医学界新聞

患者や医療者のFAQに,その領域のエキスパートが答えます

寄稿 木村 大輔

2020.04.06



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
6ステップで支える理学療法の臨床実習

【今回の回答者】木村 大輔(川崎医療福祉大学理学療法学科講師/川崎医科大学附属病院理学療法士)


 理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則の改正に伴い,理学療法の臨床実習は大きな転換期にあります。1つの大きな変更点は,症例レポート作成を実習時の必須課題としなくなったことです。症例レポートはこれまで臨床実習の中で臨床推論や思考過程の整理の点で,一定の役割を果たしてきました。そのレポートを用いず指導者はどのように理学療法の流れや臨床思考過程を学生に指導するのか,われわれはいまだ明確な答えを持っていません。そこで,これまで体系立てられることなく,口頭で伝えられることが多かった理学療法プロセスを体系化し,その指導法について考えてみました。


■FAQ1

理学療法の臨床実習で推奨される臨床参加型実習では,さまざまな段階にいる患者さんを診ることになります。理学療法の全体像をイメージできるようになるために,指導者が気を付けたいことは何でしょう?

 臨床参加型実習には見学(解説しながら実践してみせる)→協同参加(評価や治療を学生にさせてみてフィードバックを与え修正する)→監視(患者へ実施可能と判断したら,監視下で学生にトライさせる)の学習段階があります。運動スキルでこのような学習段階を意識して指導することは一般的になりつつありますが,認知スキルも事前に説明してから学生に協同参加させることが望ましいのではないでしょうか。

 理学療法の全体像を説明するためには,指導者はあらかじめ理学療法の流れを体系立てておく必要があります。ここでわれわれが考えた6ステップ1)を紹介します。

 理学療法の流れを①事前準備,②目標の抽出,③仮説の立案,④問題点の抽出と優先順位の決定,⑤治療プログラム立案・実施,⑥効果判定・今後の方針の6つに分けました(図1)。この6つが各ステップの学習目標となります。さらに各ステップを左から,A.臨床場面で指導者の監視下で実施する項目(理学療法技術),B.学生が自身の責任のもと学習しないといけない項目(自己学習),C.自分で考えた内容を指導者に相談し理解しなければならない項目(思考)の3つに分けました。

図1 理学療法の6ステップ(文献1改変)(クリックで拡大)

 臨床参加型実習では,学生が1人の患者さんを入院から退院まで診ることができない可能性があります。そのような場合には,指導者が担当している患者さんの状況(6ステップのどの段階にあるか)に合わせて,そのステップごとに学生を指導すると,学生が全体像を把握しやすくなると考えます。

Answer…指導者はあらかじめ理学療法の流れを体系立てておく必要がある。また,指導者がやるべきこと,学生がやるべきこと,学生と一緒にやるべきことを分けて,学生と共通認識を持つとよい。そこに6ステップが有用。

■FAQ2

医師の処方を得て,まず学生にすべきアドバイスは何ですか?

 「医師の処方を得て」ということですので,ステップ1に当たります。まず指導者が学生に与えるべき情報は,処方箋の情報とカルテの情報です(図1の「医師の処方を確認」「医学的情報の収集」に対応)。学生は収集した情報からわからないことを自分で調べる必要があります(同,「疾患の基礎知識を確認」に対応)。

 しかしカルテや処方箋を見ても,ほとんどの学生には注目すべき情報がどれか,何の役に立つかわかりません。学生に向き合う皆さんへのアドバイスの1つ目は,情報処理の優先順位を付けてあげることです。具体的には,疾患名,既往歴,発症時期,理学療法実施時の安静度,リスクをまず確認するように指導するとスムーズにいきます。

 2つ目はどのような手順で調べるかを教えることです。基本的には,教科書→ガイドライン→日本語論文→英語論文の順になるかと思います。臨床参加型実習ですので,学生が調べることができなかった疑問に関しては,指導者が把握している情報や,教科書,文献を具体的に提示してあげる必要があります。また学生は1冊の書籍の情報に満足しがちですので,複数の書籍の情報を統合してみせることも大切かと思います。

 3つ目は得た情報がどのように理学療法に役立つかを示すことです。例えば疾患名や既往歴は疾患に基づいた評価項目を挙げるために役立ちますし,安静度や術式などリスクに関する情報は評価方法・手順,介助方法を考えるために必要です。

Answer…情報の優先順位,調べ方,理学療法への役立て方をアドバイスする。これらを段階付けて提示する。

■FAQ3

リハチームや患者さんに適切な目標設定を説明する際に学生に持たせたい視点はありますか?

 学生は目標の設定方法がわかりませんので,目標設定は「疾患に基づいた一般的評価」「主訴や社会的背景の聴取・チーム方針の確認」と「予後に関する情報」から考えるということをまず教える必要があります(ステップ2に該当)。

 次に他者に説明するためには理由や根拠を述べるべきだと意識させる必要があります。これはEBPT(Evidence-based physical therapy)の基礎になります。しかしこれは難問です。解決策として6ステップでは,ロジカルシンキングのモデルの1つであるトゥールミンモデルの概念(三角ロジック)を取り入れています。三角ロジックは図2のように底角にあるデータとワラント(論拠)が頂角の青色の部分,クレーム(主張)を成立させます。6ステップでは理学療法技術をデータ,自己学習をワラント,思考/学習目標をクレームとしています。つまり6ステップを想定すれば,学生が目標設定(クレーム)につまずいた場合,データかワラントのいずれか,またはいずれの情報も足りないという原因帰属となり,指導者は効率的で明確なフィードバックができます。

図2 三角ロジック(文献1改変)
トゥールミンモデルにおいて底角のデータとワラント(論拠)が頂角のクレーム(主張)を成立させる。理学療法の6ステップではデータを理学療法技術,ワラントを自己学習,クレームを思考(学習目標)として説明する。

 最後にSMART(Specific:特異的・具体的,Measurable:測定可能,Achievable:到達可能,Relevant:関連性のある,Time bound:期限のある)2)にのっとって数値化できれば目標設定のできあがりです。この部分は指導者の腕の見せどころだと思います。

Answer…理由や根拠を示して患者さんやリハチームに説明する視点を持たせる。可能であればSMARTを用いて具体的に数値化を行うことが望ましい。

■もう一言

 6ステップと各役割を頭の中で想定しておけば,学生に指導内容を明示し,指導することは意外と面白そうだと感じていただけましたでしょうか。データとワラントは臨床と研究の関係にあります。6ステップで指導を行えば,卒業後も学生がこの両輪を大切にしてくれると期待しています。

 学生指導における最終ゴールは学生自らが自己評価を行い,それに基づき自己研鑽できる能力を育てることです。6ステップは学生にとっては学習方法を学ぶツールであり,指導者にとっては学生の能動的な学習を促すツールです。『6ステップで組み立てる理学療法臨床実習ガイド』(医学書院)では,理学療法プロセスの体系化だけでなく,「説明可能な理学療法」をめざし,「論理性」の概念を取り入れながらも,平易に対話形式で解説を行っています。ぜひ,学生・新人理学療法士の指導にご活用いただければ幸いです。

参考文献
1)木村大輔(編).6ステップで組み立てる理学療法臨床実習ガイド―臨床推論から症例報告の書き方まで.医学書院;2020.
2)Clin Rehabil. 2009[PMID:19237435]


きむら・だいすけ氏
2008年川崎医福大リハビリテーション学科卒。10年に大阪府立大大学院博士前期課程,15年に阪大大学院医学系研究科博士課程(運動制御学)修了。同年より川崎医福大助教。18年より現職。編著に『6ステップで組み立てる理学療法臨床実習ガイド―臨床推論から症例報告の書き方まで』(医学書院)。

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