階と目標
行動目標における行為動詞
6 パフォーマンス評価とルーブリック
ルーブリックとは
ルーブリックの活用とその展開
7 ルーブリックの基本構造
課題の書き方
評価観点の配置
評価尺度の設定
評価基準の表記
第II講 作成にとりかかる
1 良いルーブリックとは
測定の妥当性
測定の信頼性
2 良くないルーブリックとは
3 ルーブリック作成の演繹的方法
Step1 振り返り
Step2 リストの作成
Step3 グループ化と命名
Step4 表の作成
4 ルーブリック作成の帰納的方法
Step1 振り返り
Step2 採点と並べ替え
Step3 特徴抽出
Step4 評価観点の命名
5 抽象的な目標からのルーブリック作成
6 ルーブリックの段階のつけ方
1.程度による段階づけ
2.達成個数による段階づけ
3.条件の変化や追加による段階づけ
4.動詞の変化による段階づけ
5.教員の助言量による段階づけ(使用は勧めない)
7 ルーブリック作成後のチェック
看護学実習での活用
ルーブリックの分量
第III講 活用を心がける
1 ルーブリックの導入方法
ルーブリックそのものの説明を
2 ルーブリックを使った採点方法
3 ルーブリックと授業改善
4 見直しとブラッシュアップ
教員の印象と採点結果のズレ
教員間での評価結果のズレ
第IV講 実例で学ぶ─領域別─
1 基礎看護学演習
目標を設定する
目標を具体化する
演習例概要
2 在宅看護学実習
目標を設定する
目標を具体化する
実習例概要
3 成人看護学実習I(周手術期)
目標を設定する
目標を具体化する
実習例概要
4 成人看護学実習II(慢性期)
目標を設定する
目標を具体化する
実習例概要
5 小児看護学実習
目標を設定する
目標を具体化する
実習例概要
6 母性看護学実習
目標を設定する
目標を具体化する
実習例概要
7 老年看護学実習
目標を設定する
目標を具体化する
実習例概要
8 精神看護学実習
目標を設定する
目標を具体化する
実習例概要
第V講 実例で学ぶ─汎用型─
1 レポート課題(臨地実習)
目標を設定する
目標を具体化する
2 コミュニケーション
目標を設定する
目標を具体化する
3 患者理解
目標を設定する
目標を具体化する
4 主体的な学びの態度
目標を設定する
目標を具体化する
第VI講 発展を意識する
1 ルーブリックのもたらす効果
短時間で評価ができる
フィードバックをすぐに的確に行える
教員の振り返りが容易になる
学生が課題に対して前向きに取り組むようになる
複数教員で教育に関する考え方を共通化できる
学生の思考訓練になる
教員が学生に成績の説明がしやすくなる
複数教員または長期的な点数をつけるときに評価が一貫しやすくなる
2 学びの過程をつかむICEモデル
Ideas──アイデア
Connections──つながり
Extensions──応用
ICEモデルをどう活用するか
3 採点指針ルーブリック
4 長期的ルーブリック
5 評価する教員側の成長を促すもの
おわりに
索引
書評
開く
学生の成長を支え,自らも成長したい看護教員の必携書
書評者:辻野 睦子(大阪成蹊大講師・看護学)
教える立場にある者には,「学生に何ができるようになってほしいのか,どうなってほしいのかを具体的にイメージしていくことが必要であろう」(p.v)――看護教員にとっては,臨地実習で求められる知識や看護師国家試験の出題基準といった 「学生に教えなければならないこと」への意識が向きやすい。しかし,その先に「学生にどうなってほしいか」まで,私自身が考えられていただろうかと省みる。
本書は,看護教育における教育評価について,その本質をわかりやすく解説し,ルーブリックづくりの手法を学べる入門書である。私は,今秋から開講する小児看護学演習を準備中で,領域会議でルーブリックを用いた評価を提案しようとしていた矢先,運命的に本書に出会い,その内容に興味を惹かれた。すでに演習や実習でのルーブリックを作成してきた経験として,評価基準の設定では,表現の難しさや分量の加減に悩んだり,実際の学生を評価する段階で行き詰まったり,残念な状況に陥ったりしたことが幾度とあった。本書は,理論と実践のバランスに富み,具体的なルーブリックの作成方法や実例を示しながら,看護教員にとっての教育評価の重要性について,深く掘り下げている。特に臨地実習のように,学生の看護実践を教員が直接みることができないような状況で,どうすればそれを評価できるのかといった命題にも,本書に記載された作成方法,活用方法,実例を読み進めることで,その答えに導かれていく。また,掲載されている実例数の多さも魅力である。領域別に分かれた8つに加え,コミュニケーションや看護過程といった汎用型でも4つの実例が紹介され,これらの実例全てにルーブリック評価表の具体例が示されている。領域別の項では各演習・実習のリアルな状況が反映されているので,手はじめに担当している領域の実例を模倣することで,まずはルーブリックの良さを体験することもおすすめしたい。さらに,ルーブリックを活用した発展的なアドバイスも論じられており,ベテランの看護教員には後進育成にも役立てられる内容となっている。
ルーブリックとは,「学生を評価し教育するためのツールであるが,同時に教員が自分自身の成長を促すものなのである」(p.143)とも,著者は述べている。本書での学びを実践することで,学生の成長も,そして教員自身の成長も体感できると,期待の膨らむ良書である。
読者は,私と同じく自らの教育評価の方法に思い迷うなかで本書に出会った方々ではないだろうか。ここからの学びを糧に,早速ルーブリックづくりに着手されるのではないかと想像してしまう。私も本書を読んで,これまで作成したルーブリックを見直し,仕上げ直した。とくに,“学生にこうなってほしい”ということを文章として明示することができた。これから学生に提示する段階を迎えるが,実際に評価する時期が待ち遠しくて仕方ない。