医学界新聞

寄稿 萱間 真美

2020.07.27



【視点】

COVID-19に対応する医療者支援のリモートガイドライン開発

萱間 真美(日本精神保健看護学会理事長/聖路加国際大学大学院教授・精神看護学)


 世界で蔓延するCOVID-19は,多くの人の生命や生活を脅かしています。人と人とが顔を合わせることが,支援ではなく危険だといわれた時,それでも支援を必要とする状況が目の前にある場合,メンタルヘルス支援をどのように提供できるかは,大きな課題です。

 医療職は,最前線で感染管理のために個人防護具をつけて長時間働くことによる肉体的な負担,緊張,強い不安,不眠等の困難を抱えています。また,感染のリスクがあることにより差別を受けるなどの社会的不利の被害を受ける可能性が高く,心理的ケアを提供すべき優先度の高い集団と位置付けられています。しかし,医療機関は面会制限を含めて外部からの訪問者を制限せざるを得ず,医療者はメンタルヘルスのサポートを受けにくい状況にあります。そこで注目されているのが,リモート(遠隔)による支援です。

 日本精神保健看護学会は,精神看護学の実践・教育・研究に従事する約1500人の会員で構成されます。これまで起きた大きな災害の折には,多くの学会員が心のケアに当たった経験を持ちます。東日本大震災を機に設置された災害支援特別委員会は「精神科病院で働く看護師のための災害時ケアハンドブック」を作成し,学会ウェブサイトで公開しました1)

 今回の感染症災害に際して,学会では4月中旬に心のケアに関するガイドラインや文献を集約した情報をウェブサイトに掲載しました。その後,複数の理事がメール相談によるメンタルヘルス支援に従事したところ,リモート支援のよりどころがないことに気が付いたのです。そこで急遽,本学会の社会貢献委員会は,医療職が組織外からリモートでメンタルヘルス支援を受けられるよう,「COVID-19の対応に従事する医療者を組織外から支援する人のための相談支援ガイドライン」の開発を担うことになりました。

 災害に遭った人々に提供する心のケアのよりどころとして,PFA(Psychological First Aid)があります。阪神・淡路大震災直後に翻訳されたPFAのガイドラインは,対面による支援を前提としています2)。しかし私たちに今回求められているのは,相手の表情もわからず,支援者の表情や声のトーンといった,支援に不可欠の非言語的コミュニケーションも使えない,メールや電話によるリモート支援なのです。そのためリモート支援に関するガイドラインの作成に当たって,どんな言葉の使い方が相手の心に届くのか,支援になるのかについてのエビデンスが必要でした。

 したがって本ガイドラインは,遠隔的な支援に当たる方々へのヒアリングや,作成途中の草稿に対するコメントを得て作成しました。メールや電話の応答例を掲載し,感染症への対応がもたらす社会的距離の拡大による孤独感や不安感といった心理的課題を扱っています。看護職者に対する看護職者からの支援という,共通性を認識させる者同士である可能性があるため,社会的包摂を意識したことも特徴です。

 今後も長期にわたって必要となるメンタルケアの遠隔サポートのシステム作りに,是非このガイドラインをご活用ください。

開発協力者:安保寛明,稲垣晃子,瀬戸屋希,高野歩,高橋葉子,増満誠,松枝美智子,光永憲香,山本智之,加藤寛先生,大沢智子先生

参考文献・URL
1)日本精神保健看護学会.精神科病院で働く看護師のための災害時ケアハンドブック.2015.
2)アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク,アメリカ国立PTSDセンター,兵庫県こころのケアセンター訳.サイコロジカル・リカバリー・スキル実施の手引き.2011.


かやま・まみ氏
1986年聖路加看護大(当時)卒。98年東大大学院医学系研究科博士課程修了。東京都精神医学総合研究所主任研究員,東大大学院助教授を経て2004年より聖路加国際大大学院教授。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook