医学界新聞

2019.11.25



Medical Library 書評・新刊案内


看護現場学への招待
エキスパートナースは現場で育つ 第2版

陣田 泰子 著

《評者》西村 ユミ(首都大学東京教授・成人看護学)

自分が大事にしている看護とは何か?

 「もう一度伝えたい」「むしろ伝えなければ」。本書は,著者のこの強い意思の下で,第2版として出版された。伝えたいことは,「同じ道をひと足先に歩いてきた者として,経験を通して“感じて”,“思って”,“考えてきた”こと」,これらを学ぶ方法だ。それは著者の,看護職としての人生が濃縮された,いわば看護実践の知恵であり,「確かな手応え」から創出された「看護現場学」である。

 現場学は著者の経験から始まる。日に何度も「死にたい」と訴えたALS患者が,「ツラクテモ イキテイタイ」,「(いまが)いちばん しあわせ」とまばたきで言葉を紡ぐ,それを支えた10余年の「静かな変革」の実践。24時間,365日,何があろうと患者のそばで行われ続けた日常を支える看護は,その患者の生を支えた。病院のシステムダウンというトラブルが起きたとき,「師長会を中止して,困っている患者さんのいる外来へ応援に行く」。このときの,師長たちの臨機応変で自在な「アメーバ」のような動きは,病院の混乱を最小限にとどめた。「ひとりひとりの“ひと”が,共通の目的に向かったとき,メンバーは連帯」し,生きものとしての組織となる。

 病院には,「患者さんに選ばれる看護師」がいる。「エネルギーをもったチーム」が機能する。これらの経験にこそ,看護の“ナレッジ”(知識)が埋もれている。だから,経験を概念化しそれを伝達することが重視されたのだ。この概念化は,実践の外側にいる者ではなく,ナース一人ひとりが自らの経験に基づいて帰納的に行うことに意味がある。経験したことを自分なりに言葉にして伝えられて初めて,エキスパートナースになるためだ。そして,看護実践の概念化と実践との往復は,良質な看護を作り,秘めた潜在力を開花させ,看護のやりがいと喜びを手に入れさせる。

 この第2版では,帰納的にナレッジを生み出す複数の方法とその実践例が示されている。著者の所属施設で,他の複数施設で,この方法としての「ナレッジ交換会」や「内発的発展学習」が試みられ,知の共有と交換が実現した。その知は,地震による被災時に地域を救った。看護現場学は既に検証されている。

 看護現場学のバックボーンには,鶴見和子の「内発的発展論」があるという。鶴見の,外から,外国から導入した理論に基づくのではなく,内から,日本の人々の暮らしの中から理論を形成しようとする発想は,現場から,看護師たちの経験からそれを概念化しようとする著者のそれと重なる。著者は,鶴見の理論に学んだというが,その萌芽は既に著者の内にあった。その言語化を支えたのが鶴見だったように思う。

 鶴見との共鳴が作り出した本書は,すごい迫力で読み手に語り掛けてくる。自分が大事にしている看護とは何か? と。その問い掛けは,私に,30余年前の経験を脳裏に浮かび上がらせ,その意味を自問させた。この衝撃を多くの読者に伝えたい。

B6・頁240 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03813-3


医療職のための症状聞き方ガイド
“すぐに対応すべき患者”の見極め方

前野 哲博 編

《評者》村上 礼子(自治医大看護師特定行為研修センター教授・成人看護学)

「治療に係る医療職」の診る力の養成に生かせる!

 さまざまな医療現場で,多種多様な症状を訴える患者・利用者,家族は増えています。これらの現場で最初に患者・利用者,家族の訴えを耳にするのは,看護師であり,医療福祉職でしょう。多種多様な訴えから,その緊急性や重症度を適切に判断し,タイムリーな治療につなげるには,ある程度の訓練が求められます。多種多様な訴えに対して,思い付きでの情報収集や,経験に頼った場当たり的な情報収集では,適切でタイムリーな治療につなげるための情報を的確に得ることは難しいでしょう。

 2015年度から開始されている特定行為に係る看護師の研修制度では,これらの訓練も含め研修を行っています。研修を修了した看護師が,医師が不在になる状況もあるさまざまな医療現場において,症状アセスメントを的確に行うことで,多くの患者・利用者,家族が,病気を抱えていても,重症化を予防しながら,地域で安心して生活できるようになると期待されています。

 本書の中で「各職種の養成課程において,患者の訴える症状に対して論理的・体系的に病歴情報を集めて,臨床推論に基づいて判断を下すトレーニングは,十分に行われているとはいえないように思います」と指摘されているように,これまでの看護職の養成課程では,症状アセスメントの訓練は十分ではありませんでした。本書は,典型的な19症状に対して,情報収集を4段階に細分化し,「全症候に共通する情報」「症候ごとに共通する情報」「個別に収集すべき情報で定型化できるもの」を抽出してマニュアル化し,医療職が確実に得るべき情報をチェックリストとして提示しています。また,得た情報をどのように医師に伝え,連携して対応していくことが望ましいか,実践例も示しています。症状アセスメントの実践的なトレーニングにとても有効な内容です。

 言語化される症状はもちろん,言語化できない訴えにも気付くことが求められる「治療に係る医療職」として,診る力を養わなければいけない皆さんには,ぜひ一度手に取ってほしい書籍です。そして,「否応なく症状への対応を迫られる現場において,患者の問題を素早く的確に評価し,円滑なチーム医療のもとで適切なマネジメントにつなげること」を共にめざしていきましょう。

B5・頁152 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03695-5


学習指導案ガイダンス
看護教育を深める授業づくりの基本伝授

池西 靜江,石束 佳子,藤江 康彦 著

《評者》水戸 優子(神奈川県立保健福祉大教授・基礎看護学)

ベテラン教員脱帽! 新時代の授業づくり必見ガイド

 近年,看護教育の授業設計や指導案づくりの書籍をよく見掛けるようになった。その背景には,2012年(平成24年)の文科省中央教育審議会答申で謳われた「教育の質の保証・向上」「主体性・考える力育成」が看護教育の現場にも強く求められるようになった一方で,看護教員側の教育力・指導力不足が,国の看護基礎教育検討会等の場で指摘され続けているためであろう。

 本書評を依頼され,手に取っていざタイトルを見たときには,「新人看護教員向けの本なのだろう。わかりやすさがポイントかな……」などと勝手に決めつけていた。ところが,実際に読んでみるとその先入観は相当に裏切られ,かつ脱帽した。これは,新人教員に向くだけではない。むしろ中堅・ベテラン教員が読むべき本だと思った。本書には,著者らの教育哲学や教育の技・こつがわかりやすく端的な言葉で述べられているだけでなく,これから先10年を見通した授業づくりのポイントが紹介されている。まさに「看護教育を深める授業づくりの基本伝授」である。

 また,序章として「授業とは何か」が設けられ,「学習指導案とは……」といった,基礎の基礎といえる用語解説から始まっている。それらの定義は平易な言葉で貫かれ,かつ重要な特徴だけを残してコンパクトにまとめられている。だから新人教員にとっても理解しやすい。学習指導案づくりの項には,「三観(学生観・教材観・指導観)を整理してその関連を意識するとよい。書き方にこだわる必要はない」と述べられている。著者らが,授業案づくりは表面的・画一的なお作法ではなく,教える人の哲学こそが重要であると考えていることが読み取れる。

 Columnが豊富に載っているのも本書の特徴である。そこに,教育のこつやヒントが満載である。その中の一つに「クラスにおいて最も目立たない学生に注目したい」とあったのには,「その通り!」と私も同感で,うなってしまった。

 また,学習指導案(三観,指導目標,指導計画,本時の指導案を含む)の例示・サンプルとして7科目,および,著者の工夫による(池西型)反転授業のワークシートの実例が,掲載されている科目全てについて,付録として収載されている。このワークシートがまた,学生が思わず事前学習したくなる仕掛けになっている。このように,基本知識と具体例が豊富にあるので,現場の教員にとって活用しやすく,かつ応用しやすくなっているのも特徴である。かつ,本書で示されている学習指導案の考え方は,伝統的で基本的なものである。ただ,その考え方を具体的な方法に落とし込んだ例示が,伝統的な一斉講義法ではなく,反転授業,協同学習,TBL,ディベートなど,新時代に求められるディープなアクティブラーニングの技法によって構成されていることにある。著者たちの不断の学びの成果であろう。さらに,第1章の締めくくりに「第5次カリキュラム改正で重要度が増す授業づくり」と記載されているのは,新カリキュラム改正の動きに大いに貢献されている著者ならではで,教育現場への激励だといえるだろう。中堅・ベテラン教員こそが刺激を受け,従来の自らの学習指導案づくりを見直し,新たな時代の授業づくりに役立てられるところも本書の特徴であり,授業づくりに携わる皆で読むべきと感じた大きな理由である。

B5・頁168 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03937-6


「家に帰りたい」「家で最期まで」をかなえる
看護の意味をさがして

藤田 愛 著

《評者》齋藤 訓子(日看協副会長)

療養者と家族の「生きる」を共につくる,看護の醍醐味を味わう

 著者の藤田愛さんは,高知県育ちの訪問看護師。慢性疾患看護のCNSでもあり,また医療経営も学んだ在宅療養を支えるセンターの所長さんです。本書『「家に帰りたい」「家で最期まで」をかなえる』はサブタイトルに「看護の意味をさがして」とあります。20年になる訪問看護の現場からリアルに看護を語っています。

 本書は藤田さんがこれまでに出会った療養者とその家族とのケアの中でのエピソードが描かれています。時に藤田さんの心の声,時に療養者の看護師に対する視線がありのままに語られ,そこには同業者として耳の痛いこともあります。例えば「患者のため……っていうけど……本当だろうか」,病院を退院した患者さんの言葉であった「病院の看護師は自分の聞きたいことだけ聞いている」など日々のケアで忘れてしまいがちな視点をやんわりと指摘しています。また時に発生する同業者(医師や看護師など)との見解の違いを見事に調整していく過程や多くの療養者とその家族との葛藤の中で藤田さんの看護が創造されていく過程が表現されています。そこには藤田さんの「療養者の思いをかなえる」という基本理念が徹底して貫かれています。近年,特に「アドバンス・ケア・プランニング」の考え方が広がってきていますが,意思決定の支援のありようが描かれているエピソードもあり,療養者とご家族など,関係者の本音を引き出す藤田さんのコミュニケーションスキルの高さがうかがえるとともに,どのような状況になっても最期まで生ききる療養者と家族の姿に人間が持っている力を思い知らされるばかりです。

 またカスタマーハラスメントにあった看護師をどのように守るか,どう対処するか参考になるシーンもあり,「なるほどそうか」と納得できる内容が含まれています。藤田さんが描く看護のエピソードを追体験し,考えさせられることが多くある書です。

 この書の中で描かれている多くのエピソードからわかるのは,看護は人間と人間との相互関係の中で成り立っていくという原点です。私たち看護者はその対象者との関係の中で学び,そして感動や満足を得ます。そうした忘れてしまいがちな原点を思い出させてくれる書籍であり,訪問看護を生業としている人や病院で働く看護師,介護施設で働く看護師,行政機関にいる保健師や看護の道を志す学生にもぜひ,読んでもらいたいと思います。一つひとつのエピソードが演習の教材になり得る事例となっていますので,看護者の養成機関の教員にもお薦めします。

A5・頁282 定価:本体2,300円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03699-3

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