医学界新聞

2020.05.11



Medical Library 書評・新刊案内


医療者のためのExcel入門 第2版
超・基礎から医療データ分析まで

田久 浩志 著

《評者》濱岸 利夫(中部学院大准教授・理学療法学)

「こんな便利な機能があった」Excelをマスターするための必携書

 「医療者のためのExcel入門」とタイトルにあり,サブタイトルには「超・基礎から医療データ分析まで」とある。そのため,「Step1 Excelに慣れよう 基本操作編」から始まる。

 読者が少しでもパソコンやExcelの操作に慣れていれば,Step1には見向きもしないで他のステップへ進んでしまうかもしれない。しかし,私はStep1から目を通すことをぜひともお勧めする。具体的には,私たちがExcelの操作時に「間違えやすい文字(表1-2)」が列挙してあり,「編集操作でよく使うショートカット(表1-3)」も表にまとめてある。Step1を読んで理解すれば,データ入力時あるいは分析時,セルに数値を入力したはずが,思ったように計算できないことにイラついたり,大量のデータ処理時に煩わしさを感じたりすることを避けられるかもしれない。

 そして,初版からある「データ入力が楽になる裏ワザ」(pp.37-44)は必見である。今回,私もじっくりと目を通してみると,例えば,Ctrl(セミコロン)で,「現在の日付を入力します」とあるので,実際に入力してみると日付が表示されるので驚いた。同様に,Ctrl(コロン)で,「時刻が入力される」ことを確認し,こちらも時刻が表示できた。これだけでずいぶんと得をした気持ちになる。このようにキーボード操作で得られる「お得感」も随所にある。

 さらにStep2は,読者が練習用データ(医学書院Webサイトから入手可能)を使いながら情報処理を練習できるようになっており,テキストを読み進めながら一人でも学習する工夫がされている。

 またStep3は,グラフの作成について記載されており,WordやPowerPointへの貼り付け方の形式も詳しく解説されている。一読すれば,グラフをうまく貼り付けることができる。

 本書の中で,私が最もお勧めしたい内容は「Step4ピボットテーブルを使ってみよう 集計とグラフ応用編」である。ぜひとも熟読していただきたい。そこには「ピボットテーブル」というキーワードがあり,耳慣れない方がいるかもしれない。ただ,一度使い始めると,その便利さを実感できる。特にExcelシートのデータからクロス集計表を作成する作業の上ではマスターしておきたい。「データから一瞬でクロス集計表を作成するテクニックね……」とご存じの読者もいるかもしれないが,もし,初めて聞く読者であれば,ぜひとも試してみることをお勧めする。もちろん,ピボットテーブルからすぐにグラフも作成することができ,その操作についても詳しく記述されている。私も著者から教わったとき,最初は驚いた。それ以降,何度もクロス集計表やグラフ作成に役立っている。「Excelには,こんな便利な機能があったのだ……」と当時の記憶が今でも残っている。

 初心者だけではなく,Excelを使い慣れたベテランにもぜひお薦めしたい。

B5・頁184 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04079-2


精神疾患をもつ人を,病院でない所で支援するときにまず読む本
“横綱級”困難ケースにしないための技と型

小瀬古 伸幸 著

《評者》生田 真衣(訪問看護ステーション和来・作業療法士)

地域での支援をする中で迷った時に読みたい本

 本書を通して読むと,浮かび上がってくるキーワードがありました。それは,「利用者の主体性」です。主体性とは,暮らしの中で自らの「権利」と,それに伴う「責任」の両方を持つという在り方です。

 病院では病の治療が優先されるため,社会人として当然持つべき「権利」や「責任」はいったん保留にされます。しかしいざ退院して地域で生活するとなれば,それらは再び本人に返されなければなりません。

 本書には,さまざまな横綱級ケースが出てきますが,地域に住む彼らに対して小瀬古伸幸氏がどのような技と型を用いて本人に「権利」や「責任」を返していき,「主体性」を獲得させていったかが,ハラハラするようなストーリー展開で解説されています。

 「主体性」というテーマに触れた時,私には思い出されたクライアントが1人いました。うつ病があり引きこもっていた女性です。

 「同世代は仕事をしていたり,結婚して家庭を持っていたり,皆自分の生き方をしている。それなのに自分は……」と他人と比較して彼女は焦りと葛藤を抱えていました。私が訪問している間は,「話をし,作業するのが楽しい」と言いますが,その言葉には空疎さが漂います。「好きに使えるお金もなく,友だちと呼べる人もいない」と嘆くこともあり,たまに「仕事をしたほうがいいんでしょうね」と話すこともありました。そこで彼女が動き出すきっかけになればと,近隣のB型事業所への見学を手配し体験に同行したりしましたが,「障害がある人の中で私が仕事をするのは違うと思う」と言い,中断してしまいました。何回か同じようなことが繰り返され,私もついに通所を促すのをやめてしまいました。ただ,私が訪問すると,「何のために生きているのかなって」「死ぬ方法をネットで探してました」と話すことも増え,これからどうしたらよいのかと私自身も自問する日々でした。ご家族は,仕事をするまでに至らなくてもいいから,穏やかに生活してもらいたいと話していました。

 ある日,彼女が家族の知人と話す機会がありました。その人は医療者ではありませんでしたが,彼女の生い立ちや状況を丁寧に聞き,一般的な視点からのアドバイスをしてくれたといいます。

 するとその日以来,彼女自身の思考が少しずつ前向きに変容し,どう生きたいのかを考えるようになっていきました。長期的な目標を自分で立て,以前は拒否していたB型事業所についても「今の自分はここから始めて体力をつけないと普通に仕事はできない」と話し,自ら施設とやりとりをして通所を開始しました。「数年後には一般就労をめざしたい」と希望を持つようになり,訪問する私に「自立して生活できるようになったら,友だちとして会いたいです」と笑顔で言ってくれるまでになりました。

 彼女が変容するきっかけを作ってくれたその家族の知人は,いったいどのように彼女の気持ちに寄り添い,本人がどうしたいのかをうまく導き出せたのでしょう。それは想像するしかありませんが,私も含めた支援者が,ともすると「症状再燃や再入院を防ぐ」ことを優先し,落ち着いた生活を送ることを良しとしがちな時に,「主体性」を持つことが人として当たり前というスタンスで接したことが彼女の背中を押して,自分の人生を自分で決める権利と,それに伴う責任を理解した上で,自己決定していけたのかもしれません。

 今後も私は訪問支援を続ける中で,展開に迷った時は,きっとこの本を開くと思います。そのたびに,「主体性」が地域の基本であることを思い出し,それに向けて一緒に踏み出す勇気を持てるように思うからです。

(『作業療法ジャーナル』54巻4号より)

B5・頁184 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03952-9


シリーズ〈栄養と疾病の科学〉1
摂食と健康の科学

高田 明和 編

《評者》後藤 信哉(東海大教授・循環器内科学)

健康番組は多いけれど意外に知らない「摂食と健康の科学」に期待の新刊!

 家内と二人暮らしになって番組の選択に「健康番組」が増えた。子どもが巣立った高齢者の増加を反映してか,ゴールデンタイムは「健康」番組ばかりである。「○○を食べると□□にならない」など「摂食と健康」をテーマにした番組が多い。「納豆」,「ニンニク」,「みかん」,「かき」など多様である。テレビのインパクトは大きく,良いと放映された食材は翌日は品薄になるらしい。

 視聴者の大きな興味にもかかわらず科学的文献に基づいた番組は少ない。もともと「摂食と健康」は世界人類共通の課題であるが科学的研究も少なかった。今は欧米の一流の科学雑誌に精密な臨床的研究が多数発表されるようになった。評者が編集している循環器内科の世界一流雑誌『Circulation』でも食材に事前に追加される食塩の問題,ビタミンDと心不全の関係など重要な論文が最近発表されている。興味深い論文であっても英語論文なので番組作成のディレクターのアクセスは容易ではないと思われる。番組が興味本位に作成され,十分な科学的根拠が示されていないと批判するのは容易であるが,視聴者や番組ディレクターが容易にアクセスできる日本語書籍を作ってこなかった研究者の怠慢も問題ではあった。また,コメンテーターとして番組に参加している医師,研究者も幅広い「摂食と健康の科学」の知識を有していない場合も多い。

 今回,社会の強い要請に応じて『摂食と健康の科学』が出版された。本書は「栄養と疾病の科学」シリーズの1巻である。編集者である高田明和教授は,評者の尊敬する血栓止血学の泰斗である。「摂食と健康」の研究の第一人者である。冊子は寝転んで通読できるサイズである。ペーパーバックで携帯できる。学者,研究者には「摂食と健康の科学」の最適の入門書と推薦できる。「摂食と健康」が仕事に直結する医師,医学生,栄養士,栄養学部生にはぜひ読んでほしい。医食同源とされながら,日本には医学者が読むべき「食と健康」の書籍がなかった。本書が生まれてよかった。

 本書の特徴は学術書であっても読みやすいことにある。「食と健康」に関する番組を作るディレクター諸氏にはぜひ読んでいただきたい。各章の著者に番組のアドバイザーを依頼する価値もある。番組で意見を述べるタレントの皆さん,ご多忙でしょうが,ご発言の前に本書をお読みいただきたい。医師,医学部学生には必読の書籍と思います。

 本書は移動中の通読も可能な読みやすさだ。一般の皆さんにもぜひお読みいただきたいと思う。また,今後引き続き出版される『血栓症と食』,『糖尿病と食』の巻にも注目してほしい。

A5・頁272 定価:本体4,500円+税 朝倉書店
http://www.asakura.co.jp

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