医学界新聞

2020.10.05



Medical Library 書評・新刊案内


不整脈治療デバイスのリード・マネジメント

庄田 守男 編

《評者》笠貫 宏(早大特命教授/医療レギュラトリーサイエンス研究所顧問/元東京女子医大日本心臓血圧研究所所長)

不整脈専門家が必読すべき優れた画期的なテキスト

 「リード・マネジメント」という初めて耳にするタイトルから,ペースメーカリードのトラブルシューティングの解説書と思われるかもしれない。しかし,本書は心臓植込み型電気的デバイス(CIED)療法のリードにかかわる基礎から臨床,そして社会問題まで,最新の知見と経験を体系的にまとめられた不整脈専門家が必読すべき優れた画期的なテキストである。

 1960年代,完全房室ブロックに対する革新的治療機器として開発されたペースメーカ本体は急激な進歩を遂げ,さらに植込み型除細動器や両室ペースメーカなどのイノベーションをもたらした。CIED本体の進歩に比較して,エネルギーを心臓に伝えるリードに関する関心は低かったが,編集者の本体とリードの進歩が車の両輪だとする高い見識のもと,本書は21世紀におけるリードにかかわるイノベーション()のテキストとなっている。

 植込み型機器としてのリードは抜去困難であり,開胸手術の侵襲も高い。当初単純牽引法,持続的段階的牽引法が行われていたが,1980年代以降,経皮的リード抜去手術(ロッキングスタイレット,種々の癒着剥離法)の進歩は目覚ましい。しかし,当時はデバイス・ラグが社会問題化した時代である。わが国の薬事行政が完成したのは2004年のPMDA設立以後であり,編集者らの苦労・努力は想像を絶するものであったと思う。

 デバイス新規植込み時・デバイス交換時・デバイスアップグレード時・デバイストラブル時のリード・マネジメントとして,適切なリード選択・植込み方法に始まり,デバイス防感染,リード交換・抜去の適応・手術手技など詳細に記載されている。

 それらの中で,特に重要と思われる4つの点について紹介する。

1)リードのリコールでは,1992年Telectronics社の革新的心房リード(Accufix J)は不具合による損傷・塞栓症のみならずリード抜去による死亡例という甚大な被害をもたらしたこと,その後のリコール例も記載されている。医師にとって,リコールの歴史を知ることは不可欠であり,原点であろう。
2)リード交換はデバイスアップグレード時やリードトラブル発生時に行われるが,リード抜去のリスクが高かったため,リードは残留されていた。しかし残存リードによるリスク(血栓,静脈閉塞,三尖弁逆流など)が問題となり,経皮的リード抜去手術の進歩により,21世紀に入ると不要リードに対する抜去の適応は拡大されている。残存リスクと抜去リスクの比較考量が必要になり,その際には患者側の要件,リード要件,術者の要件によって異なると記されている。今後,患者のインフォームドコンセントが重要となり,セカンドオピニオンも求められるであろう。
3)デバイス感染症に対しては,リード抜去が必須であり,わが国のガイドライン(2018年)でもクラスⅠ適応となっているにもかかわらず,抜去されない症例が44%存在するという調査もあると述べられている。看過できない状況であり,デバイス感染症患者にとって,リード抜去の選択肢を知る権利があり,認定施設以外では必ずセカンドオピニオンを勧めるべきであろう。
4)わが国における経皮的リード手術は50施設で年間500例以上と記載されているが,リード抜去は重篤な合併症を来す手技である。日本不整脈心電学会では2018年からリード抜去登録制度が始まり,ステートメント(2020年改訂)での術者(認定医,指導医)および施設に求められる要件が示されているが,今後その重要性は増し,充実されていくであろう。

 最後に,編集者を中心とした著者グループがpatient centered medicineという認識を共有しており,読者は本書を通してその考え方を学べるはずである。臨床現場の医師が利活用しやすいように付録にWeb動画がついているのもその現れであろう。

 本書が不整脈専門家のみならず,循環器専門医に広く読まれることを願い,本書の著者たちの今後の活躍に心からエールを送りたい。そして「リード・マネジメント」の健全な発展を期待する。

:イノベーションとは,「技術の革新にとどまらず,これまでとは全く違った新たな考え方,仕組みを取り入れて,新たな価値を生み出し,社会的に大きな変化を起こすこと」(2007年 長期戦略指針「イノベーション25」・内閣府から)

B5・頁288 定価:本体8,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04129-4


顔面骨への手術アプローチ

Edward Ellis III,Michael F. Zide 原著
下郷 和雄 監訳

《評者》鄭 漢忠(北大大学院教授・口腔顎顔面外科学)

少ない労力で安全確実にアプローチする道を指南

 手術で最も大事なことは,どのようにして目的とする場所に到達するかということである。そのためには切開線の設定が大切だということを先輩たちから幾度も教わった。確かにそこに到達する道はいろいろあるかもしれないが,解剖をよく考えるとおのずと決まってくるものだ。この『顔面骨への手術アプローチ』を読んだとき,先輩たちに教わった数々のことが思い出された。臨床は経験だという。いや,それだけではない。この本を読んだ時,いかに多くの先輩たちから最もトラブルの少ない,安全なルートを教わっていたのかということをあらためて知らされた。

 本書は少ない労力で安全確実に目的とする場所に到達する道を指南する書である。正確で豊富な図や写真はさすがに臨床家であるEllis先生ならではのわかりやすさである。随所にちりばめられているキャダバーを用いた重要な解剖単位の剖出写真は非常に参考になるものと思われる。また,何より訳者の正確な日本語は素晴らしく,とても読みやすい内容に仕上がっている。

 本書は研修医のみならず,専門医をめざす若手医師・口腔外科医にふさわしいと同時に中堅の医師・口腔外科医にとっても有用な書物であることは間違いなく,顔面骨の手術を行う全ての医師・口腔外科医にとって必読の書といっても過言ではない。自分自身の不得手な領域では目からうろこの世界が広がっており,自分自身が得手とする領域においても新たな発見がそこにある。

 近年,手術書を穴がうがつほど読まずに手術に臨む若手医師・口腔外科医も少なくないと聞く。手術書をいつも手元に置いて,繰り返し読むことにより手術手技はようやく上達するものである。若手もベテランもぜひこの書を手元に置いていただき,より良い手術をめざしていただきたい。

A4・頁272 定価:本体20,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03951-2


高齢者ERレジデントマニュアル

増井 伸高 著

《評者》関口 健二(信州大病院特任教授・総合診療科長)

スタンダードな高齢者救急診療を体で覚えられるマニュアル!

 良質な研修病院で研修を行うことのメリットは何でしょう。僕が米国臨床留学で感じたそのメリットとは,「十分な知識や経験がなくても,その施設でルーチンとなっている診療がスタンダードな診療であるため,それらを体で覚えられること」でした。

 僕が20年前に経験した初期研修では,必ずしもスタンダードな診療がルーチンになっているとは言いがたく,バイブルとしたのは『ワシントンマニュアル』でした。ボロボロになるまで使い続けたワシマニに何度救われたことか。20年を経た今,良質なマニュアルが数多く出版されるようになって,研修医にとってはどこででもスタンダードな診療がやりやすい状況になったと言えると思います。

 しかし,高齢者診療はどうでしょう。高齢者は複雑で非典型的で,おまけに予後が悪い。フレイルな高齢者であればなおさらです。しかし「複雑であるがゆえに予後が見えにくい」と言うこともできます。「予後が見えにくいので,スタンダードな診療が提供されていなくても気付かれにくい」という側面があるのです。でも,多くの医療者は気付いているはずです。「もう少し何とかできたんじゃないか」と。

 人類の歴史上,未曽有の超高齢社会を現在進行形で経験している日本において,高齢者救急診療をスタンダードなものにすることは喫緊の課題であることに疑いはありませんが,それを教えてくれる指導医はどこにでもいるわけではありません。その若き医師たちの違和感,不全感を払拭(ふっしょく)するために登場したのがこのマニュアルです。

 老年医学のトレーニングにはそのための時間と環境が必要です。そのどちらも「すぐに手にすることのできない」若き医師には,明日からできる行動変容こそが必要です。「十分な知識や経験がなくても,スタンダードな診療を,まずは体で覚える」ことが必要なのです。そのためのこの一冊。時間に制限のあるERセッティングで,「PART 1にざっーと目を通しながらこのマニュアルに沿ってアプローチする,そしてPART 3に目を通しながら入院/帰宅へとつなげる」を繰り返してみてください。いつの間にかスタンダードな高齢者救急診療を体で覚えている自分に気付くはずです。

 救急に出る初期研修医,夜間自分が一番上になる専攻医,救急で指導に当たる指導医の先生方,このコンパクトな一冊をポケットに入れてからERに向かうべし! 明日からの高齢者救急診療が楽しみになることでしょう!

B6変型・頁298 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04182-9


QOLを高める
認知症リハビリテーションハンドブック

今村 徹,能登 真一 編

《評者》網本 和(東京都立大教授・理学療法学)

認知症の対象者や家族に「寄り添う」ための必読書

 あまたある高次脳機能障害の中でも「認知症」ほど,その理解と対応に難渋するものはないというのが評者の正直な印象です。これまでの評者のグループが行ってきた研究でも,対象の選択基準には重度な「認知症がないこと」とする場合がほとんどで,真正面からこの課題に向き合ってきたわけではありません。しかしながら,本書の編著者が述べているように高齢化社会の進むわが国では,「認知症に対する治療法の開発や社会の環境整備が喫緊の課題である」という認識は多くの関係者が共有していることと思います。

 このような切実な危機感を背景として,今村徹先生,能登真一先生によって本書が上梓されたことは大きな喜びであり福音というべきものです。本書は,第1章「認知症の基礎知識」,第2章「リハビリテーション評価」,第3章「リハビリテーションアプローチ」,そして第4章「QOLが向上した症例紹介」から構成されています。例えば,第1章では「認知症とは」の項で,一般人が陥りやすい認識である「ぼけ」=認知症ではないことが明確に定義され,続く「認知症の診断」の項では,症状,病因,障害の診断について平易に解説されています。第2章では評価について詳説されており,「評価の枠組み」の項では,認知機能面の評価と行動面の評価に大きく分けられることが指摘され,評者のような初学者にとってもわかりやすいフレームが示されています。第3章では治療アプローチについてまとめられており,特に「非薬物療法とそのエビデンス」は,認知リハビリテーション,学習療法,運動療法,言語リハビリテーションについて具体的な手続きの紹介を交えて示されています。「運動療法(筋力トレーニング,有酸素運動)」の項では行動変容を基盤とした方法が紹介されていて,評者は理学療法士ということもあり大変興味深く読ませてもらいました。第4章の症例紹介では,アルツハイマー病,脳血管性認知症,レビー小体型認知症が例示されています。これ以外に,本書の随所にちりばめられた物盗られ妄想,ユマニチュードなどといった「column」も,わかりやすいイラストと相まって読者の理解を助けるものと思います。

 評者が長く臨床で勤務していた聖マリアンナ医大の元学長であり,わが国における「認知症」研究の泰斗であった長谷川和夫先生は,後年自らが「認知症」であることを告白し,そのインタビューにおいて「認知症になった自分とそうじゃなかった自分には,そんなに大きな差がない。連続性がある。だから,認知症の人に接するときは,自分と同じ人だと思って接したほうがいいと思う」と述べています。この発言に関連して本書の序には,「そうであるなら(中略)われわれ専門職が対象者や家族の心配を取り除き,見えている景色が決して消えることがないように寄り添っていく」という決意が掲げられているのです。

 良質でわかりやすい本書は,「寄り添う」ことへの心強いハンドブックであることを確信しています。

B5・頁200 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04162-1


緩和ケアレジデントの鉄則

西 智弘,松本 禎久,森 雅紀,山口 崇,柏木 秀行 編

《評者》山本 亮(佐久総合病院佐久医療センター緩和ケア内科部長)

緩和ケア現場で使えるカードを手に入れるために

 最近はマニュアル本が大流行である。医学部に通う息子のアパートの本棚を見ても,教科書ではなくマニュアル本的な参考書がずらっと並んでおり,それで勉強をしているようだ。

 でも私はマニュアル本が好きではない。フローチャートやリストを見て解決できることなんて,そんなにたくさんあるわけではないし,医療,特に緩和ケアの領域では,マニュアル的ではない判断を求められることも多いと思っているからだ。そんな中,医学書院から『緩和ケアレジデントの鉄則』という本が送られてきた。帯にはご丁寧に「“これだけはおさえておきたいこと”を一冊にまとめました」とある。

 「また流行のマニュアル本か~」,そう思いながら本書を開いて読み始めると,マニュアル本のようでいながら,それでいて内容としては単なるマニュアルではなく,理論や考え方の道すじ,エビデンスなどもコンパクトにまとめつつ,具体的な方法や患者や家族への説明の仕方までも含められた,まさにかゆいところに手が届くものであった。

 緩和ケアは決してマニュアル的な対応だけで実践できるものではない。しかし,自分の中にこんな時にはこのようにすれば良いという治療やケアのカードがなければもちろん対応することはできない。数枚しかカードを持っていなくても,なんとか対応することができるかもしれない。しかしたくさんのカードを持っていて,そのカードを状況に応じてうまく使っていくことができれば実践の幅は格段に広がる。緩和ケアにおけるさまざまな場面で使うことのできる自分の手持ちのカードを増やしていくことに,また既に持っているカードをより使えるカードにするために,この本はとても役に立つ一冊と感じられた。

 ボリュームも多過ぎず,症例ベースで記載されているため,テンポよく読み進めることができる。実際に困った時に開く一冊というよりも,当直の夜の隙間時間などに読みものとして通読しておくことをお勧めしたい。特に「IV.終末期」や「V.コミュニケーション」の部分は,あらかじめ読んでおくことで,いざという時に焦らずに,この本で手に入れたカードを使って対応することができるのはないだろうか。

 マニュアル本が好きな人も私のように好きでない人も,レジデント医師も医師以外の職種の方も,ぜひこの本を手に取って読んでみていただきたい。きっと緩和ケアの現場で使うことのできる価値あるカードを何枚も手に入れることができ,自信を持って診療に当たることができるようになるであろう。

B5・頁250 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04128-7


精神神経症候群を読み解く
精神科学と神経学のアートとサイエンス

吉野 相英 監訳
高橋 和久,竹下 昇吾,立澤 賢孝 訳

《評者》池田 学(阪大大学院教授・精神医学)

さまざまな症候群を最新の技術と知見で読み解く

 本書の編者であるJulien Bogousslav sky先生は,著名な神経学者であり神経症候学の歴史にも精通しておられる。また,私の師匠である故・田邉敬貴愛媛大教授のローザンヌ大留学時代からの友人であり,当時から神経精神医学分野に大変造詣が深いことで知られていた。

 周知の通り,精神医学と神経学が完全に分かれたのは比較的最近であり,わが国で日本臨床神経学会が設立されたのは1960年である。そもそも,日本精神神経学会は,1902年設立当時は「日本神經學會」であり(1935年に日本精神神經學會に改称),学会誌である精神神経学雑誌は「神經學雑誌」という名称であった。精神分析学の祖であるSigmunt Freudはウィーンでは神経細胞や失語症を研究していたが,パリの神経学の父Jean-Martin Charcotのもとに留学してからヒステリーの研究と治療法開発に邁進したことはよく知られている。また,本書で詳述されている否定妄想を中心とするCotard症候群を報告したフランスの精神科医Jules CotardもCharcotに師事している。

 学問の進歩と専門性の確立によって,精神医学と神経学が臨床医学として完全に分離独立した歴史は必然であったかもしれないが,高次脳機能にアプローチする脳科学の視点に立てば,(私見であるが)もっとも興味深く重要な症状は,両者の交差するあたりに集中しているように思われる。

 例えば,本書で解説されているCapgras症候群をはじめとする妄想性誤認症候群は,主に統合失調症を含む精神病圏の疾患で報告されてきたが,最近ではLewy小体型認知症などで活発に議論が進んでいる。また,相貌認知の研究から提唱された二重経路モデルなどさまざまなモデルで発症メカニズムの説明が試みられるようになり,神経基盤としては右半球(側頭葉と前頭葉)が注目されている。Diogenes症候群は,ゴミ屋敷症候群とも呼ばれ,ゴミだらけの不潔極まりない住まいに暮らし,異常なまでにゴミをため込みながら,自覚を欠く症候群で,一部のソーシャルワーカーや精神科医に注目されてきたものの,最近は単身高齢者が急増し,一般的な住宅街でゴミ屋敷に遭遇することもまれではなくなっている。主に若年患者を対象にしているとはいえDSM-5に「ためこみ症」が新たに登場したこともあり,あらためて注目を集め始めている。高齢の場合は認知症(前頭側頭型認知症やアルツハイマー病)を伴うことも多いが,原発性(該当する精神疾患も神経疾患もない)の場合も多く,なお多角的な検討(心理・社会・生物学的アプローチ)が必要と思われる。

 本書が扱っている領域は,欧米ではNeuropsychiatry and Behavioral Neurologyといった名称で呼ばれており,国際学会も存在する。国内では日本神経精神医学会(川勝忍理事長)が相当する。従来から注目されてきたさまざまな症候群や症状を,現代の脳科学や神経画像の最新の技術と知見を組み合わせて,あらためて検討できる時代に入ったことを,本書が明確に示しているように思われる。吉野相英教授(防衛医大精神科学)と教室の先生方の読みやすい日本語訳と数々の美しい図版と一緒に,楽しんでいただければ幸いである。

B5・頁256 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04232-1

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