医学界新聞

2020.10.19



Medical Library 書評・新刊案内


細胞診セルフアセスメント 第2版

坂本 穆彦,古田 則行 編

《評者》庄野 幸恵(東京都がん検診センター細胞検査士養成所・教務主任)

問題を解くことで自身の判断能力が一目瞭然にわかる

 2020年6月,『細胞診セルフアセスメント 第2版』が発刊されました。細胞診検査にかかわる誰もが手にしたであろう『細胞診を学ぶ人のために』(医学書院)(通称「学ぶ君」)の姉妹編であり,こちらを参考書とするならば,本書は細胞を判定する能力を自己評価できる実践的な意味を持つ一冊といえます。

 今回,本書はいくつもの改訂がなされています。最初に,部門ごとに色分けされたカラフルな目次とテーマ別に番号と色分けされた中扉が目を引きます。全11項目の中扉をめくると,親しみやすさとともに本題である細胞像問題への期待が高まり,すぐに問題に挑戦したくなるのではないでしょうか。

 細胞像問題は,全て新しい症例に入れ替えられ,婦人科,呼吸器,消化器,泌尿器・尿,乳腺,甲状腺,リンパ節,体腔液・胸腹壁,骨軟部,脳・中枢神経,皮膚・その他に分類され,321症例と大幅に増えています。左側に細胞写真が弱拡大と強拡大で示され,右側に解答があるので画像と解説を照らし合わせながら確認していくことができるので視覚的にも覚えやすいですし,推定診断名や設問内容が最新のものに更新されているため,時代に合った新しい知識を習得できます。解答には,全てに「ポイント」が記載され,症例によって「臨床事項」「組織所見」「鑑別診断」「細胞所見」などが付記されており,端的で明確な説明文は非常にわかりやすいです。

 最も重要な細胞写真は,がん研有明病院の症例を用い,同一装置で撮影された写真のため,撮影条件が統一されており美しいの一言です。書籍中の限られたスペースの写真でも細胞所見を十分に観察できる写真です。また,各問題に難易度が示され難易度の低い順に★,★★,希少例や難易度の高い問題は★★★と3段階に表示されているので,問題を解きながら自身の判定能力が一目瞭然にわかります。間違った問題を繰り返し解き,写真と解説を読むことで理解を深め,ステップアップしていくことを実感できます。

 学科問題は,細胞検査士認定試験に即した出題様式に改訂され,各分野から五者択一と一択問題を組み合わせた形で合計120問が出題されています。解説は,誤っている個所に的を絞った構成で詳細な説明が記され,問題を解きながら知識を習得できるようになっています。

 巻末の索引はシンプルですが,分野ごとに調べることができ知りたい疾患名または診断名について書かれている解答ページへと導かれるため,参照が容易で気に入っています。

 本書は坂本穆彦先生,古田則行先生の細胞診へのこだわりを随所に感じます。細胞検査士をめざす人たちはもちろん,中堅・ベテランの細胞検査士の方々におかれましても,常に傍らに置いていただき,活用できる「頼りになる一冊」だと確信しています。

B5・頁320 定価:本体7,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04196-6


皮膚病理診断リファレンス

安齋 眞一 著

《評者》田中 勝(東京女子医大東医療センター皮膚科部長)

1人の師匠に出会えたに匹敵する学びの多い一冊

◆すごい本だということ!

 第1に著者がすごいし,執筆協力者もすごい。この本は分担執筆ではなく,1人の皮膚病理専門家(大家の中の大家!)が執筆した単著である。もちろん,著者がすごいのは,経験を積んだ多くの皮膚科医・病理医には説明不要なのだが,若い先生方,特に後期研修医や医局で毎週のようにカンファレンスを通して研鑽を積む立場にある先生方には少し説明が必要かもしれない。これから皮膚科専門医試験を受ける後期研修医は,皮膚病理を苦手とする人が多いと予想されるが,この本さえしっかりと読み込んでおけば,試験問題もやさしく感じられるに違いない。そして,医局の中心となり学会発表の指導をする立場の先生方にとっても本書は間違いなくバイブルと言える皮膚病理教書である。

 さらにすごいことに,著者を支える執筆協力者の2人も,皮膚病理という領域の中では,大家と呼べる2人なのだ。すなわち,「皮膚病理診断」を専門とし,毎日のように標本を見て診断することを職業とする,つまり皮膚病理で開業している数少ない日本人なのだ。したがって,自分の専門領域以外はわからないということはなく,ほとんど全ての領域にわたって詳しいのである。

◆どこから読んでもわかりやすい

 この本の最大の魅力はそのまとめ方にあると思う。多くの皮膚病理教書は,特に洋書は文章が長くてポイントがわかりにくい。本書は所見が箇条書きになっており,ポイントがひと目でわかる。そして「病理診断の決め手」が短くズバリと書かれていることも特記すべきである! さらに,「病期による違い」「臨床像との関係」「類縁疾患・鑑別疾患との違い」が簡潔にまとめられており,迷ったときに,鑑別点が何かをストレートに検討すればよいので,実際の診断においてとても助かるのである。

◆全ての皮膚科医・病理医必携の書

 本書には著者の長年の経験が惜しげもなく織り込まれている。「言いたいことは全て書いた」という達成感に溢れている。だからこそ,本書から学ぶことは,1人の師匠に出会えたに匹敵するものであり,継続して読み続けることの恩恵は計り知れない。ぜひとも読み倒していただきたい本であり,著者の渾身の思いを少しずつでもよいので,汲み取ってほしい。

◆重いけど,学会にも携帯する価値がある!

 本書は毎日持ち運ぶには重いかもしれない。でも,毎週のカンファレンス前日はもちろん,カンファレンス当日にも持ち込んで読みながら議論をしてほしいと願う。さらに欲を言えば,毎月の学会(地方会や支部総会など)にも持ち込んで調べながら聞き,できるだけ広範囲の項目を継続的に読み進めてほしい。

A4・頁530 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04140-9


QOLを高める
認知症リハビリテーションハンドブック

今村 徹,能登 真一 編

《評者》内山 量史(春日居サイバーナイフ・リハビリ病院・言語療法部長)

人生100年時代の認知症者対応に

 人生100年時代が到来しました。この超高齢社会においては全ての人が元気に活躍し続けられる社会,安心して暮らすことのできる社会をつくることが重要な課題となっています。特に増加傾向にある認知症者への対応は重要な施策として国を挙げて取り組まれています。

 本書は認知症の方へのリハビリテーションに従事し,日々のかかわりや研究に汗を流されている14名の執筆者によってまとめられたハンドブックであり,全体で4章から構成されています。

 第1章では認知症の基礎知識として定義と症状,疾患の特徴などがわかりやすく記載されています。また,国の認知症施策についてもまとめられており,認知症初期集中支援チームの果たす役割についても記載されています。認知症の方やその家族が集える場所として最近注目されている認知症カフェについても紹介されており,地域で認知症の方を見守り支援することの重要性を再確認できます。第2章はリハビリテーションの評価について,臨床上使用されることの多い検査の実施方法や解釈に至るまで記載されています。また,机上での検査だけではなく行動を伴う場面での評価についても詳細に説明されており,行動面の観察も評価には重要であることが学べます。第3章のリハビリテーションアプローチでは,心身機能へのリハビリテーションから活動と参加へのアプローチ,コミュニケーション支援などが表やイラスト,写真を使用して具体的に記述されており臨床現場ですぐに活用できる多くのヒントを得ることができます。また,家族介護者の指導や支援の重要性,ピアサポートの果たす役割についての学びを深められるのは本書ならではです。第4章ではQOLが向上した6症例が紹介されています。介入方法や経過が具体的に記述されており,実践例を通じて認知症の方の生活全体をみる視点や各専門職のかかわりを知ることで多職種連携の重要性が理解できます。さらには,コラムとして物盗られ妄想や夕暮れ症候群など認知症によくみられる症状と実際の対応策が紹介されており,認知症の方への対応の一助となるはずです。

 私も言語聴覚士として臨床現場で30年以上携わっていますが,認知症の方々に対するコミュニケーションや食事などにかかわる機会は明らかに増えてきています。高齢者は複数の疾患を有している場合が多く,単一疾患におけるリハビリテーションだけでは十分なリハビリテーションが提供できないケースが多々あり,認知症への対応は喫緊の課題であると実感しています。基礎的な知識や実践例を通じて認知症の方への介入方法をはじめ家族支援や地域での支援の在り方までを学ぶことができる本書を多くのリハビリテーション従事者に紹介したいと思います。

B5・頁200 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04162-1


「治る」ってどういうことですか?
看護学生と臨床医が一緒に考える医療の難問

國頭 英夫 著

《評者》反町 理(ジャーナリスト,フジテレビ報道局解説委員長)

垣間見た覚悟に胸をつかれる

 看護学生と医師のやりとりをなぜ本にするのか? そうした基本を理解しないまま読み進めて行った。

 國頭英夫さんと看護大学生のやりとりを読んでいると,医療に従事する皆さんとの距離が急速に縮まってくるように感じた。多くの一般の人は医療への感想は医師による診察から得ていると思うが,その現場に必ずいる看護師の皆さんがどういった思いでいるのかがひしひしと伝わってくるからだ。というか,医療現場の裏側をチラッとのぞけたような感覚を,いま,覚えている。

 看護学生の新人医師や医学生に対する見方は辛辣だ。「できもしないくせに」「医師免許を持っているだけで」と言わんばかりの厳しい見方は胸に刺さる。テレビの報道も含めて,仕事の現場ではこうした葛藤,不満はありがちだが,命にかかわる現場でのこうした対峙は聞くだけでハラハラする。その上でそれらを飲み込むのは看護師の役割であることを知り,感嘆する。

 また,「患者に対しては常に正直にありながら,常に希望を与えよう」という,医療従事者が,特に重篤な患者の治療においては直面し続けているであろう二律背反に関するやりとりは,自分がそうした状況になった場合を想定しながら真剣に読んだ。それは,医療側が患者の心をくじくまいとして精一杯配慮しながら,事実を伝えようともがくさまであり,医療という領域を超えた「業」の世界のように見える。そして同時に,自分が患者ならばどうしてほしいと思うだろうか,という問い掛けも浮上する。しかし,答えは「わからない」のである。そのときの自分の社会環境,心理状況などもあるだろう。同じ条件であっても数分ごとに考えが変わることも十分あり得る。いや,全てを達観して受け入れることができるわけはないのだから,変わるのが当然だ。そんな患者を前にして刻々と変わる体調,心理状況を把握する看護師のプロフェッショナリズムはいかにして出来上がっていくものなのだろうか。看護学生と医師のやりとり,問答を本にすることの狙いが私なりに見えてきた。高齢化が進み,皆が自分の命や死と真剣に丁寧に向き合わねばならない時代に,國頭さんは,われわれ一般人も医療従事者が持っている感覚,覚悟を持つべきと問い掛けたいのではないだろうか。タイトルは『「治る」ってどういうことですか?』という本ではあるが,本著の中では死をとらえたやりとりが何回も出てくる。さらに國頭さんはあとがきでは自らの死の場面の予想図で締めくくっている。これは矛盾か? そうではないだろう。われわれが命を預ける「プロ」の意識がどのように形成されているのか,それをわれわれはどう受け止めるべきなのかを問い掛けているのだ。読み終えて,まさに「後を引く」読後感に包まれている。

A5・頁224 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04321-2


すぐ・よく・わかる
急性腹症のトリセツ

髙木 篤,真弓 俊彦,山中 克郎,岩田 充永 編著

《評者》林 寛之(福井大病院教授/総合診療部長)

自信を付けたい初学者にお薦め

 「イレウス」は麻痺性イレウスを指し,機械的閉塞を伴うものは「腸閉塞」と呼ぶというように用語が統一されたのは,『急性腹症診療ガイドライン2015』がこの世に出てからとなる。私のような古だぬき先生となると,何でもかんでも「イレウス」とテキトーに呼んでいたから楽(?)だったが,確かに論文上ではほとんど“ileus”という用語は使われず,“bowel obstruction”と記載されていた。英語と日本語の齟齬が初めて正されたといえる。この急性腹症診療ガイドライン策定に陣頭指揮を執った真弓俊彦先生をはじめ,実に濃いメンバーで整合性がとれた内容の急性腹症の本が世に出たのは非常に喜ばしい。内容がアップデートされているのみならず,非常にわかりやすく,初学者にとっては重宝するテキストになるだろう。急性腹症はとにかく鑑別が多く,頭の中で整理するのは大変だもの。

 一般に腹痛のテキストを見ても,腹部の解剖学的な分割表に疾患名が羅列されただけのものが多く,病態生理を同時に考える本は少なかった。本書では内臓痛や体性痛が丁寧に説明されている。同時に解剖学的臓器を考えることで急性腹症の診断学力が飛躍的に伸びるだろう。腹膜刺激症状だけでは急性腹症は語れないのだ。「お腹が硬くないからこそ,怖い疾患」を想起できるかどうかは臨床医の腕の見せどころ。あくまでも診断は病歴と身体所見で8割想起可能であり,だからこそ疾患を予想して追加するCTの威力は抜群だ。一方,何も鑑別診断を挙げないで,「何でもかんでもCTさえすれば放射線科医が診断してくれるからいいや」なんという不届きな!(失礼)……安易な検査優先の診断学をしているのでは,簡単に「CTでは異常はありませんから病」なんて頼りない診断名でけむに巻くようになってしまうんだよね。

 各論においては,図が多く,スペースがとってあるのがいい。各疾患の特徴をきちんと整理して理解しておくことが重要だが,このスイスイページをめくることができる感じになると,「あ,私って賢くない?」と自画自賛モードに入りやすい作りになっている。自信を付けたい初学者にはぜひともお薦めの一冊だ。

 第3章「急性腹症の診断的アプローチ」は現場でのタイムリーな思考過程を身につけるためにぜひ熟読して自分のものにして欲しい。髙木篤先生,真弓先生,山中克郎先生のベテラン勢が同級生で,8年の時を経て本書が世に出ることになったという経緯は面白い。同級生だからこそ自由に意見交換できたからの統一性だろう。ここに年齢の違う岩田充永先生が巻き込まれたのは,「医学の世界のあるある」を見事に体現しており,読者の皆さまも「あぁ,医者の世界ってそんなんだよなぁ」と涙を誘われずにはいられないだろう(あくまでも個人の勝手な想像です。いや,きっと岩田先生は嬉々として原稿を仕上げたことだろう)。日常臨床でスピード感を意識しながらアプローチできる実践書を皆さまの手元に1冊置いておけばきっと多くの患者さまが恩恵を受けるに違いない。

B5・頁192 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03945-1

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook