医学界新聞

寄稿 田中 智大

2020.06.08



【視点】

日本の医師免許を用いて海外で臨床医になるキャリアパス

田中 智大(米アイオワ大学医学部消化器肝臓内科 助教授)


 海外臨床研修といえば米国――。この図式は多くの日本人医師にとって,なじみ深いものかもしれません。しかし,米国の他にも自国以外の医学部を卒業した医師を受け入れている臨床研修プログラムは,欧米・オセアニア各国に複数存在します。その一つであるカナダでは,一般に当地の医師国家試験(MCCEE/MCCQE)に合格し,レジデンシーを経て独立あるいはフェローシップに進むのが正規ルートとされています。ただし,ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)を取得して米国のレジデンシーにマッチすることと比べ,カナダの正規ルートは競争率がさらに高いようです。

 その一方で一部のカナダの大学病院は,専門性の高い分野に限り,MCCEE/MCCQE取得を介さずとも外国人医師に臨床研修(専門フェローシップ)を提供するという希少かつ特徴的な制度を持っています。しかしながら,カナダの制度については書籍化された情報は乏しく,主にウェブが情報のソースとなります(註1)。

 まずはターゲットとなるプログラムにメールを送ることから始めます。その後,書類審査(履歴書とPersonal Statement)を経て,いくつか面接に招かれます(私の場合は電話面接でした)。内容は自身の業績についての質疑応答が中心です。最低限の英語の準備をしておくとよいでしょう(私は面接前の1か月間,オンライン英会話を利用しました)。そして,各プログラムによる選考過程の末にポジションの内定を得るに至れば,あとは母国日本の認定医/専門医資格と英語資格試験(註2)を要求されるのみです。

 消化器肝臓内科の後期研修を終えた医師6年目の夏,私はこの制度を利用してオンタリオ州にあるトロント大学の肝移植内科臨床フェローになりました(註3)。ひたすら重症肝疾患の診療と肝移植術前術後の管理を学ぶ2年間でした。最初の3か月は試用期間(Pre-Entry Assessment Period:PEAP)として扱われ,評価が極端に低い場合その後の研修を認められないことがあるので,初日からある程度機能しないと解雇の危機にさらされます。日本人医師はその勤勉性を評価され,英語や病院文化の違いなどのハンディを上手く克服していた印象があります。

 なおこの制度のうち,多くのプログラムが北米各学会の認定(Accreditation)を受けていないことには留意しておくべきかもしれません。しかしこれは,そもそもの目的である専門性の高い臨床トレーニングを母国に還元するという趣旨を理解していれば腑に落ちるところです。私の場合,カナダでの臨床経験を間接的に評価され,ECFMG未取得にもかかわらず米国で肝移植内科医として働く機会を得ました。カナダでの臨床研修は苛烈な当直をはじめ大変タフな毎日でしたが,たとえ留学前に時を戻したとしても,私は全く同じ選択をしてしまうと思います。

 医学生の時には見えなかったキャリアパスを求めてみるのも悪くないと思います。一通のメールが,新しい景色につながっていくかもしれません。

註1:CPSO(The College of Physicians and Surgeons of Ontario)とトロント大学のリンクをたどれば,オンタリオ州での臨床留学に関する基礎的事項は相当分網羅できる。
CPSO:https://bit.ly/2WSJ8Pb
トロント大学のフェローシップの一例(他科にもほぼ同様の要綱が適用される):https://bit.ly/2yUbyjS
註2:基本的に,オンタリオ州ではTOEFL-iBTで93点以上,アルバータ州,ブリティッシュコロンビア州であればIELTS全セクション7.0以上が求められる。
註3:消化器内科では他に治療内視鏡,炎症性腸疾患,臨床栄養の専門研修プログラムがある。


たなか・ともひろ氏
2005年名大医学部卒。医学博士。武蔵野赤十字病院などを経て10年カナダ・トロント大消化器内科クリニカルフェロー。帰国後,東大病院などを経て,15年より現職。19年より同大肝移植プログラム内科副部長,国際肝移植学会Vanguard committeeメンバー。
(Twitter ID:@TomoTanakaLTx

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook